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中止サーカス
『残念長らくお待たせ致しました。只今よりショウを中止致します!』
歓声が上がる。
幕が開き、次々と中止される出し物。
玉に乗らず、ナイフは飛ばず、象は居ない。
ああ、何て素晴らしい中止なのだろう。多くがため息を漏らす。
だが、終盤に差し掛かった時事件は起こった。
「僕はこんなことのためにサーカスに入ったんじゃない!」
響いた大声に観客が目を向けると、そこにはブランコを手にした若者が立っていた。
まさか。全ての人がそう思い、若者はそのまさかを口にする。
「僕は空中ブランコを中止しない!」
何てことを! 誰かが叫び、続けて女性の悲鳴が上がった。
混沌となる場内。様々な罵声。
だが、若者はそれに躊躇することなく足場を蹴った。
ブランコに大きな半円を何度か描かせ、若者は飛ぶ。
そして、美しい弧を描きながら落ちた。
躊躇し、手を引っ込めた相棒の姿を見つめながら。
本当のギリギリで中止されたというそのスリルに興奮し、立ち上がって拍手し始める観客達。
落ちた若者の中止された人生にも称賛が上がったが、若者の耳にはもう届かなかった。