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適度にムカつく貴方が好き

どこの会社にもいると思うんだー

「こいつ、なんで ウチ程度の会社にいるんだろう?」ってくらい

頭の良い奴。


大体、そういう奴に限ってさぁ

その頭の良さに任せて 面倒くさい絡み方してくんのよね

いない? そういう嫌な感じの奴。


いるんだわさ、ウチにも。

本社の秘書課にいるチーフ。

いかにも!って感じの部署でしょ? 


この男、確かに 頭は良いんだけどさ

やってる仕事量と要求値は「…フツーの人 無理だから!」って思うこと、マジでしばしば。


しかも これまた サラっと「出来るよね」ぐらいな風味で 言ってくるのよ。

『この男、絶対に 確信犯で「根性出せば出来るギリギリの範囲」を見定めて言ってきやがったな』

明らか、読めるだけに 尚更ムカつく。


まぁ… 残念なことに アタシの彼氏なんだけど。




来たくも無い、本社の会議。

何かねー 良く分かんないけど、「個人情報保護を万全に講ずるために」とかいう役職者会議に引っ張り出された。


ウチ、親会社が ソコソコでかいのよ。

グループの方針で「プライバシーマーク取得にむけて頑張るから、せいぜい 子会社も足引っ張るなよ」って訳でチーフとかの部署の実務責任者がごっそり呼び出された今日の会議。


あーめんどくさい。

アタシ、これでも物流センターの責任者やってるから、実は ウチの部署が 社内で一番の大所帯なのよね。

抱えてるパートにドライバーに、出入りの業者に…

付き合ってる業者の数は、総務といい勝負。

あー、完全に 目を付けられた気がする。


会議の休憩時間、自動販売機で水を買ったら 案の定 総務の人に話しかけられた。

「物流部さん、大丈夫だよね?」

…大丈夫だよね? じゃないわよ、大丈夫じゃない、わよ。

制度そのものが 良く分かんないし、

どの程度まで 徹底しなきゃ分かんないし、

どこまで 現実的に実行できるかも分かんない。


「いやもう…」

本社相手に どこまで ぶっちゃけトークしていいか分かんないんだけど、まずは ジャブ

「今回、会議資料自体が細かくて面食らうんですけど…」

ホントね、うんざりするぐらい 細かい表が数枚きてる。

「うん、外部業者に作らせたから、僕もよく分かんないんだけどさー

 そのうち、ランダムで外部監査来ると思うから しっかり目を通しておいてねー」

は?!

なに、その問題発言!?

超無責任な上に、責任乗っけるの!?


「提出、今月末で良いよね~? まあ 月初第3営業日まで待てるけど、頑張ってみてよ」

は? 月末月初!? 一番忙しいんだけど!

こいつ、どこまでも 自分中心の他人事!


だから、本社ってきらーい




げんなりした会議後。

本社ビル1階に入居してるコーヒーショップで 一息ついた。

だめだ、これは まずい。

ぼんやり 甘く柔らかいシェードランプの光を見ながら ため息が漏れる。

どうしよう。


トントン、と肩を叩かれて 振り返ったら「会議、お疲れ」彼氏こと リュウイチだった。

「お疲れさま」

とりあえず、笑ってみる。本音は笑うなんて余裕ないけど~


会議の出席者、見渡した時 この男いなかったんだよねぇ

役職同じなんだけど、参加してなかったから コイツんとこの部署は 平気なのかなと ちょっと心配したんだけど。


「さっきのって個人情報会議だろ?

 大した会議じゃないんだから 羽伸ばせたろうなと思ったんだけどな」

浮かない顔した私が気になるらしい。

「なんなの、あの会議資料。…読むのも気力要りそうだわ」

ふーっと ため息をついて 天井を見た。

ちょっとは 同じこと思ってるわよね、と思って 期待を込めて合わせた視線は…

「そうか? 俺はそう思わなかったけど」少し 驚いた表情でこっちをみてる。

おいおい なんなのよ、そのリアクション。

むしろ、「なんでそう思うのか理解できない」ぐらいな返し方?

「法律の目的がしっかりしてるから、大した事ないよ」

はぁ… 何なんですか、アナタのその余裕。

アンタ、あの配布資料みたら その気も無くなるわよ…てゆーかそもそも

「会議で顔みなかったけど、そっちは大丈夫なの?

 配られたプリント、見る? 前言撤回するなら今のうちよ?」

「どうせ、概要は大方目処ついてたから 資料だけ先に回してもらって 俺は 欠席した。

 さっきまで家で寝てた」

なに、その余裕!

「総務課の会議で、中身が濃かった説明会って 今まであったか? 資料読み返せば 大方何とかなる事が多いからな」


まぁ 半分その通りなんだけど、そうだけどね?

普通、一応さぁ。

会議へ出てりゃ、なんか ちいとでも分かるかなって思ったりするじゃん。フツウ

こんな状況で休んでおいてさ「分かりません」とかなったら、それまた損だし、

そもそも そんな自己責任怖いし。


「どうせ、総務も 自分のとこじゃ分からなくて、最後は 人に作ってもらったのが関の山だろ?」

クスっと笑う顔をみて、さっき 総務部の人と話した会話がフラッシュバックする。

「そういえば、そんな事言ってた…」

ふぅ、とため息をつくような顔。

「『そういえば…』なんて、センスのかけらもない。」

考えればわかるだろ、が チラチラ見え隠れするこの冷やかな言い方

あームカつく。なんなの、この頭のよさ


だから。

念のため聞いてみる。「資料の内容は知ってるのね?」即答で「あぁ」

もう一度、念のため聞いてみる。「あれ見て、萎えたりしない?」やっぱり即答で「どこが?」

「あのさぁ」上手く言葉にならないが、とりあえず言いたい言葉がある。

「何なの?その 不思議なゆとりは?」

フフフっと不敵な笑いが ホントに不思議でならない。

「悪いな、俺 頭いいからさ」


「今日も一段とムカつくわね」

「そんな褒めるなよ」

「うわ、アンタ、面倒くさ!」

「何とでも言え」



「あぁそうそう」と奴がいう

アタシの罵倒を意に介さないくらいサラッというこの顔・この口。

「お前の所、監査の対象だから 手抜きするなよ」

キター! ぷしゅー!

「それ、マジなの?」

秘書課で機密を知ってるこの男の情報は、嘘が無い。

聞くまでもないんだけど、毎回「嘘だと言ってくれ」と思ってついつい言ってしまう。

「あぁ。お前の所は、一番の大所帯だからな。ボロが一番でやすいから、上も本腰入れてみるってさ」

あうあう、逃げられない。

あうあう、どうしよう。



この後、どうやって センターに帰ったか記憶がない。

ただ、ヤケになって 連日 残業しながら

「どうせ、こんな事が出来てればいいんでしょ」

「総務課よ。お前たちも どうせ 中身は詳しくないんでしょ」的に

投げやり感満載のまま提出物を仕上げ、さっさと送付してしまった。

監査なら監査しやがれ。

むしろ、その日に「ここ、ダメですね」「ここ、まぁ…微妙に駄目ですね」の検査項目教えてもらった方が よっぽど今後の為だわ。

改善後の再検査で合格出ればいいんじゃん。


とにかく! とにかく! アタシは知らん!



後日、リュウイチから電話がかかってきた。

珍しく 仕事中に。

「提出の日付みて驚いた。 相変わらず雑な報告書だけど、良くあれだけの間で提出してきたんだな」

「どういう意味?」

褒めてるんだか、けなされてるんだか。

「褒めてるんだよ。お前が忙しいのは 知ってるよ。かなり萎えてたのも見てたからな。」

だから。

「短期間でさっさと出してきたから、一皮むけたな と思ったんだよ」

あら、珍しい。手放しでほめてくれているのかしら。未だちょっと安心できなくて聞いてみる。

「相変わらず雑ってのは余計だけど、さ。

 今までと出来は同じだったのに、短期間で出したから、褒めてくれてるの?」

ふ、とあきれたような笑い声が聞こえた。

「出来は同じとは言ってない。むしろ、手抜きだろ?ただ…」

言葉を選んでいるのか、間が空いた。


「踏ん切りがついて、思い切って一気に書いたんだろ?今回は。

 いつもだったら、悩んでウジウジしたまま 期限直前か後になって出してくるから、それよりかは良くなったなと思ってな」

「そりゃ…」

アンタみたいな頭のいい男は 涼しい顔して仕上げられるんだろうけどさ。


アタシは いつも 貴方の背中ばかり見てる。

鮮やかに裁く手際のよさ、気味の良過ぎる完成度。

悔しいけど、ホント すごいなって思う。


だから、ちょっとでも、貴方に追いつきたくて。

仕事で手詰まると、なぜか 貴方の顔が浮かぶのよね。

「貴方だったら どうする?どう考える?」って。


そのたびにね 毎回、ふと漏らす口癖とか、私への質問とか…を思い出すの。

「お前は、どうしたい?」「でも、何が大事だと思う?」「地雷は踏んでいないか?」

いつも、何度も唱えてる。

「貴方だったら、どうするか。」を


今回も、貴方の背中を描いて書いていた

貴方が教えてくれた、道の歩き方を。



「お前は、苛めると 本領発揮するからな」

「なにその断定的な言い方!」

「壁に当たると泣かれるが 迷いがなくなると、いい冴えを見せてくれる」

「アタシ、男じゃないんですけど。」

本社から遠隔で苛められながら ある種 育てられてるってのもムカつく…

「元々、頭はいい。ただ、よく迷ってる。

 今回 吹っ切れてくれてよかったよ。

 予想を越えていい成長してくれた」

…アタシ、アンタの部下だっけ?

褒められてるけど、みょーに嬉しくないのは なぜだろう?


でも、ま。

「お前は、『いい人』と付き合ったら ダメになる。

 俺は、少し『悪者』ぐらいな距離感で付き合ってた方が、生き生きしてる。」

残念ながら 読まれてる通りなんだよね。


この男の頭の良さには敵わない

何かと小馬鹿にされては、「追いついたるわ!」と、日々 発奮。ネタをくれる事には、実はこっそり感謝もしてる。

…だって、毎日に退屈しないもの。


アタシを翻弄する匙加減ですら、握られてるってのも 癪に障るけど、さ。適度に 手のひらで遊んでくれてると思うと、コイツって もしかして リアルお釈迦様かも?と思える。なもんで、嫌いになれないのよね。

むしろ、この男が好きなんだなと思う。いろんな意味で。



「アンタって、ホント めんどくさいわね」

「お前は、『愛してる』の言い方は それしか出来ないのか? ふう。」

「…ホント めんどくさい男。」


まぁ、そうなんだよ。

適度にムカつく 貴方が好き。なんだよ。



そいでもって 一つ気になる。

「なんでアンタが アタシの提出日、知ってるの? 秘書課って そんなのも知ってるの?」

「個人情報の保守状況を、外部監査に見てもらう話が上がってる。

 お前のトコを、監査対象に挙げたのは 俺だ。 名前を出した手前、心配でね」

は?

アンタねぇ… アタシの面目は どうなるんだ。

お前、彼氏だろう。彼女を追い詰めてどうするんだ。


「どうせ、『改善後の再審査で合格出ればいいんじゃん。』ぐらいで提出してるんだろ?」

うっ、心の声すら読まれた!

「専門家が行くが、俺も同行する。

 今のうちに 専門家の監査を通っておけば、この先 数年は社内監査の対象にならない。」

そして小さく。

「俺が行くんだ。安心しろ。埃を叩き出されても、そのときは、懲罰の対象にならないよう ケツ拭きは手伝ってやるよ」


んー

しばらく また 忙しいらしい。


やっぱり 適度にムカつく貴方が 好き、かも?

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