必要とされてる実感
休日のお部屋デート。これからの昼ご飯を二人で作ろうとスーパーで買い物していた時だった。
「あ、ジェラート!」
フードコートがいつの間にか改装していて、見たこともなかった新店舗が増えている。
あー美味しそう
アタシ、甘いもの弱いんだよねー しかも、手作りとかって響きには 滅法弱い。
窓から見えるキッチンには、レモンとかバナナとかが積まれていて、流しにはイチゴがざんぶりと洗われてピカピカしていた。
そこのフルーツのみなさん、呼んでるでしょ!確実に、ワタシのこと、呼んでるでしょ!
「ねえねえ!」
彼氏さま リュウイチの袖を引いた。
「食べたい!」
テンション上がりまくりのニコニコモードで聞いた。でも、
「は?」
彼氏さまは、ツレナイ生返事。
冷たいなー、分かってるけど。
リュウイチは、そんなに甘いものが好きじゃなくて…前から そんな反応だった。
ま、分かってたけどね…
「俺のも選んでおいてくれ」
リュウイチがアタシに、自分の個人ケータイを渡してきた。お財布ケータイで払ってきてってことだよね?
そっけない仕草に『そこまで興味なんだ…』というのがしみじみ伝わってくる。
いいもん、じゃあ、こっちも言っちゃうよ??
「じゃあ、好きに頼んじゃうからね? お好みと違っても、文句言いッコ無しね?」
念のため、釘を刺した。
「…言ったことねぇだろ…」
すると、リュウイチがアタシとプイッと 視線を外した。
あ、スネた。さすがにムッとしたか…でも、謝らないよ?? 決意新たに、アタシはキリッと構えた。
「お前の食べ物のチョイスは、イイ線いってる。ハズさない。」
あれ? どうしたの?妙に素直な発言じゃない。顔はスネながら、実は、褒めてくれてる?
恐る恐る聞いてみた。
「…結構適当だよ?自分の好きなものしか、いつも 出してないんだけど…」
正直に白状してみたけど、リュウイチは ふぅ と「(分からないならいい)」ため息を吐いた。そのため息以上は、言わないんだろうな。でも、そのため息が答えなんだろうな。
じーっと見つめていたら、先に言われた。
「ほら、食べたいんだろ?好きに二人分選んで来いよ」
追い立てるようにアタシを離すリュウイチ。そして「落とすなよ」とリュウイチのケータイをしっかり握らされた。
なんか、ホントに追い立てられたな。でも。
わたしは、少しだけ、笑い出したい気分だった。
「買ってくるね」
その一言をいって、歩きだしたアタシは、密かに「…分かりづらいこと、この上ないな…この人。」と呟きたくて呟きたくてたまらなかった。
素敵な男の人の素敵な甘やかし方ではないけど…
胸の中ではホカホカと、さっきの褒め言葉が反復リフレインしている。
聞いた??
お前の食べ物のチョイスは、イイ線いってる。ハズレは無い。だって。
なんだか、気持ちがムフフって嬉しくなる。
貴方が貴方なりに、楽しみにしてくれる不器用な歩み寄り。
嘘とか社交辞令とか言わない人って分かってるからこそ、しみじみ伝わるのよね…「アタシの好みを知りたい」って思ってくれてるって。
なんか、嬉しい。それもすっごく。
「戻ってきたら、居なかったとか止めてね。分かるところにいてよ?」
振り返って、笑いかけた。
「お前も、アイス落とすなよ?」
つられて笑おうとするのを、わざと皮肉言って、つんのめらせるんだもん。
「なら 一緒に来る?」
負けじと押してみたら
「ここで待ってる」
向こうも引かなかった。
もぅ、素直じゃないんだから。でもいいや。
アタシだけのワガママオネダリじゃないって分かったし。貴方も、貴方なりに楽しみにしてくれてるって分かったし。
そんな二人のひととき。
甘酸っぱい…ジェラートに、しちゃおうかな。今の気持ちみたいに。




