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2-1

 おう……。なんて夢を見ているんだ。

 ぐんにゃりしたダメフィルターを通したような景色に、誰かしらの見知らぬ人影が映ちゃっている。

 さあ、確認だ。俺は、一人で住んでいるだろう。そんでもって、村長のババアはここまで若々しい声を出さない。というよりも出せない。張りが違う。ボリュームが違う。なにより決定的なのが、自分が今眠いということ。

 有り得ないだろ。

 眠いのに、向こうの誰かさんは「起きろ」となんとも不条理極まりない要求をしていらー……。

 わかってる、だから夢だ。眠いのだからー……ぐぅ。

「だーかーら! おーきーて! 今、目を開けたじゃん! 鶏ですら、毎朝日課のコケコッコー終わらせてんのにさーあ! 君はまだ寝るのかなー! 農家でしょ畑でしょどうすんのよ! いつも朝早いんじゃないのー……ん、あなた誰ですか? て、昨日散々やり取りしたじゃん会話したじゃん! 社長だ社長! 君の家に泊まらせてもらってー……あーもうー泊めてもらった身でこんなこと言うのナンだけど、起きろよ! もう昼よ! え? あーうん、昼。うん。そうまだ昼なんだよー……。違うじゃん! もう昼! てか、やっと昼! 君ずっと寝ててもう昼かもしれないけど、こっちは鶏で目が覚めちゃってんの! だってうるさいもん! 朝飯も食べてないのよ、あ、でも、いつも朝飯は抜く方だからあまりきにしないけどー……それこれとは話が別! 私の生活習慣はどうでもいいから! 問題は君なの君! もうさーあ! 起きてよ! ご飯はいいけど、村を案内してくれるんじゃないの!? 仕事進まないじゃん! お願いよー、もう起きてよー……」

 ドンマイ。

「……わかった」

 おう。どうやら夢の人はわかってくれたらしい。昼早くから元気のいいことは、実にいい。若い時にゃあ外で遊んでなんぼでしょうよ。気配も足音も、遠ざかるのがわかる。そうそう、人ってのはね、眠たいから眠るのだよ。無理しなーい、無理しなーい、ムリシナァイ……ぐぅ。


「強行手段」

 うわっぷ!「うわっ! ごほっごほっ!」

 冷たい苦しい気管入った苦しい冷たいびっしょびしょ! もうびっしょびしょ! あー布団がー……。丹精込めて温め上げた布団が台無しぃー……。

「はい、おはよう、もとい、こんにちは。もしくは、おそようございます」

「なんてことしてくれてんだ! お前、今日昼寝するとき、これで寝れねえじゃねえか!」

「まだ寝る気なのか! もう昼だっつてんだろ! 働け! 何時間寝れば気が済むの!?」

「俺はな。何者にも縛られない生き様こそモットーなのだよ。そう、時間すらね……」

「はい、バケツ二つ用意して正解でした。第二波、行きます」

 おう! 使用済みのバケツが転がりつつ残り水を撒き散らして、畳濡らしてる。そして、今まさに使用済みにならんとするバケツは、このチビの両手に捕縛され、中身タップンタップンさせている! あの中身のターゲットは、俺か!?

「待て! それを放てば俺は昼寝どころか本寝すらできなくなる! 待て、罪を重ねるな! 故郷のお母さんが泣くぞ!」

 お、わかったのか? バケツを……、そうそう、置いてね。あ、こぼさないように。畳だからカビちゃうから。後の祭りかもしれないけど。置い……た! 置いたー……。いい子じゃない。

「話せばわかる子だと思ったよ。小さいのに――」

 あーー! 蹴ったぁ! いい子じゃない! ダメ! もう全くダメ!

 完全に布団は溺れて、今日はリタイア決定、再起不能……。蹴られたバケツは見事に頭から布団の上に着した、悲劇。大惨事。俺の両目からも水がこぼれそう……。

「世の中、やっていい事と悪いことがあるんだよ……」ああ、悲しい……。アディオス、布団。

「これ、干すから」

 少しは悪気を感じなさい現行犯。何罪か定かじゃないが、重いぞ。さぞ、重いぞこの罪は。長年封印されてきた大魔王のツボをうっかり開けちゃう罪と同じだね、名称も重みも。

「なんで半泣きなってるのよ」

 そりゃ半泣きさ! わかるさ、感情のダムが制御利かなくて決壊寸前なのが俺自身が一番よくわかってるさ! そんでもって、縁側へのオンボロふすまをそんな乱雑に扱うな。バン! ていった! こやつは俺の家すら破壊する気か!

「この快晴なら、あっという間に乾くわ。全く、そこまで不躾なつもりはないから。あと、ごはんもできてるから。食べたら、一緒にお願いね。村人の紹介」

 布団を両手に抱えるチビ社長の背後には、サンサンと降り注ぐ日光が、これでもか、と言わんばかり主張して。そのせいで、それを唯一遮る存在が、まるでどこぞの高尚な姫か精霊かと勘違いさせるほどだった。その景色、たどり着く結論。

「……まだ寝れたぁ」

「お前は、まだ寝足りねえの?! あーもう本当お願いだから、寝ないでね。私、仕事済まさないと、いつまでもここにいることになるから。それだと、君も迷惑でしょ」

「迷惑。困る」

「ね。私は、これ干すから。君は昼ごはんの支度を頼む。ちゃぶ台と、台所に私が作ったスープとパンがあるから、それをちゃぶ台の上に並べてくれ」

「……スープ? パン?」

「こちらが自前で用意した食材だ。きっと気にいると思う。じゃあ行くから、頼むよ」

「仕方ない、頼まれよう」

「君はホントつくづくだな」















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