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春になれば僕らは
「太平洋ブッコロス!」
そう言って彼女は、波打ち際で来る波を蹴り返し始めた。
僕は砂浜に座って、寒いのによくやるなと思いながらそんな彼女を眺めていた。
平和だな、と思ったけれど、きっとそうでもないんだなと思い直す。
「ちょっと! ぼんやり見てないで手伝いなさいよ!」
「……はいはい」
近くにあった木切れを拾い上げると波打ち際に溝を掘った。寄せて来た波が溝に落ちる。
「あ、何かそれ賢い」
「そうかな?」
そうでもないよと言う僕に、そうでもあるよと彼女が笑う。
「私なんて蹴り返すしか思い付かなかったもん。頑張っても……」
その時、冷たくて強い風が彼女の言葉を遮った。
「……頑張ったのに」
風に乱された髪の下で、彼女の笑顔も少し乱れる。
「……頑張ったのに!」
そのまま泣き出した彼女を抱き締め、頭を撫でた。
「……隣りに居たから、頑張ってたのは知ってるよ」
彼女が僕のコートを掴む。
「同じ大学に行きたかったよ……」
そうして彼女はたくさん泣いて、僕は抱き締めたまま頭を撫で続けた。
春になれば僕らは、それぞれ違う道を行くことになる。




