16話 夏の始まり
今日も制服姿でコンビニでハーゲンダッツを買い漁っていたましろは、背後から声をかけられた。
「ましろ先輩……!」
振り向けば、制服の夏服をもレース調に改装している諸星すみれが立っている。ましろはすみれの背の高さに合わせて少し屈んだ。
「あれ?すみれちゃん。お菓子でも買いに来たのかい?」
「え、えと。飲み物を買いに……」
「アイス食べる?奢ってあげるよ。何がいい?」
「え、ええっと……。じゃあ、ラムレーズンで……」
「じゃあボクはショコラミントエクストラに決まり!」
◇◇◇
ましろとすみれは移動して御伽公園のベンチの上に腰を下ろしていた。手には先程買ったハーゲンダッツアイス。ましろはプラスチックのスプーンを使い、早々とアイスを開封して食べている。
「夏はやっぱりアイスだよねぇ」
「そ、そうですね。それよりも……、こんなところで会うなんて奇遇ですね」
すみれは何か話したそうに手元を見つめていた。それに気付いたましろは、すみれの顔を覗き込む。
「すみれちゃん、何か話したいことがあるのかな?」
「えっ!?あ、あの、その……っ!」
すみれはスクールバッグを開けて漁ると、紙束を取り出した。
「あの!今度臨海学校があるんですけど、ましろ先輩は行くのかなって思って……!」
「臨海学校かぁ……」
「学年の隔てなくグループが組めるので、その!出来たら一緒のグループになれませんか!?」
「……」
空になったハーゲンダッツのカップをベンチに置き、プラスチックのスプーンを咥えながらましろは空を仰ぐ。臨海学校。去年もこの時期にあった筈だが、ましろは不参加だった。
「……すみれちゃんには悪いけど、ボクは今年も不参加かなー」
「……ましろ先輩……」
「いくら学校のイベントだからって、お菓子を自由に食べられないし……」
「考えるところはそこなんですね、先輩……」
「うん。ごめんねすみれちゃん……」
珍しくましろが瞳を開き、項垂れるすみれを見て瞬きをした。
ましろの手には、先程買って食べたばかりのハーゲンダッツアイスがある。
「……え……?」
「そ、そうですね。それよりも……、こんなところで会うなんて奇遇ですね」
すみれは何か話したそうに手元を見つめていた。先程見た光景であるが、それに気付いたましろは、すみれの顔を覗き込む。
「……すみれちゃん、何か話したいことがあるのかな?」
「えっ!?あ、あの、その……っ!」
すみれはスクールバッグを開けて漁ると、紙束を取り出した。
「あの!今度臨海学校があるんですけど、ましろ先輩は行くのかなって思って……!」
「……」
「学年の隔てなくグループが組めるので、その!出来たら一緒のグループになれませんか!?」
(……どういうことだろう……?)
瞬きをした直後、食べた筈のアイスが手元に戻り、すみれは同じセリフと動作を繰り返している……。
(……いや、すみれちゃんが同じことを繰り返しているんじゃない。ボクが少し巻き戻っている?)
その考えに辿り着いたましろは、スクールバッグに入れてある銀の鍵の存在を強く認識した。
「ましろ先輩……?」
「あ、ああ……臨海学校の話しだったね。……ボクは行かないよ」
「そ、そんな……」
「ごめんね、すみれちゃん」
ましろが手を合わせてチラリとすみれを見る。
すみれは何か話したそうに手元を見つめていた。先程見た光景である。ましろは再び時間が少し巻き戻っていることに気付いた。
「……すみれちゃん、何か話したいことがあるのかな?」
「えっ!?あ、あの、その……っ!」
すみれはスクールバッグを開けて漁ると、紙束を取り出した。
「あの!今度臨海学校があるんですけど、ましろ先輩は行くのかなって思って……!」
「……」
「学年の隔てなくグループが組めるので、その!出来たら一緒のグループになれませんか?」
「……」
「ましろ先輩……?」
「……わかったよ。ボクも臨海学校に行こう」
「ほんとですか!」
すみれはましろの返事にぱぁっと瞳を輝かせ、紙束を腕で抱き締める。
「すみれちゃん、せっかくのアイスが溶けちゃうよ」
「は、はい!すみません、急いで食べますね!」
ラムレーズンの蓋を急いで開けてスプーンを握るすみれを見て、ましろは心の中でホッとした。
(よかった……。今度は巻き戻ってない。ボクが臨海学校に行かない選択肢はないってこと?)
「ましろ先輩、アイスが溶けちゃいますよ?」
珍しく甘味をほったらかしにして考え込んでいたましろに、すみれは首を傾げて声をかける。
「ん、ああ、そうだね。急いで食べよう」
上部が溶けてしまったアイスをましろはぼんやりとしながら食べる。
(どうしよう……。夜闇鴉や来夢にこのことを伝えたほうがいいか)
ましろはアイスを急いで食べ、ポケットからスマホを取り出す。
「すみれちゃん、ちょっとごめんね」
緑の葉が覆い茂る木の下に移動して、夜闇鴉に電話をかけた。
「……あ!もしもし」
『貴様から切ったと思えばまた連絡か。銀の鍵について何かあったのか?』
「それがーー」
夜闇鴉に時間が巻き戻っていると説明しようとした途端、言葉を失い、ましろは喉元を押さえる。
『なんだ?どうかしたのか?』
「ーー」
何度言おうとしても声が出ない。ましろに夏の暑さではない、冷や汗が流れる。
「……いや、ごめん。なんでもないよ」
『? おかしなやつだな。電話は何かある時だけにしろよ。じゃあな』
スマホの通話が切れ、ましろは心が騒めくのを感じた。
「……ましろ先輩、どうかしましたか?」
立ち尽くしていたましろにすみれが駆け寄ってくる。
すみれに心配かけまいと、ましろはいつもの笑みを作った。
「……なんでもないよ。気にしないで。帰り道、送っていくよ」
「い、いいんですか……!?」
浮かれるすみれを他所に、ましろは自身に這い寄る何者かの気配を感じずにはいられなかった。
臨海学校……そこで、何かが起こることを待ち受けることしか出来ない歯痒さを抱えながら。




