ささやかな夢と願い ー柏木視点
今の恋人は、コトが済めばそのまま眠ってしまう。
果てると、そのまま昏々と眠り続け、早くて30分、長くて数時間は起きない。…意識を手放す程、感じてくれるのは男冥利に尽きる、とは思うが。
そろそろ、一人放置される身にもなって欲しい。
今日もまた、例に漏れなかった。…キスしても、舐めても寝返り一つ打たず、寝息を立てて眠っていた。
汗を拭い、乱れた髪を梳いて、日当たりと風通しのいい場所へ移してやるのがいつもの仕事になってきた。
勘違いするなよ?
お前、寝汗も代謝も激しいんだよ… 風を入れないと、その晩 俺が落ち着かないんだからな。
洗い立てのシーツで彼女をくるみ、そして抱き上げる。
先程までの汗だけでは済まない匂いを吸ったシーツは、この後で洗濯機に放り込む予定だ。
新しいシーツごと 抱き上げると そのままソファに向かう。俺が好き好んで世話を焼くにも、理由があった。
歩きざまに 壁に掛けた一枚鏡とすれ違う。そこへ写る自分たちが好きだった。
祝福の白を纏い 神聖なる誓いの路を歩いてきた2人のように見える。
…悪くない。むしろ…なかなか いい。
手に負えないほど、自由奔放だが、最高に可愛い女だと思う。いっそのこと、手元において、すぐさま自分のモノにしまいたい。そんな衝動に駆られる。
若干、押し付けが大きい妄想を巡らせていたが、すぐに我に戻った。
切り出すのは簡単だが、色々整えてから切り出したいんだよ、俺は。
俺の想いもよそに、今日もまた彼女は、全てを預けて懇々と眠りつづけていた。頬は、ぴったりと俺の胸にすり寄せている。
幸せそうに眠っている…
こういう日は、目覚めるのも早い。洗濯機へシーツを押し込んだ頃には目が覚めているかもしれない。
急いだ方がいい。
思い至った俺は、いつも通り、ソファへ彼女を移すと、個人ケータイを持ってきた。
そして。
…悪いな、真知子
心の中で小さく詫びて、剥き出しの肩と無防備な寝顔を、胸の先端が見えるかどうかの際どいアングルで撮影した。
保存したデータは、すぐそまパソコンの個人アドレスへ送る。
犯罪まがいかもしれない。が、一枚くらいいいだろ?
…ヤバいぐらい好きなんだよ。
詫びる言葉とともに、起きているときの彼女には、伝えたことのない言葉を囁いた。
「恋人」には、一生に一度しか、と決めている言葉だ。
共に歩むと定まれば、閨で伝えるのもいいとは思うが…言うと決めたときは重く誠実に使いたい。
「やっぱり、起きないか」
過去にも、何度か試したが、今回も起きなかった。俺も懲りないが、苦笑いがいつものごとく込み上げる。
眠る彼女をそのままに、俺は、寝乱れたベッドへ戻った。
またに、こうして予行練習しよう。本番は、記憶に残る失敗は起きまい。
そんなことを思いながら。