かわいい と キレイ 2択しかないの? 〔後〕
本当に悔しい思いをすると 誰にも相談しなくなる。
それが、アタシの特徴の1コらしい。
直属のパートのリーダーが言ってたわ。
まぁ それもそのはずよね。あたっていると思うわ。
だって、言われたのが 悔しくて 人に漏らすのすら腹立たしくて。
だったら、一秒でも早く、濃い努力をしたいもん。
自分の顔に自信を持っていた訳じゃないんだけどね、
どこぞの若造二匹に、「わかんない顔」といわれたのは ショックだった
でもね、
ショックというより、同時に 自分に非もあるのは わかってたの。
お化粧しないし、服だって 別段 がんばってない。
流行を横目に見ることもなく、自分に新しい変化とか刺激をくわえることもなく…
自分の「見た目意識」って 結構 止まっちゃってる。
彼氏がいるのに、
「きれいだね」「かわいいね」言われたいと思う気持ちがゼロじゃないのに
努力はまったくしてない。
そんなアタシが 評価だけを求めるなんて 絶対間違ってる。
やっぱり、努力しなきゃ 駄目だ
手始めに かんざしを買ってみたわ。
髪の毛、自慢じゃないけど お金掛けてるの。
化粧品にお金を掛けるの、嫌いなんだけど、さ。
シャンプーとコンディショナーには 結構 つぎ込んでる笑
だからね、思ったの。
自分の長い髪を ゴムとかで無造作に束ねる位なら、さ。
するするっと、棒一本で 髪を巻き上げた方が 小粋かなっておもって。
でもね、早くも問題発生。
不器用なアタシには、自分の髪が 手に負えない…
まったくといっていい程、髪がツルツル滑ってしまい、上手く扱えない。
やばい。
前途多難だわ。
暇をみては、買ったかんざしで 練習をしているアタシ
巷の雑誌で、アップのやり方を見てはいるんだけど、上手くいかないのよね~
髪が多いのかな
毛質が合わないのかな
いやいや、アタシが不器用すぎるのかな
うーん、考えちゃうところだけど、がんばるもん。
だって、さ、だってさ、思わない?
長い棒1本だけで、器用に髪を纏め上げて、
用が済んだら スッと引き抜いて またロングヘアに戻るっていう 手際の鮮やかさがあったら
絶対かっこいいと思うんだけど、どうかな
アタシ、そんな女の人いたら ホイホイ 付いて行っちゃうかも?
なもんで、今日も練習中。
リュウイチ(彼氏ね)の家で、晩御飯食べ終わって、皿も片付け終わって。
奴は 「先、風呂入ってくる」一人残されたリビング。
これ幸いとばかり、例の棒…もとい かんざし を引っ張り出して 練習を再開したわけよ。
何度目かの失敗でふと思った。
この かんざしが 上級者向けなのかしらって。
あたしの手持ちは、短くて ツルツルしてるから 滑るし 絡めないし。
オイラは、思い立った。
「割り箸だったら 出来るかしら」
思い立ったが吉日。
この家、割り箸は 冷蔵庫の上に積まれていたわよね?
はてさて 一本、失敬するわよ。
大丈夫、御用が済んだら そこに戻したりしないから。
袋をポイと捨て、割り箸を握るアタシ。
いざ、練習再開!
おっ、なんか やりやすいわよ?
んーでも 物が太すぎて 若干 やりづらい?
じゃあ、割って 一本で試してみるか。
あ、よしよし 今度は 上手くいきそう。
あー 滑った! 失敗。悔しいなぁ、確かに いいトコまでいったのに。
よし、もう一回!
んー、やっぱり 自分の不器用が あだになってるなぁ…
と思いつつ、ちょっとだけ活路が見えたアタシは 上機嫌
これは 結構 イケる発見だった。
今は 割り箸だけど、さ
もしこれが朱塗りとかの上品な箸を使って、凝ったトンボ球をボンドで付けて さ。
オリジナルのかんざしとか 作るってのは アリかもよ?
真っ黒な髪に、真っ赤な一本のかんざし
その対の配色が 鮮やかでいいじゃない、イケてるわ。絶対やりたい、がんばろーっと
どうやら、そのまま自分の世界に入り込んでいたらしい。
「真知子、お前 そんな暗がりで 何している?」
その声にギクッとした。
「りゅ、りゅういち?」
すぐ後ろで フフと笑ってる
濡れた髪に、顔に掛かる水滴。
いいわよねー 男は。すっぴんで勝負で 清清しい限りなのが羨ましいわ
女は 小細工で補正できたとしても、補正のセンスで優劣決まるんだから、めんどくさい
「割り箸?」
クククと笑う顔が みてて辛い
いたたまれなくなり、恥ずかしい限りだけど、アタシは おとなしく 暴露することにした
「纏め髪、覚えたくてさ…」
お上品に水面を泳ぐスワン、でも その足は 超必死に水かきしてるってのを 聞いたことがある
キレイというか、カッコよくなりたい。
でも その努力を見られたのは かっこ悪い
しかも、暗がりで 割り箸片手に もそもそ 練習してたなんて。
「…話はあとだ。いいから 明るいところへ来い」
私は 引きづられるように ソファーへ連れ出された
全ての事情を知ったリュウイチは 大爆笑した。
いっそ 潔いくらい
「お前、本当に退屈しないな」
こっちも 悲しいかな、引きつった笑いを浮かべながら、「(笑うしかないなぁ)」と その場に居つくすしかない
「だってさー」
掻き上げた髪が サラサラだったり、いいにおいしたりする瞬間って、なんか 気分よくない?
ふと 通りのガラスに写った自分の髪が シャラシャラなびいてる姿とかみると、ちょっとだけテンションあがる。
今 がんばってるのは、ある一瞬のため。
かんざしを 抜いた瞬間、大事にしている髪が 一気に乱れ揺らぐさまを 楽しみたいから
ただ それだけなんだよね。
器用な芸当がいるから、髪の毛がキレイじゃないと 出来ないから。
二つが重なって初めて成り立つ あたしの美学
笑われたのは、恥ずかしい限りだけど。
それでも、ちゃんと 美学通りに行き着きたいんだよね。
女心的には。
リュウイチが おもむろに「ちょっと待ってろ」傍を離れた
そして、戻ってきたときには 電子辞書を持ってきた
「charming、引いてみろ」
「え?なに?」
「いいから、シー エイチ エー アール エム アイエヌジー。引いてみろ」
結構、年季入ったように使い込まれた電子辞書。
印字の文字が消えかかってるキーボードを叩きながら、表示された文章を見つめた
「読んでみろ」
促され、声に出した。
意味は、魅力的な。人を惹き付ける良さ、的な意味が出てきた。
もっと言えば、愉快な、素敵な、愛嬌があるとか… 見た目の美意識的な表現とは ちょっと離れてる単語も出てきた。
「褒められてるとは思うけど、やっぱり 明確に褒められてる気がしない」
率直すぎるあたしの感想。
なにも あたしを満たしてくれない。
結局、アタシは 「可愛い」くもないし「キレイ」ではないらしい。
落ち着くところ「よく分からない」というのが 妥当な評価なんだ、結局のところ。
「不満か?」
リュウイチが笑う
「そりゃ…ね」
分からない、といわれて 喜ぶ人は 少ないでしょうよ、お前さん?
「分かった。
お前は、[キレイ]か[可愛い]かの二択なら どっちに入るのか 知りたいってことなのか?」
んー、まあ そんなとこ
「ちょっとまて。考えるから」
じーっと私をみて、そして 目をつぶり。んーっと考えながら 今度は 天井を仰ぎ見る。
あのー もしもし?
「考えなきゃ出ないの?」
もしもし、お兄さん? オイラの顔は そんなに、評価の難しい顔なんでしょうか?
ゴクリ、とつばを飲み込んだ。
フッと リュウイチが 視線を合わせて来た。
「考えたことないな。
ただ 一緒にいたかっただけの気持ちで いままできちゃってるから」
…!! アンタ サラッとすごいこと言うね
その一言で お腹いっぱい。
「そんなに みないでくれ。こっちが 恥ずかしい」
いやいや、さっきの口説き文句に こっちが 恥ずかしいですよ。
いやぁ、さっきのは アタシ好みの超直球ストレート!
惚れ惚れするような口説き文句で、じわじわとドキドキする。
はぁ、しんみりと うれしいかも。
「いいのか? 俺、考えなくて?」
いい。
もう十分。
居心地が大事で付き合ってくれてるなら、十分です。
「よく分かんねぇけど。」
髪を掻きあげながら、リュウイチが話し始めた。
「笑うと、可愛いなぁと思う。
ただ、佇んでいるだけの姿をみると、『可愛い』とは 少し違う。
大人っぽい雰囲気あるなぁと思うのと、たぶん、素直でいい子なんだろうな、というのは なんとなく分かる。話せば、活発で…利発的な普段なんだろうな、とね。
まぁ 実際の姿は、利発通り越して キャンキャンと 面倒くさいけどな」
要は、可愛いと思う時もあれば、キレイ?と思うほんの小さな一面もあるけど、
口を開いた瞬間 (日ごろのガサツゆえに)両方忘れてしまう、と?
でも、そんなアタシでも 一緒に居たいと、君は思っていてくれると?
そういうことだね?
「お前は、『可愛気』がある。それと一緒に 性根が『綺麗』だ。
だから、普段の仕草とか顔付きの判断に迷った」
リュウイチは 笑った
「その前に、お前が 納得したんだったら、それでいい」
そりゃあもう。穏やかに、やわらかく。そして優しく。
「アンタって、イケ面だったのね、忘れてたけど。」
そう思っちゃうくらい。
もういいや。
綺麗か 可愛いか 二択の価値観で ちっちゃく悩むのは止めよう。
こんなオイラだけど、今まで 仕事で苦労したことないし、幸い 男もちゃんと居る。
だったら 欲深く悩まずさ。
全ては小綺麗に、進む志は 可愛気に 行こうじゃないの!
がんばれアタシ。
分からん顔なりに がんばろう。
笑っているうちに、どっちか 答えがでるだろう。
だから、ガンバろう…
ちなみに。
かんざし の話は、「解くの、俺 やりたい」だって。
「女の髪を 乱してみたくなるって、服を脱がせたくなる気持ちと同じ」なんだとさ。
練習する気が 若干 失せたのは ここだけのお話。