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春の機械
春の終わり。
ほんの少しだけ強い風が吹いた。
桜の花びらが風に乗って高く低く、踊るように舞う。
その内の一枚が偶然、半分だけ開かれた窓をくぐった。
窓の奥、部屋の中では少女が静かに眠っていて、花びらは小さく宙返りをすると、少女の傍らにある機械の上に音も無く降りた。
機械は思う。また、桜が散るな、と。
そして花びらを乗せたまま続けて思う。
彼女はこれでもう何度、桜を見逃すことになるのだろうか、と。
もうずっと、少女は目を醒ましていない。
機械は彼女のそばで、ずっとその寝顔を見守って来た。
機械は思う。もし今彼女が目覚めたなら、私の頭に乗った桜の花びらを見て笑ってくれるだろうか。
けれど機械はそれを即座に否定する。
私は彼女が目を覚ますまでの生命維持装置でしかなく、彼女が目を覚ませばもう、役目を終えて片付けられてしまうだろう。
だから、少女が笑顔を見せるようになる頃にはもう、私は彼女の側には居ない。
春の機械は、静かに彼女の寝顔を見守りながら、叶わぬ笑顔に恋い焦がれている。
さっと吹いた風が、機械の頭から花びらをさらって行った。




