願いは叶う。ただし、祈った通りではないけれど2―柏木視点
「願いは叶う。ただし、祈った通りではないけれど」
この言葉は、昔の彼女が 別れ際に言った言葉だ
割りきった「大人の付き合い」しか、しなかった相手だったが、妙に心に残っていた
今の彼女との再会は、その通りだ。
確かに、ずっと覚えていた。再び会えたらとへ 思っていた。
そして、願いは叶ったが、こんな再会を望んでいた訳じゃない。
本社の物流部から聞いた前評判は、確かに一理あった。
負けん気が強く、一筋縄でいかない部分はある。感情的になりやすい故に、それは、なお際立って感じる。
ただし、日常すべての面でそうかといわれると、それは違うと思う。
彼女の主張は 理不尽さが無い。
むしろ相手の立場と事情を見抜いた上で、的確に 質問をしてくる。
ただ、その言い方で損をしているだけだ。
語気が強い、容赦ない鋭い印象が残りがちになる。
ある程度、気持ちも持論も準備が出来ていないと そのまま論破されかねない。
だから 煙たがれるのだろう
元々 頭のいい子だ、おそらく。
返答を返せば 実のある質問がすぐに飛んでくる。
理解力と推察力が 抜群に高い。判断も 早い。
伊達に 100人の統率を任されてはいない
気性にやや問題あるが、出来る人材だ
彼女を取り囲む上層部に、問いかけられる質問へ適切な返答が出来るだけの人材がいなかったのだろう
そして とにかく良く働き、配下には慕われている。
すべては、自分の配下のために。
あの気性の荒さも 己を追い詰めすぎた責任感だろう。
ある夜
「柏木さん、ありがとうございました」
センターに直接出向いた時、彼女から 礼を言われた
まっすぐに響く 気持ちのいい声だった
目を見せたら、そのまま 全て見抜かれそうで 反らした
記憶の彼女と報告上での彼女。
まぎれもなく同一人物だ。残念ながら、良くも悪くも彼女の姿だ。
本社の物流部は、現場の視察をしていない。それゆえの評価だ。
上がってきた数字と伝えられる報告だけ聞いていたら、誤解を誤解で上塗りしているだけだ。
いつしか観察を通り越して、同情になり、それが、手元に置きたいと願望になった。
血の気の通った、熱のある管理者だ。あの子は 書類と数字と感情の整理が苦手なだけだ。
育てたい、付き合いたい。
それだけか? いやちがう、…一緒に居たい…?そうなのか? そうなんだな。
悟ってしまえば、清々しいが、こみ上げる胸の鼓動伝いに手先までしびれる程、想うと苦しい。
どうすれば、手に入る?鎮まる?
「願いは叶う。ただし、祈った通りではないけれど」
その願いもまた叶った。
ただし、円満とはいえない程、強引な方法を使った。
責められても仕方ないやり方だった故に、心を許されるまでの時間的代償も高くついた。
ただし、願いは叶った。
万物、願いは、叶うのだ。
祈った通りでないことだけ、腹を括れば、願いは、叶うのだ