3話 人魚姫(中編)
王子に宮殿へと連れ帰られた琥珀は、王子に可愛がられ、暫くの間夢のような日々を過ごした。
(琥珀さん……。どうにかしてボクのことも伝える手段があればなぁ……)
王子と数日過ごしてわかったが、どうやら現実の記憶があるのはましろと琥珀のみのようだ。
その間、琥珀はましろの案で筆談を試みたのだが、紙に文字を書こうとすると琥珀の手に激痛が走るようで、筆を握ることすら出来なかった。
王子は上手く歩けない琥珀を馬に乗せて、庭を散歩をしている。
「──なんだか、君を見ていると、僕をあの嵐の夜に助けてくれた彼女を思い出すんだ」
王子は遠い目をして、呟くように言う。
「──でも、彼女は修道女だから、僕とは結婚出来ない。……どうしても結婚しなければならないなら、君と……」
(い、いいんですの──!?)
(ええ!?2番目なんだよ!?それでもいいの琥珀さん!!)
女心はわからないとましろはない首を傾げる。
しかし、更に1週間後。王子に縁談がやってきた。
「……やっほー、覚えてる?」
「──忘れるわけないじゃないか!」
縁談の姫君は、あの日浜辺で王子を修道院まで運んだ少女──綺羅々だった。
綺羅々は教養の為に修道院へ通っていただけであることを王子に告げる。
恋心を諦めかけていた王子は、嬉々として姫君を妃に迎え入れた。
(……琥珀さん、元気出して)
(……無理です。ショックで立ち直れません……)
王子に振られた琥珀は、婚約祝いのクルーズ船に乗っている。ましろの慰めも虚しく、いてもいられない気持ちになり、パーティの最中に甲板に出た琥珀は、海から顔を出している人魚たちを見つけた。
(お姉様たち!?)
「──コハク!私たちから、これを……!!」
海の中から琥珀の姉たちが差し出したのは、鞘に収められた短剣だった。魔女──来夢から姉たちの髪を引き換えに得たもので、王子の流した返り血を浴びることで、元の人魚の姿に戻れると告げられる。
琥珀は手にした短剣を握りしめた。
(これで──王子さまを……)
(待って!ヤンデレってやつかな!?物語の中でも死んだりしたら、取り返しのつかないことになる──)
(──ふふ。わかってます)
琥珀は笑みを浮かべ、短剣を海へと投げ捨てる。
(さよなら、王子さま。恋をさせてくれて、ありがとうございました)
(待って!琥珀さんが諦めて死ぬのもダメなんだってば──!!)
ましろの静止も虚しく、琥珀が甲板から海へ身を投げようとしたその時だった。
「──琥珀ちゃん!!」
しっかりと名前を呼ばれて腕を掴まれ、微睡もうとしていた琥珀は目を覚ます。
(鵜久森さん!!)
(王子、さま……!!)
甲板に倒れ込む鵜久森と琥珀。琥珀は信じられないという顔で鵜久森を見つめている。
「危ない危ない。危うく物語の流れに沿って君を死なせるところだったよ。間に合ってよかった!」
『ましろ、僕に感謝しなよ。今回も僕の記憶喪失粉砕キックがお役立ちさ』
(ラプス!)
鵜久森の肩を上り、ラプスが顔を出す。琥珀は小動物の存在を気にもせず、抱きしめられたまま顔を赤らめて硬直した。
(王子さま!やはり私は、王子さまを嫌いになんてなれません!)
(あはは……。一時はどうなることかと思ったけど、やれやれだね……)
◇◇◇
「──それで、ましろがこんな状態じゃ魔法も使えないし、どうするの?」
船内の王子の個室。ドレス姿の綺羅々が琥珀の髪飾り姿のましろを見つめる。
『今回は、ましろと来夢以外のメンバーで、物語の領域展開の中心を司るボスを倒さなくちゃならない。来夢は海の中で、役から目覚めさせる手段がないから合流は不可能だ』
(ボクとの合流は奇跡的だったんだけどね)
「ましろさんが何を言っているかはわかりませんが、なんとなくホッとした気持ちなのは伝わってきます」
修道院時代の綺羅々の友人として、乗船していた林檎がましろを見上げて言う。
『綺羅々、人魚姫で黒幕と思わしき怪しい人物はいないのかい?』
「怪しい人物って言ったら、それこそ来夢がやってる魔女だけど……わわっ!?」
突如船に衝撃が走る。
「何かにぶつかった!?」
「甲板に出てみよう!!」




