ミニチュア・ミュージアム

各駅停車

　彼女は快速電車に乗ることが出来ない。

　僕らは各駅停車でひと駅、もしくはふた駅ずつ休憩をとり、普通なら15分で行ける距離に１時間以上をかける。

　今日に限らず、たくさんの人に迷惑をかけてしまってつらい。

　酷い状態のまま、そう言ってホームのベンチで泣く彼女の頭を、僕は隣りに座って撫で続ける。

　電車が行ったばかりのホームには誰もおらず、隣りで泣く彼女の嗚咽だけが僕の耳に届く。

　僕らは肩を寄せ合って生きている。

　彼女は、こんな私に構わなくてもいいのにと言うけれど。

　こうして隣りに座り、頭を撫でているのが何故なのか。

　それが彼女に伝わってないようでもどかしい。

　……いや、伝わっているからこそなのかも知れないけれど。

　しばらくして落ち着いた彼女は、泣いたことを恥ずかしいと言いながら涙を拭った。

　彼女にとって、この世界は非常に生きづらいものなのかも知れない。

　それでも頑張って、だけどダメで、なかなか理解してもらえない病を患ってさらに生きづらくなって……。

「僕は……」

　通過する快速電車が彼女の髪を揺らし、僕の言葉を攫って行った。

　僕らは各駅停車を待っている。