男の殻って柔らかくならないの?
ある日の夜のこと。
仕事も終わって帰り掛けに我が彼氏殿リュウイチから連絡がきた。
「今夜泊まりに行く」から、ゴハンを作って欲しいって。
いきなり、リュウイチから連絡がきて「泊めて~」って、最近増えてきた。
特にこの頃は。
最近のリュウイチは、相当忙しいらしい。
胃も心も疲れ切って、食欲もないって感じ。
振り返ると、カーペットで寝転んで動かない時もある。
今夜もリュウイチは、おそかった。
日付もそろそろ変わる頃に、「…着いた。開けてくれ」電話がきた。
「…洗っておいてくれ」
ただいまの挨拶もそこそこに、ワイシャツを脱ぎ始める。
うーん、と思ういきなりのストリップ。
…道徳的にどうこうとは、違うの。
何度みてもこの男は 筋肉が無いから、有り難みがないというか、なんというか。
幸か不幸か。
物流センターで働いているアタシは、「肉付き」というモノには結構詳しい。
みんな、騙されちゃダメよ?
世間の「スタイルがいい」男子でも、「ただ痩せてるだけの男」は結構いる。
仕事柄さあ。
毎日、リアルマッスルたちに囲まれているとね…「一般人」は、分かりやすいのよ。
…不摂生とか食事制限だけで痩せた男の身体付きとかは、分かるのよね。何となく。
これは完全に余談だけど…実は、歩く姿勢だけでその人のコンディションが分かるときもある。気持ち悪がられるから、滅多に言わないけど。
そうこうしていると
「ふう…」
リュウイチが、シャワーの雫を払いながら出てきた。
いつも思うけど…
この男は 体格の割には、脚が細いなー
マニアな視点で申し訳ないけど、踵が薄い。スネから太ももを見ると、多少なりとも運動はしていたんだろうけど…
一般人だから仕方ないけど、もーすこし厚くてもいいんでない?
「なんだ?」
ふと聞いてみた。
「すぐ身体がダルくなるでしょ? 腰痛も抱えてたりする?」
「まあな」
やっぱりね。冷え性なのも何となく納得。筋肉量がちーと少な過ぎるかな。少ない筋肉が少ない中頑張りすぎたって気がする。
ではでは。
疲れて帰ってきたマイダーリンのために。
「疲労回復の促進効果を狙って、リンパマッサージをしてしんぜよう!」
リュウイチには、うつ伏せに寝てもらい アタシは代謝を上げてくれるマッサージを始めたのでした
男の人って、本当に溜め混んでると思う。
…リュウイチの身体は特に、全身ガッチガチ。なんで此処まで張り詰めてしまったんだろう?
でもね
…男の人って、繊細だよね。
無理してるのねって言っても、正直に答えない。知れることすら、プライドに触れるらしい。
貴方は、特にそうね。いつも、厚い殻でもって自分のイメージを守ってる。
触ってるだけで伝わる貴方の殻。
例えば、アタマの部分。アタシの指が踏み込むのを拒むように固い。胸板もまた、通う血を悟らせないように冷たい。大きくしなやかなはずの手先だって、躍動を忘れたように、動きが悪い。
触って分かる身体の訴えが、痛々しいよ。
そうまでして守りたい貴方の「殻」への執着って、なんなのかしら?どうしてそこまで、ストイックなんだろう。
けど、ね。
愚痴もいわず、ひたすらに理想の自分を追おうとする貴方は、尊敬するしカッコいいと思う。
だからね、せめて、殻を柔らかくしたいの、アタシは。
殻ってね、固すぎると脆いのよ?ぶつかられても割れないように…たまには、受け流せる柔らかさを授けてあげたい…
元気になって。
柔らかい部分も、忘れないで。
規則正しく続く寝息が続くまま、何もいわない貴方の後ろ姿にそっと祈ってみた。
応援するから、頑張って…
ようやく、足先があったかくなってきた頃だった。幾分、足の甲の色に赤味が出たかもしれない。
「リュウイチ、腰痛もあるんだっけ?」
案外、お尻の筋肉って凝るのよ?知らない人多いけど。
そう思って、身体を起こすのを促そうと思っていたんだけど。
「真知子、いい」
断られた。
「気持ちよくなかった?」
あれれ、アタシのマッサージ、お好みじゃなかったか… ちと残念
「違う。」
グッと引き寄せられて分かったのは。
「…あ。」
忘れてた。
リンパのマッサージすると、全身の血行が良くなるんだけど、男の人のアレにも 血液がめぐって 元気になることがあるんだっけ…
「最後まで責任持てよ?」
いや、あの。
元気には なって欲しかったけど、こういうのを願っていたんじゃなくてさ。
あは、あはは、あはははは…




