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アタシだって、オンナノコだったり、男勝りだったり。

毎度!

物流センターの管理社員 蕃昌真知子でござい!

今日も明日も明後日もガテン系でっせー



どこの倉庫でも1つや2つあると思うの。

「最近『出る』らしいよ?」

毎度おなじみ『怪談話』『幽霊が出た』系話。


なんかね、ウチの倉庫も最近出るらしい、特に4階で。

何人か「蕃昌さん、ヤバいっすよ!絶対居ますよ!」話を聞く事が増えてきた。


「キレイに積み上げたはずの空き箱が崩れ落ちた」とか

「あの近くになると トランシーバーが勝手にノイズを発信する」とか

出るわ出るわの報告話


マジかー、勘弁してよ

お陰様で、業務終了後の点検は、最近だーれもしたがらない。

この前はついに「4階での残業は、マジ怖いんで勘弁して下さい」拒否者が出始めてきたわ。


あー どうしよう

シフト組めないじゃない…




それは、ある日の夜のことだった。

外は突然のゲリラ豪雨に、水煙が朦々と立ち上がる空模様。雷もまた、いつまでも鳴り止まない。そんな夜のこと。


本日の作業は早々に終わらせて、作業員は順次帰宅させた。

 今は、自力通勤可能なメンツが揃っての気楽な雑談タイム。

  社内恋愛の彼氏殿リュウイチも「お前、帰れないだろ?」お迎えついでに会話へ加わり、華やかな笑い声が立て続いていた。


 リュウイチが話し出す。

「真知子から聞いたんだが、あの話本当なのか?」

 

 いつからか、リュウイチは ウチの物流センターの面々と普通にとけ込み、馴染むようになった。

 きっと、物流センターでは「秘書課の柏木チーフ」として扱わないから、羽を伸ばせるんだろうな。

 なんか、イキイキしてる。あくまで「番昌サンの彼氏」であり、「本社にいる人らしいよ。」で片付いてしまう今の扱われ方が気楽なんだと思う。



 パート社員のサブリーダー格クマ吉こと熊澤さんが返事をした。

「あぁ、4階の踊り場にいつも座ってるオジサンですよね。」

え?

リュウイチがクマ吉を見返す。


 あー、リュウイチに言ってなかったわ。

…クマ吉は、実家が信越山中にある神社関係らしい。だからなのか、生まれながら霊感が強いから…

「あのオジサンは、なんか変な悪さするとかって感じのじゃないんですよ。」

見える、を通り越して『慣れてる。』んだよね。

 リュウイチの「(俺は事情が飲み込めないんだが…)」言いたげな表情はわかるものの、他一同は慣れてるし、クマ吉もまた、いつも見かける出入り業者の人を話すような…変わらない口ぶりで話し続ける。

「僕が思うに、そっとしておいた方が良いと思うんですよね。皆がワーッとなっちゃうと、向こうもワーッとなっちゃうんで。」

クマ吉は、ニコニコといつも通り笑っている。

「こういうのは、いつも通り『あぁどうもこんにちは』程度で良いと思うんです」


 リュウイチの表情が「(幽霊の存在を肯定してるのが前提で話が進んでいるのか?)」完全に固まった。

 いや、勿論、アタシだって固まってる。アタシの場合は、単純にクマ吉の口振りがリアル過ぎて怖いから。


 クマ吉ぃ~っ!!

 簡単に言うけど、「どうもこんにちわ」なんて、アタシ怖くて言えないわよ。感覚、追い付かない。

…クマ吉、見慣れてるんだろうけど、アタシは怖いっ!!!


 一方、クマ吉の答えに、我らが上司武藤のオヤジさんが、納得したようにうなづいた。

「まぁな。足があるか無いかだけの差だもんなぁ?」


いやいやいやいや…っ!

オヤジさんまで簡単に言わないで。その差は、デカいわよ


「何の因果で逝かねえのか知らねぇが、明日は我が身かもしれねぇ話だ。

 逝きそびれた末に、騒がれたんじゃ悪さもしたくなるってなあ、分かんなくもねえな。」

オヤジさんは、神妙にいうと ニヤッとアタシをみる。

「なんでえ? 湿っぽいじゃねえ?」

うっ。

「幽霊だろうが、元は人間だ。

 下手したら、あちらさんの方が、ここは長ぇんだから、挨拶でもしとけゃいいんだ。もしかしたら、イケる口かも知れねえだろ?」

…武藤のオヤジさんは、不思議な人だと思う。この人の考え方は、とっても暖かい。オヤジさんが笑うと なんでも解決する。暗い気持ちも、何とかなる気がしてくる。

 ホント…不思議なひと…


 オヤジさんは、アタシの視線に気付く様子もなく、おもむろに膝を叩いて立ち上がった。

「よし、店仕舞いして帰ぇるぞ。」

カラッとした明るさに、つられて皆が立ち上がる。 

「見回り、手分けすっぞ。」

湿っぽくなってても仕方ない。よし、今日はこれで仕切って明日を考えよう!




オヤジさんの指示は、いつも鶴の一声だ。

それぞれに指示を出すと、各自が散らばっていく。


ちなみに、アタシは…4階だって。

…例の幽霊騒動の。


しゃあない、行ってくるかあ!

「了解っ!」

 自分に活を入れて明るく良く立ち上がった時だった。

「俺も行こう」

 リュウイチが当たり前のように立ち上がった。そして、さり気なくエスコートするようにアタシの背中へ手を添えて立たせた。

 その手のひらの感覚が嬉しい。リュウイチって、やっぱ優しい。

 リュウイチは、そのまま誰もみていない隙に、するりと手をとり、そして一瞬だけ、キュッと握ってくれた。


リュウイチ、覚えててくれたんだ。

アタシが、ホラー映画とかサスペンスとか…ホントは嫌いなのを。


 アタシね、ホンットだめなの。ああいうの。「見えない」だけに、勝手にますます想像して怖くなっちゃうの。リュウイチは、それを多分知ってる…


 ツーンといつも通りな顔してるけど、この人は、やっぱ、ギリギリのところで不意に甘やかせてくれる。

 嬉しくなって、ちょっとだけ… 気持ち半分の半歩くらいだけ近付いてみた。

「リュウイチ、ありがと」

言葉と共に。




エレベーターは、4階に到着。まずは、二人で作業場併設の休憩室へ向かう時だった。


すみませーん!


呼ばれた気がして、振り返ると 誰もいなかった。そして、不可解なことが一つ。

「マチ?」

不思議そうな顔のままリュウイチがアタシを呼ぶ。

「付けた筈のエレベーター前の電気が消えている… アタシ、消したっけ?」

消したっけ?もなにも、普段は、1階事務所に戻るまで絶対消さないんだけどな…

「いや。ここの照明は、勝手に消えるシステムなのかと思った」

リュウイチが答える。


なんなんだ? なんか変ね?


引っかかることもありつつ、リュウイチと今度は作業フロアに入った時だった。

待ってくださーい、とまた呼ばれた気がした。


…誰だろ?


足を止めた途端、いきなり、バチッと音がした。

 そうかと思うと、いまいるフロア、すべての照明が一斉に落ちてしまった。

「キャッ!」

アタシの悲鳴が、他に誰もいないフロアに響き渡った。とっさに、胸を両手で抱え、猫背のように身を丸めたアタシ。目を固く瞑ったものの、何の物音もしないので、恐る恐る目を細く、少しずつ開けていく…恐る恐る見渡せば、薄ぼんやりと非常灯だけが見える状態…


 うわー、出たよ。これが噂の「幽霊のイタズラ」ってやつねー

お出ましたわけか― と、思うのは自由だけど、いざ喰らってみれば心臓はバクバクで。

暗闇に目が慣れるまで、リュウイチのスーツの上着をギューって握ってしまってた。

リュウイチ、ごめん。何も言わずに、しばらくこのままでいて…


 ところが、リュウイチは、こちらがビックリするくらい冷静で。

「お前、ケータイ持ってるか?」

早くも自分のケータイのバックライトで周囲を照らし始めた。

「一時的な停電かもな?…これだけの雨ならどこかで雷でも落ちたんだろ…」

淡々とアタシを抱き寄せる。

長い腕が腰から引き寄せ、大きな手のひらが背中を押す。

ピッタリと抱き合ったアタシたち…外には、相窓を打ちつける豪雨と時折フラッシュする雷光だけが際立つ。


…リュウイチ、胸があったかい。

僅かに、ワイシャツからいい匂いがする…これ、柔軟剤だよね。

 何となく落ち着いてきたとき、また暗がりの中から声がした。


「あー、今の携帯電話って明るいんですねー」

後ろからかしら?

「だれ? まだ残ってたの?」

仕事となると、すぐにスイッチが入るアタシ。自分でも驚くくらい堂々とした声が出た。

「熊澤さんに声を掛けられたものですから」

「あぁそうなんだ。」

気が付けば、リュウイチの腕の中から離れて、普通に立ててる。しかも、大事な話をしようと、気持ちは既に平常心だった。

「今、このフロアは、幽霊が出るって話が頻発に流れているでしょ?」

アタシは前置きを付けた後、一旦、息を大きく吸って…よし!一息に続けた。

「怖がる人も多い時期だから、ネタを増やすような事は、止めようね。」

「…はい。」

神妙な返事がくる。…よし、返事してくれた。ふう、良かった。

「ありがとうね、宜しくね。」

今は暗がりで、誰がいるのかすら分からないけど、気持ちは笑顔だ。伝わると信じて、明るい気持ちで

「じゃあ、お疲れ様!」

手を挙げた。

すると、暗がりから返事が来る。

「お世話さまでした。お先に失礼します。」


遠くで階段の照明スイッチが作動した音が聞こえた…あぁ、帰ったんだね。

そう思った程なく後、フロアの電気も復旧した。ようやくリュウイチの顔が見れた時、リュウイチもまた、ケータイのバックライトを落とした。


「…なんだよ?」

リュウイチが、いう。

なんだよ?じゃないわよ、さっきのは 何も見なかった事にしてよ。

…幽霊かもしれないって、怖くなって抱きついたくらい…女子なんだから許してよ。

「なんでも、ない」

リュウイチから離れて背を向けると、すかさず

「都合良く女に戻るなら、最初から女でいればいいじゃねえか」

面倒くせえ、そう言いたげな声が背中に刺さった。

「どういう意味よ?!」

振り向いたその先で見たものは。

「!!」

「普段でも出るなら、いつも聞かせろ。」

リュウイチだって、そんなカオ出来るんだったら…いつも見せてよ…


腰が砕けるほど赤面したアタシは、随分経つまで元に戻れなかった。

もーっ!

このオトコは、イイ奴なときだってあるのに、苦手に漬け込んで嫌な奴になったりするんだから、もう…



人間関係に「あう」「あわない」があるように、恋愛の間柄にも、「素顔を出せる」「出せない」があるのかな。

アタシたちはきっと、出せる間柄なのかな、そうなのかもね



全部の確認が終わって、1階事務所へ降りてきた頃には、雨はすっかり止んでいた。

オヤジさんたちは、既に全員が戻ってきていて、車通勤のリン兄は、クマ吉を家まで送るだとか話している。


あ。そういえば。

さっき、暗がりですれ違ったのって…誰だったんだろ?

「上に誰か残ってたんだけど、下りてきた?」

クマ吉とリン兄、二人が「え?」振り返る。


だって、

「熊沢さんに声を掛けられたって…」

クマ吉が首をひねった。武藤の親父さんもリン兄も「全員帰してるぜ?」「バッチも出退勤もそろってます」口をそろえている。

クマ吉が、首をひねったまま言った。

「そういえば、4階のオジサンが『もう行くね』って、さっき来たような?」


アタシは思わず、リュウイチをみた。リュウイチもアタシをみた。


…ってことは?

勝手にスイッチが、あの時落ちたりしたし?


キャーッ!!!!


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