話し合いは、大事なんです。
物流センターの管理者やってまっす!番昌真知子、三十路入り女です!毎度でござい!何が起きても、ズボラ心に拍車が掛かってる今日この頃…
「お疲れ様でーす。」
ノリも軽く行ってしまったある日の本社。
時間無かったから、作業中の作業着のまま ドカジャン(倉庫の中ってね、結構『夏暑くて冬寒い』の季節感奨励満載設備なの!)で 愛車のロードバイクでシャシャッと行ったのが失敗だった。
本社物流部、総務までは何も言われなかったし、人事も「…会社が指定した着衣で文句あんの?」と目で訴えた(殺したともいう?)その場は黙ってたけど…問題はその後。
知ってる本社営業の人たちと タバコ部屋近くの自動販売機前で立ち話してたとき。
「あれ?番昌さん?」
物陰から出てきたのは、本社営業部の部長と偉い人(誰だっけ?専務1か専務2か…えーっと…)と彼氏様リュウイチで。
「番昌さん、今月大丈夫?残業あと何時間で過重労働になっちゃうか、計算してる??」
話を続ける偉い人(顧問だったっけ?この人…)を他所に
「作業着で本社来るな。何度俺に言わせる?見るも不快だ。」
言い放った彼氏様リュウイチ。
「か、柏木くん!」
慌てる偉い人たちを他所に
「本社の目的は『作業』じゃない。目的に合わせてTPO守れない時点で論外だ。さっさと物流センター帰れ。偉そうに過重とか笑わせるな。」
キッパリ言い放ってきおった。
うーわー
愛しの(かどうかは、たまに怪しいけど)彼女にそこまで言う?
まあ、確かに何度も過去 注意されましたけど、人前ですよ!?
そこまで言う?!
「あの、差し出がましいかもしれないけど、女性相手に『不快だ』は、言い過ぎだよ?」
助け船にはいる営業部長も「言いにくい事もハッキリ言うのは、君の美点だけども」と、最後は語気が弱い。
絶句する面子が面子なもんで、(だって、部長クラスとそれ以上がいる中、ケンカ出来ないでしょ)
はいはい、私が悪ぅござんしたよーとさっさと認め、
「はーい、物流センター帰りまーす。お疲れさまでしたー」
じゃ!と さっきまで話してた本社営業さんに「またね」と手を振って帰ろうとした時だった。
「忘れ物だ。投げるぞ。」
リュウイチの方向から飛んで来たのは、秘書課の社有車の鍵と…リュウイチ自身の自宅の鍵。
「気を付けて帰れ。」
飛んできたものが、想定外な貴重品だったもんで、何か間違えてるんじゃないかと、彼氏様をみやると、何もなかったように前を向いている。いつもの仏頂面で、聞ける雰囲気を醸す訳でもなく。
いやいやいやいや…秘書課の車の鍵なんて。
全くもう、アタシが物流センターの社有車で来てたらどうするつもりだったのよ。そもそもアタシ、ここまで自転車だっつうの。自転車で帰るわよ。それに お前んちの鍵は元々合鍵貰ってるっつーの!!セットで渡しておいて、アンタ自身が家に入れなくなるわよ、このトンチンカン!
これ、どうしよう。総務に「落ちてました」とか言って帰そうかと、改めて鍵を見直してその意図に気がつく。
これ、ワンボックスタイプの方の鍵じゃん…世に言うワゴン車っての?この車なら物流センターまで、自転車を積んで車で帰れる。
つまりは、アタシが最初から自転車で来てるのはお見通しで、鍵は俺の家で返せ。で、そのまま待ってろ。
言わんとしてる事が分かって、クスッと笑いそうになる。心配してるのか、思い通りにしたいのか、なんか、つくづく分からない男だなあ。
でも多分、その中に多少なりとも愛情があるのは間違いないみたいで。
バカだなあ、他に言い方あるだろうに、あんなんなっちゃうんだな。
ついまた笑いそうになった自分の頬を引き締めて声を掛けた。
「柏木さん、またね。」
手を振って。
自宅の鍵まで投げてきたリュウイチの無謀さが、何だかとっても、くすぐったく思いながら。