女は度胸
「で、あるからにして、えー今季も集中的な改善努力を求めていきたい流れでして」
今日は、本社での全体朝礼
さっきから、総務のエラい人がダラダラと何か喋ってる。でもって、この次の次がアタシが所属する物流部。
ただ待ってるにしても、早くも履き慣れてないパンプスが痛い。
頼むから、ちゃっちゃとしゃべり終わってくれないかなあ?
アタシは、物流センターの現場社員。普段は、物流センターで働いてる。けど、「本社と近いんだから、全体朝礼ぐらい顔を出しに来い」ってさ。
この頃、チョイチョイ こういう場に呼び出される事が増えてきた。
はあ。憂鬱。
出席するからには、「前月の報告と反省」「今月の豊富と目標」を一言言わなきゃいけない。
慣れないだけに、ブルーになる。
せめてもの救いは、今回がデビュー戦だから、ちょっぴり『割引』があった。
上司である武藤課長…こと 武藤のオヤジさんが付き添いに来てくれた。もちろん、理由の半分は冷やかしで
「お前ぇさん、思ったことも口に出来ねえなんざ、ハナ垂れ小僧さんと変わんねえじゃねえか」ニヤニヤと笑ってたけど。
そしてなにより。
社内恋愛中の彼氏殿(しかも本社勤務者!) リュウイチが なんとなんとの出張中!!
おっしゃーっ!!!
やっぱさ。
好きな人とかには、失敗するかもしれないトコには 立ち会って欲しくないじゃん。
恋人には、オロオロなんかしちゃってる弱いアタシは見られたくない。きっと笑われちゃう。
今回は、慣らしって感じでいいや。
次回は、周りの様子みながら 言葉を選んで… そんな感じでやり過ごすつもりでアタシは、総務部長の長い話を聞いていた
だがバット。
神様ってイジワルだなって思った。
部屋から出入りできるドアが開いたかとおもうと…
「(出張中じゃなかったのーっ!!)」
入ってきたのは、見慣れたっていうか、すんっごいよく知ってる長身の男が入ってきた。いうまでもなく、彼氏殿柏木竜一サマ その人。
マジかよーっ!! 出張で今日の午後戻りって言ってたじゃーん!
アタシのどんよりとした視線を見るでもなく…彼氏殿リュウイチは、部屋の奥まで入ってきた。進む先は、おそらく…社長 専務 常務たちが立ち並ぶ取締役たちのすぐそば。
ゆらりと、あくまで自然に優雅に。しぃんとした空気に波風立てることなく溶け込むように歩き、そして立つ。
…リュウイチ、秘書課の人だもんな…
しかも。
入社してからずっと本社勤務だって言ってた。こんな空気は慣れっこだし、秘書課でチーフやってれば、動作だって…自然に出来るんだろうな。
話そっちのけで 目で追い、そのまま釘付けになってるアタシがいる。
すっ、と立つ姿が ついつい目を引くのよね。
稟としてる。
胸元から手帳を取り出して、朝礼の話題をメモを取る姿なんか、ホント…ドラマか映画に出てきそうなビジネスマン。
佇まいといい、身の仕草といい…
こんなこと考えてると、さ
なんか、一方的に見とれて、憧れてるだけのアタシに気が付く。
恋人にときめくのは、別に悪いことじゃないけど…さ。
自分と比べたときの劣等感がキツいのよね。
ミジメな気分になる…ここが、切ない。
ベタだけど、永遠のテーマ
『なんで、アタシなんかと付き合ってるんだろ?』
リュウイチは、所属上は秘書課だけど、現役バリバリのビジネスマン
トップセールスにも同行するし、名義だけ借りて書類を出したりのやり取りもある。
そんな男が ガテン最前線のアタシと、なぜ?
いつも考えちゃう。
アタシは、こんな気取った空気は苦手。場に即した言葉遣いも立ち振る舞いだって、自信ない。
数字だって強くないし、マネジメント業っぽい知識があるワケでもない。
でも、アタシは、このままでいいの?不安なまま、ズルズル留まるの?
恋人に引け目を感じたまま、何もしないで 呆れられるのをただ受け入れるの?
良いワケない!アタシ自身がヤダ!
いくら相手の土俵が 不得意分野だからって、気持ちで負けるほど アタシはヤワだっけ?
ぶっちゃけ ヤワかもしれない。
でも、ヤワなりに、自分の持ち場で頑張ってきた自負はある。
あるから、今、ここに呼ばれて そして発表する機会も持たせてもらった。
(望んで来てるワケじゃないけど。)
ヒヨる必要もないし、強がる必要もない。
いま、出来ることを精一杯やって、成長していけばいい!
不意に隣にいた武藤のオヤジさんが笑った
「なんでえ。お嬢、ややこしい顔してんじゃねえか」
ニヤニヤと笑ったまま、こっちをみてる。
そうだ。
ややこしいことなんか、ない。
「大丈夫ですよ、朝礼なんか 毎日 物流センターでやってますから」
本社の全体朝礼なんか怖くない。
物流センターの作業員を相手にしてたのが、単に変わっただけ。
本社勤務+ライブ中継で繋がる他事業所社員たちになっただけ。
ビビるな、アタシ。
「では、物流部より。 物流センター 番昌真知子チーフ お願いします」
司会役の総務がアタシを促す。
アタシは、マイク前まで進むと、一旦息を止めて、思いっきり吸い込んだ。
ふぅ、とはいて いつも思い浮かべることを過ぎらせる。
今日は、何を話そうかな。
アタシと繋がる仲間の皆に、伝えてあげたい大事なコトは、えーっと…あの話にしよう。
よーし、今日も やっちゃうもんね!
「おはようございます!」
物流センターの朝礼と同じ声は、本社の狭くて低い天井へ真っ直ぐに飛んでいった。
オンナは度胸。
笑って明るく 声さえでれば、あとは頑張れる。
皆に助けられ支えられる輪が出来る。
下がるな、アタシ。
アタシは、アタシで立てばいい。
アタシは、アタシなりに此処まで着たんだから




