重なる息の先には
ふと夜中に目が覚めた
家とは違う天井が視界に入ったと思えば、遠くでバイクの走る音が聞こえた
…これは、 新聞屋さんかな…
ここは、彼氏の部屋でベットの中。寝返りを打とうと 身体を返すと 隣にいる彼氏:リュウイチ が目を冷ました
「お前が動くと、布団がずれる」
リュウイチの掠れた声が降りてくる。
「隙間の空気で 俺が寒くなる」
そっか…
二人で同じベッドに眠るってさ
ロマンチックだけど、言葉に困る「大人の現実」もあるよね
前の彼氏は、イビキが酷かった。その前の彼氏は、寝言とかよくうなされてた人だった。その前は…まあ 色々 あるわよね。
リュウイチは、超冷え症。手足が凄い冷たくて 明け方に目が覚めるのも珍しくない
オトコの人って 寝てる姿に 昼間の苦労が見える気がする。つくづく思うの。仕事という戦場に立つ武者なんだな、って
「なんか 目が冴えたな…」
リュウイチは、呟きながら 髪をかきあげて 天井を見つめ続けてる…この人は、一度目が覚めると 眠れなくなるタイプの人だ。
吐いた溜め息に 重い会議室の残り香を感じた気がした
なんか、胸が詰まるね
オトコの人が 朝までの僅かな休息を味わう姿って。
「今の音、新聞配達のバイクかな? 4時とか5時?」
「まあ、そんなところだろうな」
そっか。
「ねえ」
と言いかけて、言葉が続かない
こういう時、男の人に どう接すればいいんだろう
下手な事言って 変に傷付けるより 黙って寄り添ってた方がいい気はするけど。
でもさ?
このアタシがいきなり 静かに甘えだしたら、不自然極まりないよね…?
一人、考え事をしていた私を遮ったのは リュウイチの一言
「こい」
自分の髪をかき上げていた右手が 手招きをしている
抱き合う姿勢で 正面から向かい合ったら、「逆だ」とダメだしが出た
何が言いたいんかしら?
そう思って困惑していたら、背中から抱き抱えられ、力業で リュウイチの胸の中に ズズズと引き寄せられていた
リュウイチと身体が密着した
「うわ、脚 冷たっ!」
情緒もロマンも何にもないコメントが 思わず出てしまう
…だって 冷え性、凄まじくて ホントに冷たいんだもん…
背後から「あのなあ」 と 怒ったようなリュウイチの声が聞こえた。
「お前、眠りが深くなると 寝汗が凄いんだよ、自分じゃ分からねーだろうけど。」
俺は、暑くて目が覚めた後、その汗で布団が冷えると眠れなくなる、と 不機嫌な声が耳元で 続く。
「じゃあ 上手に寝かし付けて? 優しくあやしてくたら 湯たんぽになってあげるから。」
「寝相の悪い湯たんぽとか 嫌だな…」
もうっ! 憎まれ口ばっかり!
その割には、後ろからガッチリホールドして 身体は密着したまま。
「うるせえ湯タンポも 好きじゃない」
脚よりはまだ暖かい手のひらが、胸の前に回された
…分かりづらい愛情表現するなあ、この男。
一人苦笑いが込み上げずにいられなかったけど、仕方ない。
湯たんぽのお役目は 果たさせて頂きます、よ?
冷えきった手足に 自分を差し出して 熱を分けあう。
ねえ、リュウイチ…?
いつの頃からか、さ? キスするときは 互いの息が同じになってから始まるようになった、ね。気付いてるよね?
アレ、私 実は 好きなの。
気持ちが一つになった気持ちよさから 始まる…一人のオンナと一人のオトコが重なる時間って感じみたいで、さ。
言葉には出さないけど、預けた背中から伝わればと思って、もう少しだけ身体を預けた。
「真知…」
切ない声で呼ばれた。聞いたことがない、掠れた声…求められてるのが伝わる
「リュウ…?」
返すと、声なのか 息なのか 分からない温かい空気の震えを首元に感じた。
「(A…I、SH… TE 、RU)」
えっ?
感覚の拾い間違えでなければ「愛している」
聞き返そうと思ったけど、もし、よ?それが本当に その言葉通りだったら。
この男の事だから 理由つけて 二度も三度も 言ってくれない気がする
…愛してる、なんて 神妙な台詞、軽々しく口にするはずないもの。
シャイで ヒネクレ者で 素直じゃないのに、本当は誠実なこの男が。
互いの息が 何事もなかったように、いまも 同じ周期で 吸って吐いてが繰り返されている
掠れた息混じりにしては、間違いようのないイントネーションだった
ばか。
こんな所で 勝手に 言い投げないでよ
言うだけ言って、逃げないでよ
ありがとう、も 嬉しい、も言えないじゃない!
バカ…
気持ちの逃がし場に困って
でも、回される腕と絡められる脚が 暖かくなっているのが分かってきた頃には、後ろから 静かに淡々と寝息が聞こえて…
結局、誘われるように私も眠ってしまった
おやすみ、リュウイチ
朝までもうすこし。 朝日が登るまで ゆっくり 休もうね




