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1話 7月のスタバ

 グラン マスカット フラペチーノ tallサイズ。マスカット アールグレイ フローズン ティー tallサイズ。チラックス ソーダ マスカット grandeサイズ。


「ああ……。まだ飲んでないけど並べて見るだけでなんだか幸せな気分だなぁ」

「新作ビバレッジ3種類、全部注文したんだね……」

「これ全部飲むの?」

「流石に夕飯前だからね。ボクだけじゃ飲みきれないから、みんなでシェアしようと思って誘ったんだよ」


 珍しくましろが学校に登校したと思いきや、帰り道にスターバックスに誘われた鵜久森、綺羅々、来夢、林檎の4人。学生服のまま、テーブルに並べられた新作ビバレッジ3種類と対面することになった。

 パシャリと飲む前にスクショを1枚。新しいスマホを買ってからというもの、お菓子や甘い飲み物のスクショを撮ることはましろの日課となっている。


「じゃあ、いただきます」


 ましろはグリーンの太いストローに口をつける。

 まずはグラン マスカット フラペチーノ。マスカットのピューレを使用した、ぷるんとした食感のジュレ。カップの底にたっぷりと入っているぶどうの果肉がとってもジューシー。アクセントのエルダーフラワーの香りが初夏の暑さを忘れさせる爽やかな飲み心地。


「フルーティーさが想像以上だ。グリーンとイエローのグラデーションも最高だね!」


 お次はマスカット アールグレイ フローズン ティー。アールグレイ ブーケ&ティーの華やかな香り。ジューシーで爽やかなマスカットの風味。バニラフレーバームースが全体を優しく包み込み、コクがある仕上がり。


「マスカットの味わいとアールグレイの柑橘系の香りが相性抜群だねリラックス気分が味わえる一杯だよ!」


 最後にチラックス ソーダ マスカット。ジューシーなぶどう果肉とマスカットのピューレが入ったぷるっとしたジュレ。シュワっとした爽快感溢れる炭酸。さらにチラックスソーダの為に開発されたグリーンシトラスフレーバーを組み合わせた一杯。


「爽やかな飲み心地だね!暑さに疲れた時にリフレッシュできる一品だ!」

「どれどれ……」


 初夏の暑さに耐えきれず、髪を束ねている来夢が横からチラックス ソーダ マスカットにストローを刺し、ゆっくりと飲む。


「んん……まさしくチルなひとときを味わえますわぁ」


 僕も、私もと鵜久森と林檎がお目当てのドリンクにストローを差し込む中、ましろは花火の絵が描かれたスターバックスカードを見つめていた。


「今月は来れるか厳しかったけど、まだカードの残金があったからよかったぁ」

「アーバンさんの元で、キリキリ働かなくてはね」

「スイーツの消費に給料が追いつかない……」

「ダメだこの男、スイーツのことしか考えてない」


 グラン マスカット フラペチーノのホイップをロングスプーンで食べる綺羅々が、的を射たことを言う。


「まあまあ。ましろくんに付き合う僕らも慣れたものだし」

「私、スイーツはあまり好きではなかったんですけど、ましろさんのおかげで好きになれました」

「ほんと!?なんだか照れるなぁ」


 林檎に言われ、ましろは照れ臭くなり頬をかいた。

 そんな中、近くのテーブルから場に不向きな会話が聞こえてきた。


「ねー彼女、おひとり様?」

「俺たちと一緒にお茶しない?」

「──なんだろう?」

「どったのうぐ?」


 お嬢様学校として知られる、カレン女学院の制服を着た少女が、童話高校の男子生徒たちに絡まれている。


「あ、鵜久森さん!」


 ましろが止める間もなく、鵜久森は席を立ち、一言二言告げて男子生徒たちを追い払っていた。


「追い払って下さり感謝します……!」

「いやぁ。それほどで、も……」


 見覚えのあるさらりと靡く肩までの黒髪。自分が一方的に見知っている顔を見て、鵜久森は硬直する。


(さ、西園寺琥珀!?)

「……!!」


 以前、シンデレラの物語ソネットに囚われていた財閥のお嬢様、西園寺琥珀。ラプスの記憶回収により、出会いはなかったことになった筈なのだが。


(こ、この方……! 私好みの顔ですの!!)

「な、何!?」


 急にがしりと手首を掴まれ、鵜久森は逃げ腰になる。西園寺琥珀は瞳を輝かせて身を乗り出した。


「この件のお礼がしたいのですが!」

「ええ?! いいよお礼なんてそんな」

「この季節ですもの! クルーズなんて如何かしら!!」

「は、話し聞いてないなこの子!!」



 ◇◇◇



「──と、いうわけで呼び出されたじいやさんから、豪華客船のチケットを貰ったボクたちだけど……」

「明日からの2泊3日という」

「急な話しですが、明日明後日が土日休みでよかったですね」


 アーバン・レジェンドの食堂。それぞれの席に座り、頭を抱えている鵜久森に視線が集まる。


「ざ、財閥のお嬢様相手に何を話せばいいんだろう……! というかなんで財閥のお嬢様が1人でスタバに!?」

「それは友達がバイトをしてるからって言ってたじゃないですか」


 食後のデザートのバニラアイスを食べながらましろが言う。


「西園寺琥珀だってわかってたら、うぐ、助けなかったの?」

「そんなわけないよ!困ってる人を見たら助けなきゃ!」

「じゃあこれは運命ってやつじゃないの?」


 綺羅々がじとーっとした目線を鵜久森に投げる。


「ど、どうしようましろくん!」

「これは行くしかないですね。豪華客船のスイーツ全完食をする為に」

「真面目に考えてくれないかな!?僕がこんなに困ってるのに」

「ずべこべ言わずに受け入れたらよろしいんじゃなくて?」

「来夢ちゃんまで!?」

「そうですね、西園寺さんも悪気があってクルーズに誘っていりわけではありませんし。寧ろ何もしていない私たちの分のチケットまで「よろしければお友達もどうぞ」と用意して下さって。かなり好意的です」


 林檎がキラリとメガネを光らせた。


『ペットは同行OKかい?』


 ラプスが首を傾げて聞くと、ましろが頷く。


「大丈夫。一応聞いておいたけど、ゲージに入れていればいいってさ」

「行く気満々だねみんな!?」

「駄々を捏ねてるのはうぐだけだってばー」


 流石に西園寺琥珀を助けた鵜久森本人が行かないのはどうかと思う。みんなの視線が鵜久森に集まった。無言の圧である。


「まぁ、話しなんて行けばなんとかなりますよ」

「……ほ、ほんとかなぁ……」

「それよりも、警戒すべきは物語ソネットの方だよね」

『旅行中に出たら正に空気を読まない演出だ』

物語ソネット側に空気を読めと言うのは流石に無理がありますわ」


 鵜久森にとっては一大事なことも、他の人間から見れば些細なことらしい。


「うう……。綺羅々ちゃん……」

「あ、そうだ。もうそろそろ旅行の準備しなきゃ」


 話を振ろうとした鵜久森を躱し、立ち上がった綺羅々を筆頭に、ましろたちは次々と部屋に戻って行く。

 鵜久森はひとり食堂に残され、うつ伏せのままため息を吐いた。


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