プロローグ プルゴン
全く知識のない一般人が書いているので誤字脱字文章等に違和感あるかもしれませんが、読んでいってくださいな
プロローグ
今、まさに戦火の火ぶたが切られようとしていた。
一触即発。張り詰めた空気は、指先ひとつの動きで弾け飛びそうなほどに重く、湿っている。
戦々恐々とする最中、私は塹壕の縁に身を伏せ、冷えきった銃身に頬を押し当てていた。照準の先には、同じような怯えを湛えた敵兵の頭――脳天へと十字の標がぴたりと重なっている。あとは上官の合図を待つだけだ。
軍人として生きる以上、いつかこの瞬間が訪れることなど、とうに覚悟していたつもりだった。
だが「覚悟」と「現実」は別物だ。いざ刹那の局面と真正面から対峙してみると、体は小刻みに震え、背骨を氷柱のような恐怖がなぞっていく。心臓は耳元で暴れ馬のように暴れ、喉は砂漠のようにカラカラだ。
合図までの十数秒が、永劫にも思える。
口は乾き、掌にはじっとりと汗が滲む。今か今かと迫る“死の気配”に抗おうと、自分を奮い立たせる。だが所詮、死生有命。死という概念から逃れられない以上、生き物は皆、死が怖い。
私は、あとどれだけ生きられるのだろうか。
今、照準に映るあの男も、きっと同じことを考えているのだろうか。
この大戦を九死に一生で生き延びる自分の姿が、どうしても想像できない。それほどまでに戦況は逼迫し、これから阿鼻叫喚の地獄絵図が広がるのは火を見るより明らかだった。
同じ生き物同士で殺し合い、互いを土へ還す。人間という種は、つくづく愚かで滑稽だ。
ふと空を仰ぐ。
そこには、戦場とは似つかわしくないほどの、雲ひとつない蒼穹が広がっていた。高みを鳥が横切り、遠くでカラスが不満げに鳴く。乾いた風が、焦げた土と血の匂いを巻き上げながら、戦場をぐるりと撫でていく。風に揺れる木々のざわめきだけ切り取れば、どこにでもある、なんてことのない日常だ。
――何も変わらない、はずの光景。
だがそれも、あと少しの間だけ。
この穏やかな風景は、まもなく砲煙弾雨と炎の柱に塗り潰される。硝煙と鉄の匂い、千々に乱れた肉片と怒号で彩られた地獄へと変貌するだろう。
この戦いで得られるものといえば、どちらか一方の勝利と、人間のエゴだけだ。
何度も何度も繰り返されてきた歴史の愚行――その輪廻は、誰にも止められなかった。そして今回もまた、誰も止められないはずだった。
胸ポケットに押し込んでいた無線機から、ノイズ混じりの声が飛び込んでくる。
『カウント10で射撃を始める準備を』
ついに、この瞬間が訪れた。
世紀に残る大戦の火ぶたを、今、私が切る――そのはずだった。
だが、その矢先。
遠くから銃声が響いた。
否。
それは、ライフル弾が空を裂き、私の視界いっぱいにまで迫り、頭蓋を撃ち抜かんとする刹那の瞬間だった。
ああ、ここまでか。
断末魔すら上げる間もなく、土塊の一部として朽ちていくのだろう。そう覚悟し、思わず目をつむる。――だが。
……何も、起こらない。
鼓膜が破れるような衝撃も、熱も痛みもない。
おかしい。なぜ生きている?
おそるおそる目を開けると、視界の先に“それ”がいた。
そこだけぽっかりと世界から切り抜かれたように、異質な影が立っていた。
弾丸は“それ”の前で弾かれたのか、粉々になった破片が、キラキラと陽光を反射しながら地面へと落ちていく。
そいつは、ゆっくりとこちらを振り返り、まるでピクニックにでも来たかのような、のんきな声で言った。
「けんか、よくなぁ〜い?」
その瞬間、時代の針がきしみを上げて止まり、
そして音を立てて別方向へと動き出した。
――歴史が変わった瞬間だった。
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