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歩いて帰ろう
家に帰る途中。
何となく降りたバス停のベンチで猫に会った。
「こんばんは」
猫は目を閉じたままうるさそうに尻尾を少し振るだけ。
人に慣れているのか、近づいても触っても猫は逃げようとしない。
抱き上げてひざの上に乗せてみる。やっぱり猫は尻尾を軽く揺らすだけだった。
「君は良い子だね」
私と違って。
言いながらそんなことを思う。
家に帰りたくなくて、ギリギリまで学校に居て……そして途中でバスを降りてしまった。
「私はダメな子だな……」
猫の背中を撫でながらため息をつく。
その時、変な撫で方をしたのか、尻尾で手をはたかれた。
「あ、ごめん」
言いながら猫を見ると、さっきまで閉じていた目を開いて私……を通り越した先を見上げている。
その視線の先を追って振り向くと……
「あ……」
そこには星空が広がっていた。
そっか。
私は今日まで空を見上げようともしなかった。
その間に猫は、ひざから降りて何処かへと歩き始めた。
「帰るの?」
軽く尻尾を振るだけ。
「星、綺麗だね」
すると猫は少しだけ振り向いてにゃあと鳴いた。
私も歩いて帰ろう。




