表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/61

初めての家庭訪問

それは、ある休みの日。


恋人同士の淡いロマンチックさとは、まるで無縁な殺風景な部屋に、その男はいた。

その姿は、ドラマかファッション誌からそのまま出てきたような、休日のビジネスマン…


「合わねー」

思わずアタシは、つぶやいた。




毎度!

物流センターの管理社員やってマス! 番昌真知子(30)でござい!

つい最近まで 日干し独女ライフ満喫してましたっ!!


付き合い始めれば 家にも呼ぶようなる訳で…今日が初めて家に呼んだ?日。正確には、今日の午後、予告なしで押しかけられたんだけどね。


 電話が鳴って出たら、「家の近くにいる」って言われたわ。ヤラレタッ!!

「何で急にくるかな… 言ってくれれば作って待つのに」

慌てて用意した座布団に、我が物顔で座る柏木さんをみやった


恨み言一つも言いたくなるわよ、だってねぇ?女子的に色々あるじゃない


絶対に、見られたくないものとか、

むしろ、見て欲しいものとか。

そんなものすら準備するヒマも与えられず… 突然の押し掛け訪問。

ヤラレタって思うでしょ?女子的には。


アタシの部屋は…片づいているとは思う。

でもね、殺風景なのよ。


アタシは、物流センターの管理社員。

ガテンな職場にドップリ馴染んだアタシは、普通の女子とは、趣味が違う。

やっぱりそういう仕事道具が家にあるわけで。

オシャレに興味ないだけあって、その手の小道具は存在しないわけで。


玄関には、長年の使い込みで傷だらけになったロードバイクが鎮座している。

まずソコでビビると思うんだけど、

部屋を進めば、何故か 一般家庭じゃ見掛けないモノが結構揃ってる。


どう見ても、オフィスか実用重視な在庫置き場で見るような棚がデデン。

引き出しは、これまたスーパーのバックヤードか物流センターで見掛けるようなプラスチック製の輸送箱。通称折り畳みコンテナ 略して折りコン


…ここは 物置か、備品置き場か。


さぞや幻滅したであろう…

まあ、こっちだって 幻滅させたかったワケじゃないけど。


夢、醒めたわよね?

じーっと表情を伺っていたら、何かを察したのか、向こうが話し始めた



「…お前、この前 晩飯一緒に食った夜に、自分で言っただろ。

 『家は、片付いているから いつでも呼べる』って」

うっ、そうきたか。

まぁ、そんな大風呂敷も広げましたね。

だって、あの時は、アンタに そんな気があるとは思わなかったんだもん。

まぁ、こられちまったモンは しょうがない。


そんなアタシを横目に仰ぎながら、座る付き合いたてホヤホヤの彼氏殿。

部屋を見回して一言「女の部屋には見えない。」

はいはい、言われなくたって、分かってますよ〜


夢とか詐欺とか仕掛けたつもりも、ありませんけどねー

現実はこれですよー



視線を逃がした窓辺には、観葉植物がないわけじゃない。

でもね、ソレ、全部!食用なの、ごめーん。

バジル、ローズマリー、大葉、山椒… 

ちなみに 今、一番見られたくないのはベランダ。 

保存食用にしようと思った野菜を天日干しの真っ最中。


あぁあ、絶対 呆れただろうな。

フェミニンの欠片もない。しかも、殺風景で生活感丸出しなこの家。

 折角の恋愛関係、いきなり自分の日頃の行いでぶち壊すことになるなんて… 予想できるだけ分かってて受け止めるのはツラい。


 フツー100年の恋も冷めるってか? 

もーこの際、言うなら、さっさと潔くトドメ刺しちゃってよ。


何を言うか聞くのを待てず、唇をじっと眺めていたら、ついに 一言漏れた。


「ここで生活してるのか?」

…はい。ソウデスヨネ。普通、そう思うわよね。

「そうなの。この家からは、お上品な家財道具は一切出てこないわよ」

…ぬいぐるみとか、キャラクターものとかも、勿論。


柏木サンは、クククと笑って「そうだろうな」と言いたげに、オチャに口をつけた


グラスを手に、一息ついている柏木さんを改めて見た。

うん、何回みてもこれ以上の感想は出てこないわね。


『何度見ても、部屋から浮いて見える。』


なんで、こんな…

世界が違うような男と、こんなことしてんのかしら?


柏木さんは、しみじみ言った。

「…お前は、長生きしそうだな」

二つ目の感想、そうきたか。

顔は… 相変わらずの仏頂面で何を思ってるのか、殆ど掴めないけど。

「俺と違って、タバコ吸わないし、付き合いの酒を飲む機会も少ない

 毎日身体動かして、好きなものを自炊して食べている」

まぁね、フリーダムですよ。

ホント、独女ライフ満喫してましたから。


会話はそこまでだった。

柏木サンは、またしばらく黙ってオチャを飲んでいる。


ナニこの沈黙っ!!

…ちょっと!アンタ、何か 話してよぉ~

手持ち無沙汰に辛くなり、オチャを継ぎ足そうとしたときだった。ふいに手で制される。


「お前とは、いい付き合いが出来そうだ。」

え? そうなの?

驚くアタシは、ひとまず座り直した。

「茶が旨い。気に入った。」

そこ?

「これなら飯も期待できる。旨いモノを気持ち良く食える相手は、付き合いやすい。」

ツボは、それでいいの?アンタの彼女選びって、そこなの?


ワカラン

アンタという男は、本当にワカラン

絶対 終わったと思ったのにな。


はあ。

人は見掛けによらない。ってことか。

曲がりなりにも、ウチの会社で秘書課のチーフが務まるオトコだと、流石に顔も立ち振る舞いも、フツーの一般男子とは違う。


…でも、実際胸の内では、感じて思うことは その辺の同年代のコとはなーんも変わんないんだなあ。



柏木サンが、「こい。」ゆっくりとアタシを引き寄せる。

ちょっぴりハラハラだったけど、最後は合格貰えた家庭訪問。


今回の恋愛は、アタシが思ってるより 続くかもしれない…そんな手応えみたいな実感に、ちょっとホッとして。

「なんか、アタシがお腹空いたな…」気を抜けば、ぐぅと小さくお腹が鳴りそうだった。


 こうやって、ハラハラの恋愛は、少しずつ ワクワクの恋愛に変わっていくんだろうな。

柏木サンは、少しだけ笑った。

「何か作れよ。俺の分も」


明るいこれからが、ちょっとだけ覗けたそんな休日。

よしっ!

ひさびさの恋愛、楽しむぞーっ!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ