これが貴方の愛情表現
「あーダメだ。眠い!」
一人誰もいない部屋で呟いた。
眠いときは、何をやっても眠い。
そりゃそうだよね。
連日遅かったし、慣れない仕事も乗っかったし。
そんな中、我が彼氏殿リュウイチの家で夕飯作って待ってるアタシがいる…好きって気持ちは恐ろしいもんだね。疲れてても、何かやってあげたいって気持ちが沸き起こるんだもん。
お互い、同じ会社で同じような責任抱えて働いてる…アタシだけが疲れてグッタリしてるワケじゃない。きっと、まだまだ帰ってこれないリュウイチだってクタクタで帰ってくる。だからこそ。家に辿り着いたときは、 気持ち良く迎えてあげたい。
眠い身体を叱咤しながら、シャワー浴びながら、洗濯して お風呂も洗って…少しでも、片付けながらそんなことを思う。
とはいえ。
「ダメだ、眠いものは眠い!」
今日はもう限界!!!クッションを枕に、アタシは崩れるように眠ってしまった…
耳元で、ドスドス音が聞こえたよーな… あれ、リュウイチなのかな。もう帰って来ちゃった?
「お帰り」
起き上がって玄関の方を見た。ぼんやりとオレンジ色が漏れている。
ん…、まぶしい…
ぼーっとしていると、視界にリュウイチの大きな上背が見える。
「…そんな所で寝るな」
リュウイチがなんかやってるな…折り畳みの傘を丁寧に拭いてるんか…。
外、いつのまにか雨降っているんだ…
心なしか、スーツの肩口も、霧を纏ったように光っているように見えた。
リュウイチは、ちらりとアタシをみて言う。
「髪、乾かして寝ろ」
んー、だって。眠くて限界だったんだもん。
「じゃー、やって欲しーなー」
どうせやってくれないと思うけど。寝ぼけたアタマは、強気に敢えていってみてきた。
「甘えんじゃねえよ」
あーやっぱりソウデスヨネ
予想通りというか、お約束というか。
鼻で笑ったリュウイチは、そのまま脱衣場へ向かってしまった。それを追うように、バサバサと服を脱ぎ捨ててる音が聞こえてくる。
んー、まあまあ。
その辺のリアクションは、いつも通りですわな。思った通り過ぎて、笑ってしまう自分がいる。
そんなんでも。
アタシは、なんだかんだで、リュウイチが好きなんだと思う。
ぶっきらぼうで、愛想もないあの男だけど。分かるようになってきたし、悪い奴じゃない。
…歴代ぶっちぎりに、会話が続かないけど、なんか…好きのよね。なんか。
なんでだろね。
好きで居続ける根拠って ほんとに不思議。
リュウイチが戻ってきたときは、真っ白いTシャツにわずかに緩いストレートのジーンズ姿。学生とかと違って、オトコの艶とか色気みたいなものがあるのは、なんの差なのかな…
ハンガーに掛けたスーツを部屋に掛ける横顔を見れば、ばっちり決めたオールバックが、僅かにビジネスマンの余韻を漂わせてる。
リュウイチがシャワー浴びて、あの整髪料を落とすと…本当はサラサラなストレートの髪の毛なんだよね。リュウイチの髪に触って、何度も梳くと、気持ちよさそうに もたれてくれるの。
二人だけの本当に内緒の時間を思い出してしまい、ちょっとドキッとしてる自分がいる。
でも。
「シャンとしろ」
ほーらね、現実は 簡単に夢を見させてくれないのよ。
んー、だって。眠いんだけどなー
リュウイチが、少しだけイライラしながら、アタシの後ろに座る。
「バカは風邪を引かないだろうが、髪は痛む。」
もー、どーしてそーいう言い方するかなー?
相変わらず冷たい言い方の割には、コードが解かれる音がした。
コンセントが繋がれるカチャっと軽い音が響いて…あれ? 続けて聞こえてきたのは、小うるさいモーター音。
「少しは離れろ。手が動かせない。」
リュウイチは、ドライヤーのスイッチを入れてアタシの髪を乾かし始めた。
おっと、優しいじゃない?
美容師さながらに、指先で頭皮を軽くさするように空気を入れながら、手際良く乾かしていく。
んー、温風が暖かいなー
なんか、眠いけど 疲れた~って気分が解れるかも~
あー
愛されてるって、実感できるー
慎ましく、ささやかだからこそ、安心して幸せって思える。
「手が掛かる女だな…」
派手なモーター音の合間からリュウイチの声が聞こえた。
「んー。」
まさか、だってホントに甘やかせてくれると思わなかったんだもん。
「アタシ、ホントは、そんなキャラじゃないんだけどな…」
「甘えたいんだろ、俺に。好きだから」
ん…そうだけど。だからって口に出さなくたってイイでしょ…
なんで、こんな憎まれ口は、スムーズにででくるのかな~このオトコは。元々は、こんだけ優しいのに。
「ほら、もういいだろ」
「うん アリガト」
立ち上がろうとしたら、ふいによろめいて
「キャ!」
たまたま、まだ背中にいたリュウイチの腕にすぽんと落ちた。
「なんだよ、ベッドまで連れて行けってか?」
なんか笑ってる。
ねえ、そのイヤーな笑い方って…もしかしてさっき、ワザとなんかした?
「だ、大丈夫だって」
「手掛かる、な」
ねえ、それって。
「手を掛け…」
アタシに手を掛けたいんでしょ、って言いかけて、止めた。
だって。
「んー、そうかも。もうチョット…」
それが、貴方なりの愛情表現だと思ったから。
素直に可愛げある会話が出来ない貴方。
手が掛かるのは、貴方の方だと思うけど、言わないでいてあげる。
「イイじゃん? 分かってるんだったら、やって欲しい、かな」
アタシがそんな貴方を好きなのは、知ってるンデショ?
なら、貴方に伝わる愛情表現で会話しよ?
キスをねだって、手を絡ませた。
苦笑いに聞こえない笑いが聞こえた気がしたときには、欲しかった感覚がおりてきた。
瞑ってしまった視界は、もう気にならず 遠くで洗濯機乾燥機が終了のブザーを鳴らしていたけど…
これもまた、貴方の愛情表現。
そんな貴方も、なんか好きなのよね。
ホント。手が掛かるけど、ね




