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押し問答
悪いが帰ってくれ。
俺が辛うじて発した言葉がそれだった。
ドアを開けたら知らない女が立っていて、俺を見るなり「あの時助けていただいた海です。あなたの妻になりに来ました」とにっこり微笑んだのだ。
「帰りません。妻ですから」
意志の強そうな目で返す女。妻じゃねえよ。
「何がですか。妻をないがしろにすると内助の功がこう……こうなりますよ?」
どうなるんだよ。というか妻じゃねえって。
「母性満ち満ちなのに……海だけに」
何上手いこと言ったみたいな顔してんだよ。上手くねえよ。
「じゃあ入りますね」
じゃあってきっかけ何処だよ。本当、帰って下さい。
「嫌です。私はあなたの妻になると決めたんです! 幸せになるんです!」
言い切る女の言葉に、さっき観たニュースを思い出した。
昨夜突然海が消失した。調査の結果、太平洋だった場所の中心付近で一文字直径14kmに及ぶ巨大な文字を発見したらしい。
文字は日本語で「私、幸せになります」と書かれていたそうだ。
「幸せな家庭を築きましょうね」
地球の命運は今、この玄関での押し問答にかかっているらしい。
……マジで?




