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入学式前日



カイトの叔父は今日から学園だと言っていたが、実はそういうわけではない。

今日は、入学式の一日前。

寮生が、寮へと移る日である。


カイトは、古ぼけた小さなバッグを一つ肩に下げながら、ゆっくり歩いている。

ちらほらとカイトと同じように歩いている生徒達がいるが、荷物を自分で抱えて持って行くあたり、皆平民なのだろう。

当然、豪勢な馬車も隣をバンバン走っている。

他者の迷惑も考えない、最低なヤツら。

ソレがカイトの貴族に対する正直な気持ちだった。

出来ることなら、ぶん殴ってやりたいくらいには、搾取する側を憎んでいる。


ただ、今はその時じゃない。


ガマンだ、ガマン。そう小さく呟きつつ、止めていた足をまた動かし出す。


「あ、あの~。すいません。そこの方。ちょっと宜しいですか?」


不意にカイトに横合いから声がかかる。

まさか声をかけられることがあると思っておらず、若干焦る。


「な、何でしょうか?‥‥‥‥‥ッ!」


横を向くと、そこには、決して豪勢と言うわけでは無いが、気品あるつくりをした何台もの馬車あり、先頭の馬車ーーーつまり、カイトの隣にある馬車から、同い年程度の少女が顔を覗かせていた。


「いえ、その、宜しければ馬車に乗ってゆきませんか?」


カイトは思わず目を点にする。

コイツは何を言っているんだ、と。


「あ、あぁ。言っている意味が分かりませんよね、そうですよね!え、ええと、説明しますからちょっと馬車に乗ってください!」


そうして、なにがなんだかよく分からないままあれよあれよと言う間に彼女の乗る馬車に連れ込まれてしまった。


「ええとですね。父が入学するに当たって周りにしっかり上下の差を刻み込まんといかん、と言いまして半ば強引に大量の馬車を使うよう指示したんです。それに気付くのが遅かったせいで結局このたくさんの馬車をつかわなくてはならなくなったので、そこで考えたんです!

余ったスペースで歩いている人を乗せていけばいいじゃないかと!と言うわけで、歩いている人に声をかけてたわけです。」


「成る程、ですがここで僕と話をしていてはソレが出来ないのでは?」


「それについては大丈夫です。セバスがやってくれています。」


「あ、寮が見えてきましたね。女子寮はあちらですので、ここでお別れです。同じクラスになれるといいですね。」


「ああ、そうですね。」


そう言いつつ、それは無理だろうと考えるカイト。

なぜなら貴族など上流階級に位置するもの達は、元々能力が高く、低いものでも総合Cはあると言われている。

しかも、見た感じ彼女はかなりの家柄だろう。

つまり、かなりの能力を持っている可能性が高い。

そして、平民は基本総合Bあれば天才の部類に入る。

どのみち学園で目立つつもりなどないカイトにとって彼女と同じクラスになることは百パーセントないのだ。


そう思いつつ、寮の中に入る。


「確か個室の番号は5027号室だったよな。」


そうしてバッグからポンポンと荷物を取り出す。

この古ぼけた小さなバッグ、実は古代の遺物である。


遺跡には沢山の失われた技術を駆使された物があり、このバッグにはいれた物がいれたままの状態で保たれるようになっている。まあ、生きている物はいれることが出来ないが。


そうして部屋の整理を終え、ふと時計を見ると既に7時を回っていた。

食事をとるために階段で何階か上の階にあがる。

食堂はやや食べ終わった人が多いのか、そこまでこんではいなかった。 


「お姉さん、日替わり定食ひとつ下さい。」


「お、お姉さんとは嬉しいことを言ってくれるねえ。ハイよ!日替わり定食だ、熱いから気をつけなよ!」


「ありがとうございます。」


そうしてカウンターで定食を食べているといきなり後ろから怒鳴り声が聞こえる。


「おい平民!私の話を聞いていなかったのか!?この食堂の貴族用のものの最高級の食事を買ってこいと言っただろう!?そんなことも出来ないのか!この屑め!」


怒鳴っていたのは、金髪の如何にも高そうな服に身を包んだ少年。その少年に頭を踏まれる平民の少年は、屈辱に身を奮わせながら謝っていた。


「申し訳‥‥‥‥‥‥‥ございませんっ!しかし、私の持っている金額でその料理を注文してしまいますと、私の1ヶ月分の食事代が足りなくなってしまいます。どうか‥‥‥‥‥‥‥お許しを!」


「うるさいんだよ屑!御託はいいからとっとと買ってこいよ。」


泣きそうな顔をしながら頭を踏まれる少年。

ソレを愉快そうに見ながら頭を踏みにじる貴族の少年。

そして、はやし立てるその貴族の取り巻き。


胸糞悪い。


席を立ち、帰ろうとするとソチラの方から新たな声が聞こえた。


「おい、イフォル。そういうことはやめておけ。」


その堂々とした声の持ち主はそのまま土下座させられていた少年に手を貸し、引っ張り上げた。


「なあイフォル。頭の良いお前ならこの状況でこの少年に命令するのをやめるかどうかぐらい分かるよなぁ?」


「チッ、帰るぞ。」


そう言って食堂を去る貴族の少年ーーーイフォルとその取り巻き達。


「済まないな、俺の目が全ての場所に届くとは限らないが、出来る限りああいうことは寮長である俺が止めよう。今回は済まなかった。」


「あ、いえ、わざわざありがとうございます。寮長が出てくることないです。」 


「いや、そんなことはない。ただ、今回は間に合って本当によかった。アイツらには俺も目を光らせる。だから安心してくれ。」


「は、ハイィィ!」


そう言って顔を真っ赤にして走り去る少年。

寮長は、その様子に首を傾げていた

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