移動装置
よーし出来たぞ!
俺は早速出来た装置を腰に装着する。
古い文献を紐解き、見つけた代物で、中々構造が複雑で作成に時間がかかってしまった。
その装置は腰に着ける物でその両脇に、前方へ向けた、アンカー射出装置が付いている。更に、そのアンカーには当然巻き取り装置も付いているのだが、巻き取り時に後方へ向かってガスのジェット噴射を行い、装着者を、アンカーのロープの道筋を辿りながら、アンカーの先の方へと移動させるのだ。
因みに、アンカーの射出距離は50メートル近くあるようだ。
よーし、目標は20メートル先にあるあの壁の上部だ!
装置のスイッチを点ける。
バシュッ!っと大きな音が発生すると同時に、俺の体、主に腰が後ろへとこれまた大きく押し出された。
ぐへえ!超痛え!マジ腰痛え!
アンカーは無事壁に付いたようだが、自分の体が早くもぼろぼろになってしまった。
よく考えたら50メートル先の目標へまっすぐ届く様な射出なんだから、反作用も半端ないよな。
迂闊だった。
まあ、これぐらい予想出来ない俺の方が悪いか。
とりあえず移動しよう。
装置に付いてるもう一つの、アンカーの巻き取りを始めるスイッチを押す。
ぐん、と腰が引かれたかと思うと、ブシュー!と音を立てながらガスの噴出が始まった。
そして、今度は俺の腰以外を後ろに反らせながら、もの凄い勢いで腰が前へと引っ張られる。
うげえぇー!
腰が!物理的に抜ける!
俺はすぐに巻き取りを辞めた。慣性に従い暫らく空中を進むと、重力にも従い落下し始めた。ロープの長さの限界まで落ちると、少しだけ跳ねた後、振り子さながらに壁の方へと向かって行った。
うわわわわ!
必死にもがくが振り子の加速は止まらない。
そして、その瞬間、今度は落下を始めた。
慌ててアンカーの方を見ると、若干壁の一部分を付着させながら、落ちてきているのが見えた。
剥がれたのか……
まるで他人事の様に感じながら、俺は考える事も足掻く事も辞めた。
もう地面に落ちるしかないからだ。
体は自然に、重心である腰を下にして仰向けに落ちていく。
まあ、高さは5メートルぐらいだからだいじょ
そこまで考えて背中に衝撃が襲って来た。
そして一瞬にして全身を駆け巡り、手先からぶわっ、吹き抜けて行った。
5メートルを侮っていた。失敗だ。
腰が骨折した為起き上がる事が出来ない俺は、自然治癒するまで寝転がっていた。
なにがいけないのだろうか。
自宅へと戻り、早速改善点を考える。
まず射程50メートルが長過ぎる。20メートルぐらいに抑えて、更に放物線を描いて届くようにしないと。真っ直ぐは危険過ぎる。
後、巻き取り時はもう少しガスの噴出を抑えないと。1馬力もあれば充分だろう。逆に巻き取りはもう少し早く、強くやろう。
後はアンカーだけど。これが一番問題だな。
壁なんて大抵どれも同じ材質。コンクリートや石材の壁だとアンカーが刺さった時に砕けて自重を支えられないし、木は試してないからよく分からんが多分抜けるだろう。
それにロープもだ。恐らく俺の体重に耐えられない。
……
…………うん。
ロープはワイヤーにしよう。直径1ミリの鉄棒を4本束ねたやつ。あれならば多分耐えられる。
アンカーは吸盤式にしよう。
吸盤なら中を真空にすれば1トン以上耐えられる。
よし、思い立ったが吉日、早速試行しよう。
駄目だった。
3時間後、戻って来てそう思った。
吸盤がくっ付かない。
上手くくっ付いても空気が入ってしまって強度が足りない。
どうしよう。
……そうか!
くっ付けた後に真空にすればいいのか。
アンカー部分に真空装置を付けてやれば行ける!オンオフはワイヤーで電流通して制御できる。
完璧だ。
よし早速試行だ!
駄目だった。
まず真空装置がデカい。只管デカい。でか過ぎる。
最初の方は上手く行ったが。途中、真空装置がアンカーから剥がれてしまった。
面積が大き過ぎて支える力が空気抵抗に勝てなかったのだ。
3回に2回だけ成功するぐらいの成功率だ。
こんなんじゃ駄目だ。不安定過ぎる。
代替案は無いのか?
……オンオフ出来て、引っ付く物。
うーん。
くっ付くだけで言えば磁石があるんだがなぁ。
ん?
……そうか!
電磁石だ!
電磁石でくっ付ければいいんだ!
コイルは細い導線で多く巻くタイプで。鉄芯は拳ぐらい。後の足りない部分を電力で補えば……ぃよし!イケる!
さあ、今度こそ完成だ!
半日経過した。
そして失敗した。
超が付くほど基本的な事を忘れていたのだ。
あれから俺は飛び回っていた。
平面の2次元的移動から立体の3次元的移動は初めてで、新鮮で、とても楽しかったからだ。
街の端から端まで飛び回った頃には、俺はもう天狗になっていた。
アンカーを射出して次の瞬間には巻き取りを始めていたのだ。
エネルギーが減退して距離が短くなってしまうが、細かく飛べばいいだけなので気にしなかった。
そして思ったのだ、
森に行こう!
と。
普通に考えて馬鹿な思考だ。
しかし当時は思いもよらなかったのだ。
そして森の側まで行って何時ものように移動した。
そして、今までと同じ様に射出後すぐに巻き取りをしたのだが、その肝心のアンカーがなんとくっ付かなかったのだ。
普通に考えてみれば当たり前の事だ。磁石は鉄にのみくっ付く。逆に言えば鉄以外にはくっ付かない。
勿論、普通木には鉄なんかないからアンカーは木にくっ付かなかった。
そして俺はただただ前へと飛びだして行った。
周りにはアンカーがくっ付いてくれそうな物は何もない。
何も出来ず勢いに乗って思い切り木にぶつかった。
しかも打ち所が悪く背骨を折った。更にその後、動けない所を熊に食われた。やっと体が動く様になった頃には周りは真っ暗。帰宅するまでに何回も転んでしまった。
もう、不老不死で良かったと今日ほど思った事は無いね。
……結局、これは使えないな。
結構頑張ったのにな。
次は何を作ろうか。
Thank you for your time
あれって実際は本当に腰を物理的に抜かすような気がします。
ちなみに、この作品はあくまで想像です。
細かい設定とかあんまり分かんないです。
こんな稚拙な物ですみません。
御精読、ありがとうございます。