表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/61

昔の彼女を見てしまいました

たまには、天気もいいし。そんな話になり、二人で出かけたある日の休日。

屋外テラスのカフェで、テイクアウトを買いに行った彼氏を 席から眺めていた。


あ、誰か女の人に話しかけられてる。

気付いたのもつかの間、どうにも面白くない感情がこみ上げてきた。

…一方的に話し掛けられた割には、長い。

あんまり兎や角言いたくないけど、不自然なほど、話が長引いている。

なんでこんなに イライラさせられるのか、分からないけど、イライラする。


相手が、ものすごい美人だから?

自分には到底ない女らしい華やかが あるから?

お化粧がバッチリ決まってて、洋服だって ゴージャスに着こなしちゃってるから?


超有名のブランドバックを、当たり前のように腕に下げ、

隙のない程 キレイに染め上げた長い髪を掻きあげた隙間から見えた 揺れるピアス

ドッキリするほど、胸元をきわどく魅せる服が、堂々と似合ってる。

アタシにない外見の全てを持ち合わせている女が、彼氏と話をしている。


なんで さっさと戻ってこないの?

ふと 一つの結論がでた。

それと同時に、勝手に出てくる鼻歌が一つ。


「あの子、どこの子、気になる子。

 見たこともない子ですから、見たこともない 過去があるんでしょ〜」

某有名CMの替え歌ながら、ツラツラと出てくる。



今のアタシの彼氏 柏木竜一 34才

自分で言うのも 非常に難なのだが、ウチの彼氏は 美形も美形。十分に「かっこいい」と言える男だと思う

何ていうのかなぁ、キリっとしてるんだよね。

鋭くて、子供っぽさを削いだような大人の顔。

しかも、仕草一つ一つが、変に色っぽい。動作一つとっても、優雅で余裕さがある。

放っといても、他の女が放らないだけの見た目を誇る。


アタシ、思うの。

あんだけの見た目を誇って生まれてくれば、

34才にもなった頃には、色んな過去と人間関係を持っているでしょう。


そもそも 見た目に罪はない。他所で、他の女が釣れちゃうのも分かる。

さぞや苦労しなくても「釣り上げちゃえてた」ことなんて どっさりあるに違いない。

そこを逐一文句を言うというのも 筋違いだろうし、生まれ持った物以上に 本人が努力した「内面から湧き出るもの」だって 多少なりともあるはず。

そこは、尊重すべきだ。


ただ、私が知らない面…たとえそれが 想定の範囲内だったとしても…改めて目にするとショックなのよね。

あんな女たちと同列の勝負が出来るかというと、さすがに自信がなくなる。




「悪いな、待たせた」

帰ってきた彼氏に一言浴びせた

「元カノ?」

「直球だな、他に思いつかないのか?」

図星だったのか、苦笑してる顔がわかりやすい。

「もう少し、話してきても良かったのに。久しぶりなんでしょ?」

「気にならないのか?」

気にならないっちゃー気にならないけど。

そこで、言葉を切った。

「だって、彼女がいて、今の貴方がいるんでしょ?」

散々嫉妬しておいて、私もわかりづらい奴だけど、

「人との出会いって、多少なりとも その人の人生を変えていると思うのよね。」

あんまり話し込まれても、こっちが困るけど

「色んな人との出会いと変化との積み重ねで、今の貴方がいるんだろうから、それぐらいで目くじら立てないわよ」

ちょっと強がってる気もしなくもないけど。

せめて カッコいい女でいたくて、少しだけ頑張って虚勢をはってみた

御陰で、会話は全部止まったけど…



屋外テラスってやっぱりいいな。

無垢な光と風がそのまま入ってくる。ささくれた心の刺も、抜いて取り去ってくれる。

こういうのって、本当に助かるわよね。今なんて 特に思うわ。会話しなくても済むんだから。

感傷に浸ってたら それを遮るように。

「真知子」

呼ばれて、ん? と返事した。

「真知子、ちゃんとこっちを見ろ」

機嫌の悪い声。なによ、もうちょっと 気持ちよくいたかったのに

「なぁに?」

少し他人行儀かもしれないけど、取り敢えず 作り笑顔で目を合わせる

「お前には、参った。よくわかったな」

珍しく素直だ。それに免じて、許してやろうか…何に?

「妬いたか?」

「妬いたっていうか、長いなとは思ったけど。」

「股とか掛けてないから、心配するな」

まぁ、股とか掛けても アナタなら器用にこなせそうだけどね、という一言は また修羅りそうなので 言わずに置く。


「何で分かったんだ?」

女の勘か? という返事を間髪入れずに遮った。

「仕事柄よ」

私は、物流センターで常時75人の配下(といっても パートさん達だけど)と付き合ってる。

ぶっちゃけると、歩いてくる足音一つ、フォークリフトの動かす音だけでも 誰が誰か分かる。

人に言うと 気持ち悪がられるので言わないけれど、よくよく気を付けて音を拾っていると 分かるのよね。

職業病なのかもしれない。ここまでくるとね。

「仕事柄、人をよく見てるから。普段と違うと すぐに分かるのよね。」

いや、と答える声に動揺が感じる。

「お前が一番手ごわい」

そう?((それは光栄だわ。私ぐらいチョロいとおもった?))、と 再びささくれ立った心の刺が毒をまとい始める。


あたしは、何に ささくれ立っているんだろう

自分でも、過去には感知しないって決めているのに、どこかで 険しい気持ちが渦巻いている

彼に?自分に?

過去すら読めない彼に? 彼の過去を読めないアタシに?


「悲しくなるぐらい、真知子が好きだ。我ながらね」

買ってきたコーヒーの紙コップを揺すりながら飲む、目の前の男

「意味深ね」

悲しくなるぐらいってのが。

「お前ほど 綺麗な人生送ってないからな」

あ、そう。聞いちゃいけない過去があるってわけね


取り敢えず、心中いろいろよぎったけど、なんだか、それだけ聞ければ 一旦良しとしようか…

それよしとする以外進めないってのが 正確な理由だけどさ。

アタシんトコに流れ着いてきたのも、理由があるってわけで、人の縁なんて そんなもんなんだろう。

今焦ったところで、解決するとは限らない。


だってそうじゃない?

よく恋愛で「アタシのどこが好き?」とか ついつい確かめて見たくなるけど

過去の恋愛ひっくり返したところで「好き」に理由がないのは 何度も学んだはずで、

感情本位で生きていない男の生理に無理やり言わせたところで いい結果を生まないのも見てきた

もう30才だもん

ちょっとは大人にならないと。


いつの間にか、街路樹をぼーっと眺めている自分の男に声をかけた。

まぁ ちょっと慰めてやるか

さっき、「悲しくなるぐらい、真知子が好きだ。我ながらね」と、彼なりに 謝ってきたんだ。

ちょっとは折れてあげよう


「あんだけの美人を見たあとで、『好き』って言われても イマイチ頭が追いつかないけど。…悲しいくらい単純に喜べちゃうのよね。

 アタシ、意外に、アンタの事好きかもよ?」

出来れば 笑って欲しい

出来れば 甘い顔して可愛がって欲しい

出来れば 照れてもいいから優しい言葉を言って欲しい

欲は 腐るほどあるけど、世の中の恋愛は すべからく『好きだ』と言わないと始まらない。


戻ってきた顔へ目を合わせて、念押しのようにゆっくり笑う

「ね?」

だから、貴方も笑って


返ってきたのは フっと聞こえるいつもの鼻笑い。

「何を偉そうに」

ムード台無し。コノヤロウ。

素直に、ありがとうとか、そうだね とかいえばカタがついたろうに。

馬鹿じゃないの、この男。


まぁ、この男とアタシが絡んだところで、

全部 ギャグかコントになっちゃうのは いつもの展開なんで、みんな 早く慣れて頂戴。

「そう? さっきまでシオラシクしてたのは何だったのかしら〜ん?」

「お前な…」

「はい! ごめんなさい、は? こんなん、ガキでも言えるわよ。ゴメンナサイ 言ったら許してあげる」

「あのな、何で俺が」

「煩いわね、こっちが真面目に話しているのに、ハナで笑った上に『偉そうに』なんて言われてご覧なさいよ。 怒るわよ。」

「気難しい女だな、少しは察しろよ」

「いい年して、甘えるな」

「どうしてこうなる…」

「知らないわよ。…残念だったね、アタシに捕まって」

「全くだ」


あーあ、面白い

言い合ってるうちに、知らずと頬が緩む。

「意外に好きよ。こうやって 会話に乗ってくれるトコとか。

 お互い不毛だって分かってるのに、テンポよく続くから 面白いわ」

もう一回目を合わせると、彼は途端に目を伏せて フーっとため息をついた。

勘弁してくれ、と言いたげだったけど、追求しないことにした。

ごめんなさいね、好戦的な女で。毎回律儀に乗ってくれる貴方も悪いと思うから、敢えて言わないけど。


でも、ちょっと自信が持てたのは「少し歩こう」って、手を差し出してくれたから。

あんだけの美人見たあとで、こんだけ言い合いして、手も繋いでくれる。

うん、今は アタシが好きなんだなと 信じられる。




ショッピング街を歩いてしばらく、エスカレーターに乗った直後だった。

「…不安にさせて、悪かった」危うく聞き落とすところだった。余りにも小さい声だったから

分かってくれればいいわ。

返事代わりに、手を少しだけ強く 握り返した。

すると。

私と握った手を おもむろに、リューイチは、自分の口元に寄せて…

何をやりだすんだろう? 興味新々に目で追っていただけに、驚いたのはこっちの方だ。

通った鼻筋に、長すぎる睫毛に見とれてたのもつかの間、明らかに『誓いのナントカ』さながらのが、私の手の甲へ そのまま…

公衆の面前で、いきなり 何をするの?! ちょ、ちょっと 心臓に悪いわよ。

ヨーロッパじゃあるまいし、ここは 日本よ!?


「お前でも 動揺するんだな」

フフフ、と平然と笑われる。

「人前で、ハグしろとか、横顔に濃いキスしてきたり、振り回す割には弱いんだな」

まぁ、アンタの鉄仮面、剥ぐのがライフワークみたいなもんですから… 驚かすためなら 何だってやりますけど。

って違うわよ。やるのはともかく、やられるのは、慣れてないのよ。

「わかり易い奴…俺も嫌いじゃない」

フっと笑う声が聞こえた気がしたんですけど、ちょっと何よ!?

「何いまの笑い方?! ま、でもいつもより ちょっとだけ甘い顔していたから 許してあげるわ」

「表情一つで 機嫌が直るとは 安いもんだな」

「いいの?そんな事言って…? 下手な愛想笑いは ある程度、見抜けるわよ?」

と また 不毛なじゃれ合いが続いたのは、別なお話。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ