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願いは叶う。ただし、祈った通りではないけれど―柏木視点

柏木視点での初対面の話

今でも、真知子は言う。

「貴方との『初対面』は、ホント 最悪な印象だったわ。

 今、こういう繋がりになったのが、不思議でならない」


でも実は。

彼女には、一目惚れだ。

それは、彼女が覚えている「初対面」から 数年以上前に出会っている。

ただし、当時は 名前すら知らなかったが。



本当に随分前のことだ

彼女を初めて見たのは、「この冬一番」と言われた寒い時期だった。

自分の上司と一緒に、大口客先の重役を 物流センターへ連れて行った時だった


あの時、確か。

トラックヤードで、怒鳴り散らすドライバーがいた。

数十メートル離れた距離でも怒号が聞こえ、一方的にわめき散らしている。

それを、一人で話を受けている作業服姿の女性がいた。

女性と分かったのは、髪を束ねていたからと、明らかに 女性の細身の体格だったから。


一方的に、やり込められるだけで 可哀想だな、と思いながら 見守っていたが、

戻ってきた顔は 何故か 苦笑いで「やれやれ」と言いたげな余裕さも見えたのが意外だった。

そこで驚いた以上に、一目みた時、好みの顔だな。と思った。

これ以上は、無い程のストライク。

化粧に頼らなくても、目鼻立ちがはっきりと整っていて、どことなく童顔。

きちんと手入れのしているきれいな肌に、髪の毛

活発さと清楚さが程良く混じっている顔立ちだった


若いのに、こんな肉体労働の仕事をしているのか…

何歳なんだろう、高校とか大学に進学出来ない事情でも抱えているのか?

要らぬ同情すら、勝手に始めてしまうほど、ここしか働く所がないのか…?




こちらの物思いとは別に、先ほどのトラックは 程なく建物の荷受けベースへ誘導されていった

トラックには詳しくないが、聞くには4tロング車という車種らしい。

誘導する声が、女性なので また驚く…彼女だった。臆することなく、堂々と。

はるかに巨大な金属の塊が迫ってくるのに、慣れた様子で フォークマンが待ち構える位置まで誘導している。

自分好みの可愛い子がやる仕草は、どんな男でも見とれるだろうし、応援もしたくなるものだとおもうが、どんなに贔屓目で見ても、すべての手際が良かった。仕事振りが颯爽として気持ちが良かった。


新鮮な出会いに、新鮮な発見。

面食らう気持ちだったが、これは 元々、先々で祝福された縁だったからか。

この日は、ここで終わらなかった。

一度、彼女から話しかけられる機会に恵まれている。



この後、エレベーター前で彼女に「こんにちわ」挨拶された。

おそらく、適当に本社の人間が 誰かを連れて見学に来たぐらいにしか思っていなかったのだろう。

今から思えば、「余所行き」の顔だったとは思うが、その笑い方が 柔らかくていいなと思った。

「ここのエレベーター、なかなか来ないんですよ」

気さくな世間話の合間に見せる表情が、素朴でいじらしい。

呼んでもなかなか来ないエレベーター。吹きさらしの倉庫1階の中、コート無しのスーツ姿は 無謀だった。

それを察してか「寒くないですか?」会話を繋げられた。

「もし良かったら、建物の四隅で、ヒーターを焚いていますから 適度に暖を取ってくださいね」

大型の車を 一人で誘導していた活発な女の子とは思えないほど、ゆったりとした表情、気遣い

人懐っこい雰囲気をまとって、自然体で どことなく笑っている。

元々 良い子なんだな、と思った。それだけは、しっかり覚えている。



彼女は、バイトか何かなのだろう。もう、二度と会うこともないのだろう。

ただ、もし こんな感じの子が いつも そばにいたら良いなと思う。

初対面だけで「名残惜しい」と思ったのは、後にも先にも 彼女だけだった。




数年後、彼女の名前を知った。

あの時以来、初めて 物流センターを訪れた時だった。


訪れた目的は 社長方針を伝えるため

「物流センターの運営コストを15パーセント圧縮させる」

荒くれの集まり相手に 単身向かう心細さが ないわけでなない。


だが、今でも 心の底では、「可愛い女の子居たんだよな」と、朧げに淡く甘みのある想い出もある

…あの子は バイトかもしれない。今でも在職してるかまでは 期待していなかった。


指令の伝達先は、「物流センター所属 蕃昌真知子チーフ」

当時の俺にとって、物損報告や労働災害の報告書など、始末書・顛末書でも、名前を見かける方が多かった。いい印象は無かった。

そして、前評判では、本社の物流部が手を焼く気の荒い女社員という情報。

間違いなく反発してくるだろうと予想したのもあり、上から押さえつけようと 構えて乗り込んだつもりだったが…



「秘書課の柏木だ。蕃昌チーフだな?」

「失礼ですが、ご用件は?」

顔を合わせて すぐに失敗したと思った。


前評判通り、勝ち気な対応だったが、遠い記憶で出会ったあの女の子が 数年を経て、大人の顔でこちらを見ていた。


「本社の物流部では、話の埒が明かないので、こちらに伺った次第だ。」

まさか、彼女が…あの蕃昌? 記憶が曖昧に薄れたとしても、あの時感じた印象だけは、鮮やかさを帯びて一致する。むしろ、間違いない。


後悔も確かによぎったが、もう引けない。

「作文の赤線引きならすぐ終わる。それに ここの経費15パーセントなら、人件費を20人工にんく減らせば、目処がつく数字だ。」


俺は、自分を追い詰める一言を告げた。

よぎる本音とは程遠い気持ちで

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