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たまには、フラフラしちゃうのです

毎日、毎日。

同じ仕事をしていると、いい加減あきてくる。

なんか、目新しい事がやりたいと思った時が、吉日。普段やらない仕事をやってみるに限る…


アタシの仕事は、物流センターの現場管理。常時75名のパートが働いている。

物がセンターへ入ってきて、保管して、オーダー通りに仕分けしてピッキングして確認したら、指示通りに梱包して、お客さんの所へ発送する。

センター内はずっと私の管理下だけど、たまに思うんだよね。

「この荷物(商品)って、どんな人の手に渡るんだろう」

正直、金属の塊だったり、よくわかんない単語が並ぶ冊子だったり。自分には価値がないけど、確かに どこかでこれを必要としている人がいる。荷物が最後まで手に渡ってる、その景色がみれたら、もうちょっと気持ち入れて頑張れるかもしれない。



気持ちよく晴れた朝だった。

「ねぇねぇ、ちょっと出かけない?」

トラックの鍵をちらつかせて、あるリーダーへ声をかけた。

一番運転が上手そうで、一番…大好きだったりするリーダー。ひぃぃ、言っちゃた!恥ずかしい~っ!!


あ、違うの。アタシ、彼氏?はいるけど、ね。違うんだ

働く姿勢とか、スタンスとか、話し方とか、がね。凄いなぁって、尊敬しちゃうなあっていう「憧れ」の人。恋愛感情とかはないよ、大丈夫、大丈夫。うん。

少しでも一緒にいれたら、色々学べるかなぁと思って、うん。せっかくの機会だから、声をかけてみた。(言い訳がましいかなぁ? そんなことないよね、大丈夫だよね)


ホントに凄くてさっ!!

話しかけないと話さないけど、糸口さえ掴めれば、本当にいろんな事を話してくれる。そのゴモットモな事、ゴモットモな事!黙って淡々と仕事するその背中がカッコいいんだけど、話す言葉が働いている時の背中とダブって、なおカッコいいっ!!

キャー 大好き~っ!

誰にも言ってないけど、たぶん、ウチのリーダーたちの中で作業能力は一番高い。統率力は、ちょっと…だけど、さ。見た目のクールさで分かりづらいけど、センター運営を考えてくれる気概は、1、2を争うくらいの熱い人。

部下っていうより、仲間。きっと、向こうも、そう思ってくれてる。


「なに? 俺に、運転しろって?」

「違いますぅ! 私、運転しますから。でも、危ない時は見てほしいんです」

一応、運転免許は持ってるわよっ、でも、日常的に乗ってる訳じゃないし、トラックなんて、もっと乗ってないし。見ててくれると心強い…カモ?

「蕃昌サンの運転? 俺まだ死にたくないんだけど?」

うっ、そんなに信用がないのかアタシ。

「う、うるさいわね! アタシが、普段、フォークリフト乗ってるのを見てるでしょ!」

「俺が見てるけどね」うっ、痛いとこを突いてくる…

「でも、物損とか傷害とか、起こしてないのも知ってるわよね!?」

「今のとこ、ね」

ニヤニヤと笑う顔がむかつく。確かに、彼の誘導のおかげで、無事故というのは、認める。

一番的確で上手いのよ。下手な人の気持ちを良く察した上で、分かりやすく誘導してくれる。

いつも、ジャストタイミングで「そろそろ、左後ろを気をつけて」「そのままでいいよ」と言ってくれるから、急に「危ない!」で止められる事がない。

実は、思うのだ。「事故らないよう、簡単なルート」を事前に考えて、「今の蕃昌なら、このルートが取れるかも」実力が伸びてきたのを見計らって「じゃあ、誘導するよ」って教えてくれてるんじゃないかって。


「フォークリフトがトラックに変わっただけでしょ! 行くよっ!」

この男を相手にすると、素直にありがとうって言えないんだけど、ホントは頭が上がらないくらい感謝してる。

ま、この男も素直じゃないから、「あーあ、最後に見る顔が蕃昌サンか…」って言いながら「財布だけ持てばいい?」って行く気満々でいてくれるんだけどね。

そういう訳で、アタシはこのリーダーが大好きなのだ。




配達も無事おわり、担当者がいる事務所で受け渡しを済ませ…そこからコソコソと、受付でこっそりチラシとかポスターとか写真撮ってきた。

本懐は遂げたぜ。よく分かんないけど、とりあえず、こんな規模の会社とも、やり取りしているんだなぁっていう実感が持てて良かった。

それは、連れてきたリーダーも同じだったらしく。

「ぶっちゃけ、忙しい時はやっつけで梱包してたけど、それって、ヤバいのかも?って思ったりした」とか「よく分かんないけど、俺達の仕事って社会を支えてたんだね」とか、珍しく機嫌が良かった。

そんな上機嫌が手伝ったのか。


地下の駐車場、並んで笑いながら歩く途中、ふと、リーダーが立ち止った。

背が高くて、手足がスラリと長くて、ヒゲとか濃くないつるっつるの肌。キレイな男だなぁって思う。

「どうし」たの?という間もなく、「いったーい!」

いきなりの痛みで、訳が分からなかった。分かるのは、シュコーン!!と、おでこへ指先チョップが入ってきたらしい。しかも、見事に突き刺さったし!

「何よ~っ!」

突然、チョップが飛んでくる意味がわからない。

怒っても、「フフフ、はははは」と高笑いするばかりで、地下駐車上の低い天井には、良く響く声が楽しげに広がっていく。

「ひどーい」「いきなりとか、酷いんだけど~!」

でも、ちょっと本気で怒れない自分がいる。このリーダーは、確かにいろんな意味でカッコいいけど、それは「お兄ちゃん」みたいな素敵さ。あ、それいい表現かも。

そう、「お兄ちゃん」なの。

「お前、ホントMだよな」

苛められても、「うん」とか素直に答えちゃう妹キャラが居心地良かったりする。

「Sの俺からしてみれば、蕃昌…お前はMだな」

立場上は、私の部下でも、オフの所で呼び捨てにされても、あんまり怒らない自分がいる。

だから、ついつい ワンコだったら尻尾ふりふりしちゃうのだ。

「ねぇ、歴代の彼女さんって、みんなMなの?それともS?」

ちょっと気になる。アタシの会社のお兄ちゃんの恋愛とか、聞きたくなっちゃう。

「付き合うまで、分からないままで、がほとんど。」


でも、ここで会話は止まってしまった。

彼の年でパート社員で…結婚なんて出来ないだろうから。彼の年だったら、付き合う女の人も、きっと、結婚を意識するだろう。でも、叶えてあげられないんじゃもう、最初からしないのかもしれない…

どこかのタイミングで、せめて契約社員には上げてあげたいな。そこから、正社員を狙える道を作ってあげたい…

「蕃昌サン?」ん?と顔を上げた時。「いったーい!!」もう一回、チョップを食らった。

今度は、爪も刺さりましたけど…私、何かやりましたでしょうか?

兄よ、貴方はS過ぎます…




「笑っていた方が、かわいいよ」

帰りの運転を始めようかと、シートベルトをしたとき、突然言われた。

「…もったいない」

突然、何を言い出すんだと、ちょっと身構えたけど、タバコを平然と吸い始めたから聞き流すことにした。


あーあ、兄さんの前なら笑えるんだけどなぁ。ウチの彼氏?よく分かんないから…

自分の彼氏?よりも、ウマが合って話せる男の人の前で、「可愛くみえる」になってもいいよね。だって、話せるんだもん。言い方悪いけど、引き出してくれるんだもん。

こーいうの、ダメかしら。

まぁ、今の彼氏?には、徐々に慣れていくという方針で。

ちっと疲れるが、これが大人の恋愛なんだろうなぁ


そんなことを感じた三十路の晴れたお昼前の出来ごと。

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