イイトコあるじゃん、見直した!
「…物流センターの今期概算としては…」
アタシは今、本社会議で報告をしていた。
これ、最後まで発表した途端、間違いなく怒られるんだろうな…あーヤダヤダ
雇われ管理職の三十路なこじれ女子、蕃昌真知子です、毎度アリ!
仕事は、物流センターの管理者です!ガテン系女子です!
今、「従業員代表者会議」とやらの会議出てるの。労働組合っぽい響きがあるけど、まあ…それに近いかな。
「36 協定 特別条項について」勉強会とか「定時退社促進にむけて」現状把握と意見懇談会とか? そういう会議。
…この手の会議、すっごい嫌。
だって、
他の支社とか営業所とかは、多くてせいぜい20~30人の労務管理なのに対して、アタシの管轄は、人数 100人越え!!
ヒラには難易度が高過ぎるわよ。アタシの脳ミソ、いつも過重労働でパンク気味。
恐る恐る恐る恐る、最後の一文を読み上げた。
「物流センター、報告以上です。」
はぁ、絶対怒られる。
でも、これ以上頑張れない。
心のなかはため息駄々もれで、影の議長こと 総務部長を見た。
「物流センター…」
はい、総務部長、なんでしょーか? でも、もう無理ですよー!
「予防接種の促進、やってる? それと、社会保険適用拡大…面談どこまで進んだ?」
全部、中途半端です!はい、面談も目処付いてません!
「…忙しいのは分かるけど」
だったらっ!これ以上仕事増やすな!
「分からない事があったら、総務に相談して。手続きだけなら、リストくれればいいから。こっちで処理するから。」
お?え?
『こっちで処理。』って言った?
なに?何か、思ってたのと展開違う??
反応出来ずに終わるアタシに、総務部長は続けた。
「蕃昌さん、今、自分が過重労働でしょ?今月残り何時間?勤怠の改ざんとか、絶対駄目だからね?勿論、自分含めてだよ?」
これってもしや怒られつつ、実は助けてくれる感じ?
指示と指令ばっかりで、今まで何一つ助けてくれなかった本社総務が?
まさかの手のひらひっくり返してきた?
どうしちゃったの、急に優しくなって。
「まあ…物流センターは…蕃昌さん倒れたら、元も子もないからね。
…頑張りどころだとは思うけど、頑張り過ぎないで。」
あら、お優しい!総務部長。
「後でメールするけど、今月の残業計画だしてね。対策の部分は、相談に乗るから。」
まあ、仕事も乗っかって来たけど…何か手伝ってくれるらしい。おおお??
てっきり怒られると思ってた会議、まさかの「手伝ってもいいよ」発言。
本社の総務課に年押しの電話をしたら、「部長からご指示頂きました」と確かに嫌そうながらもやってくれそうな感じ。
おおお~ 何か道が開けたんでない??
イヤッホウ!
スキップでもしたくなる帰り道、気分がいいので、本社から一番近い激安スーパーでお菓子を乱れ買いへ突撃しようとした時だった。
入口の激安自動販売機で缶コーヒーを飲むサラリーマンがいた。あれ?もしかして??
「…安い奴だな、総務が手伝う気になっただけなのに?」
そのサラリーマンは、社内恋愛の彼氏さま リュウイチ。
さっきの会議に出ていなくても、何が起きたのか、もう知っていらっしゃるらしい。
「あ、もう知ってるんだ?流石だね。」
それにしても、耳が早い。流石、部署が秘書課なだけある…感心する一方で「(何かやらかしたら、全部 知れてるんだろーなー)」とか思いつついると、ふと、大きな買い物袋を手渡された。
「ほら、お前のセンターに差し入れ。」
手渡されたのは、大量なのど飴とかホッカイロとか…物流センターの必需品が山盛り。
…これはかなり嬉しいかも!!
冷暖房完備とは言えない物流センターで、冬場は ホッカイロは必須だし、のど飴も 結構喜ばれる。
「いいの?」
毎回、しょっちゅうは経費で買えないからさー これは有難い!
「本当、ありがとう!こんなん差し入れ、本社物流部からも貰ったことないよ!
だいたい、誰も分かってないんだよね、物流センターが冷暖房完備どころか『夏暑くて、冬寒い』ってことを!!」
ついつい興奮しちゃう。欲を言えば、足先用のカイロも欲しかったけど、それは贅沢だよね。まあいいか。
これ、総額幾らだろ??3000円は絶対越えてる。5000円も越えてるかな。5000円越えちゃうと申請書必要だったような?
「経費、回して貰っていいよ!!悪いし。」
支払いを申し出たけど、
「秘書課も買うものがあったから。」サラっと断られた。
わお。どうした?アンタまで気が利くじゃない??今日はそういう日??
二人でもう一度入った店内で歩きながら話す。
「物流センターの必需品なんて、よく知ってたね?? 誰からか聞いた?」
フツー 事務職で働いてたら知らないモンなんだけどなー
「この前、誰からか忘れたが、教えてもらった。」
やっぱ、そうだよね。聞いたんだ。わざわざ誰かに聞いたとか、泣かせるじゃない。
「ホント、ありがとう!マジで必需品なんよ。女性のパートさんとか喜ぶわー。まあ、男性陣でも1階の荷積みの人達もそうだけど。」
いつ配ろうかなあ、やっぱ、月末月初?雨の日にサプライズ?魔の水曜日?考えてるだけで楽しくな…
「そんなん貰って喜ぶ女、お前かお歳を召したマダムくらいだぞ?」
気がつけば、リュウイチが苦笑いして「一旦預かる。また後で渡すから。」袋を持ってくれて「それも持つ」と買い物かご持ってくれた。そして、空いた手は、しっかり繋ぎあって。
え?貴方、ここのスーパーは そこそこ職場が近いわよ?…イチャついて大丈夫?
驚いて顔を見たら「ああ 忘れていた。」そうは言うけど、いまだ手は離れず。
「仕事中にここまで大量に菓子買ってるのも、お前だけだろ。さっさと買い物済ませろよ、お前の物流センターまで車で送ってやるから。」
なんなの、この素敵待遇。何か、本当に…
「…休みの日みたい。」
穏やかな雰囲気、気遣いある優しい瞬間。仕事中は微塵もないのに、隠れた休みの日の一面が、今は惜しげもなく出てるんだもん。
「そうだな。」
言葉少なげだけど、リュウイチも同じだったみたいで。お互いほっこりした気持ちが嬉しくて。
「ありがと。」
自然と呟いた。
ここんとこ、リュウイチ経由の本社宿題が鬼の様にキツくて、吐きそうだったけど、こうやって「アタシの本来の仕事」を分かってくれてるって思うと、何かやっぱり嫌いになれないのよね。
美味しいモノとか、甘い言葉とか、優しい仕草とか、その辺にも、確かに心惹かれるけどね?でも、働く女子じゃん?アタシを取り囲む環境とか立場とか…根っこに近い所へ一緒に寄り添ってくれてる実感って、負けずにデカい。
アタシまだ頑張れる。
貴方の人間性、チョット見直した。もう暫く…「彼女」頑張るね。
ありがとう。