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大人の恋愛、っていってもねぇ

すれ違う人が、大体振り返るような美形の男から、「仕事柄、美人は見慣れてる」と聞かされてみ?

そんなん男から「俺と付き合え」って言われた日にゃ~

素直に「はい、そうですか」と考えられるものだろうか。


大体… 一般的な生活送ってたら、まず ヒヨると思うのよね。

フツーは。



カイシャの帰り道。

ふらっとお気に入りの散歩道へ寄り道してみた


通り道の遊歩道なの。片道45分のツーキニスト(チャリ通のことね)してるアタシ。

ブレーキワイヤーの調節を昨日やったのも確認したくて、ちょっと遠回り。

季節の花が、常に植えられているこの小路が大好きでね、新春は、椿に梅、そして木蓮 桜、桃、初夏になれば、ハナミズキ。花じゃないけど 柳の新緑が芽吹き始めると、桜の葉がいい木陰へと育ち始める。


今日は、お気に入りの喫茶店で、タンブラーへコーヒーを入れてもらい、ベンチで一息。

街灯に照らされた枝ぶりを眺めていた。ハナミズキの枝ぶりが一番好きなの。スラリとした細い枝が、適度に上へ横へと伸びていく様が エレガントでいいなと思う。



いま吐いてるため息の先は、先日 飛び込んできた恋愛相手

物流センターで75名の規模でやってる業務を指揮しているアタシ

めっちゃガテンなアタシが ひょんな事から、本社の重役秘書と知り合った。

知り合うだけで済めばこっちも気が楽だったんだけど、やり取りしてるうちに 勝手に惚れられた。

仕事上の付き合い最後の夜に、いきなり「お前、可愛いな」と押し倒された。まさに、押しかけてきた俺様。


あのねぇ?

そんな一晩のアレ一回で 男と女の間柄へ気持ちが切り替わらないわよ

言ったら フッ と鼻で笑われた上に「ロマンチックな乙女様なんだな」とよしよしされた

びっくりする様な美形で、月並みな言い方で申し訳ないんだが、所作の一つ一つが『歩くフェロモン』

自覚あるんかな? 自覚あるから、こんな台詞も平然と使うんだろうね。


ったくどう思う?この見るからに百戦錬磨っぷり!

おまけに「仕事柄、美人は見慣れてる」とか、(後日別口で)言われてみ? 

サラっと「そうなの?」って笑って受け流せるほど、大人じゃないわよ


相手を牽制したり、奇襲してみたり。

喜怒哀楽の駆け引きを、ポーカーフェイスで楽しめるほど、私は手慣れてない。

むしろ、ガテンな職場にいるから、「まずは言葉で伝えろ。詳細は、背中で伝えろ」を地で行く男に囲まれてきた。

「30になって、一晩一緒に寝たぐらいで騒ぐなよ」っつう無言の対応には、追いつけまへーん



静かな住宅街に、会社ケータイが鳴り響いた。

先は、本社らしき電話番号。下4桁が良く分からないから、どこかの部署の直通かな?

「はい、蕃昌です」

「…お前、個人ケータイは出ないのに、会社ケータイは一発ででるんだな」

名前を聞かなくても誰だか分わる話し方…奴だった。

「いま、何をしてる?」

なにって…

「帰り道。行き着けの喫茶店でテイクアウトして飲んでる」

ふっと語気が緩んだ。

「個人ケータイ掛けてもでない、職場掛けても、帰ったっていう…」

「緊急?」

「バァカ。 せっかく、同じ社内なんだ。今、何してるんだろうってのが、知りたかったんだよ」

それって、と言い掛けて口をつぐんだ。

ただ単に 構って欲しい、ツンデレ小僧じゃん。気付いたら、途端に可笑しくなって 声に出して笑いたくなった。


でも、だめだめ、我慢我慢。

この手のパートが自分の下にいるから分かるんだけど、そう言うときは

「そう? 心配してくれて ありがとうね」

嘘でも軽く言うと…「あぁ」と面食らうの、一瞬。

間違っても、相手の図星を指摘しちゃだめ。

「いま、そちらはどうなの? 忙しいの?」って、おっとり畳み掛けると 一旦は退避できる上に、返事次第では、向こうの状況を探ることができるから、仕事ではよく使う手。


「お前、意外に手ごわいな」

ククッと笑う声が聞こえる。

「流石、現場でチーフやってるだけあるな」

「そぉう? 仕事柄よ」手の内を明かした方が、付き合いやすい

「お前、早く俺に惚れろよ。随分、お姫様的に恥ずかしがってたけど、俺の見立ては狂いがないんだから。」

「あらあら、困ったわね」

手元のコーヒーを揺らしながら、空を見た。



仕事で常時75人の配下を使って仕事をしている。

どんな肩書きを持とうと、経験があっても、物流センターに立てば 私の配下として仕事をしてもらっている。

私だって、目上目線で話をするつもりはない。一個人として「どこまで一緒に仕事をしてくれるか」話をするスタンスで付き合ってきた。

各パートたちが抱えてる各々のバックグラウンドを適度に尊重しつつ、気質と性格で付き合うようにしていたから…


「私、ガテンの国のお姫様なんだけど。ご指南いただけるかしら?」


きっと、今の悩みは 解決する。

恋愛なんて、どんなにレベルアップしても、基本は変わらない。

所詮、元を正せば人付き合い。

物流倉庫業の人付き合いがメインだったけど、恋愛の人付き合いという別形態が、これから加わっただけ。

ふふ、何とかなるわ、きっと。


「面倒くさそうだな」「あら、イケズな事を言うのね?」「分ったよ、今度の休みはいつなんだ?」

楽しそうな未来が見えて 笑ったら、隣のハナミズキの枝が揺れて。

応援してくれてる気がした。


だいじょうぶ。

大人の恋愛っていっても、所詮 人間関係の一形態よ

恐れるな、ガテンの国のお姫様。

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