傘を持ちながら
駄文ですがよろしくお願いします。
五月も半分を過ぎたころ、毎日のように雨が続いていた。
時には激しく、時にはやわらかく、しかし途切れることなく雨は降り続く。一足早い梅雨と言ったら分かりやすい。
だが、今朝は珍しく晴れ間が広がり、ようやく訪れた太陽の光に啓太は上機嫌だった。
しかし、居間に置かれているテレビでは、また午後から雨が降る。と言っているのだが、啓太の耳には届いておらず、傘を持たずに学校へ行ってしまった。
……そして午後。
「うわ!また降ってきやがった!」
既に決められていた天からの来客に、ただ1人憤慨する。
啓太は、どうしようか。と、思考を駆け巡らせる。こういうときに限ってお金も携帯も持っていないのだ。
色々考えたが、あてが無い。
次第に雨に対する怒りがこみ上げてきた。
「何なんだよ!ったく……毎日毎日降りやがって!お前のせいでどれだけ迷惑してると思ってんだ!! ジメジメするし、髪はハネるし、気分は憂鬱だし!」
いい機会とばかりに溜まりに溜まっていた鬱憤を晴らす。
放課後の教室で、1人で文句を言っている姿は、傍から見ると奇妙なことこの上ないが、本人は気にしない。そうやっているうちに、段々落ち着いてきたようだ。
「……ってこんなことしてる場合か!俺! ……やベー、本格的に降り始めたぜ」
パラパラからザーザーへ、雨は姿を変貌させていた。
こうなれば意を決するしかない、啓太は雨の中を全力疾走すべく、教室を出ようとした。
「……けーくん?」
突然の、背後から掛かった声。それは小さな、そして控えめな少女のそれだった。
「どうしたの?こんな時間に。下校時刻過ぎちゃうよ?」
少女は、不思議そうな表情で啓太を見る。
啓太はいきなりの来訪者に吃驚したが、知ってる顔であったから安堵した。
「ん?……ああ、柚子、ちょっと困ったことがあってな」
実は傘忘れちゃって、携帯も無くて連絡できないんだ。と苦笑しながら続けた。
「柚子こそどうしたの?」
啓太のその言葉に対して、柚子は、生徒会の帰りであると説明した。
「私が生徒会の書記をしてるのは知ってるでしょ? 今日はちょっと長引いちゃって」
「ふーん、大変なんだな」
それから何度か言葉のラリーが続いた。
啓太は、そこでふと思った。
「……そうだ!柚子!悪いけど携帯貸してくれないか?」
「あ…ゴメン。私も今日忘れたんだ……」
「ホントに?!……ああ、最後の希望が……」
ガックリとその場にうなだれる啓太。そんな啓太に対し柚子は……。
「それなら私の傘に入ったら?私の大きいから二人でも大丈夫だよ」
まるで女神のような笑みを浮かべ救いの手を差し伸べる。
「え、いいの?」
「いいよ。……けーくんだから、ね。一度相合傘してみたかったの」
「柚子……それって…」
「もう!恥ずかしいからこれ以上言わせないでよ。…私はけーくんと帰りたいの」
ゆでだことはこのことか。柚子の顔は真っ赤だった。
「…ありがとう。それじゃあ、よろしく!」
「うん!こちらこそ。これからもよろしくね」
そうして2人は帰路を共にする。傘の柄を媒介に手を繋ぎながら。
恋愛小説というのはなかなか難しいものだと思い知りました。