最終話 星の海
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うん、そうなんだ。あのばけものが、ぼくらのおまつりをぜんぶもやしちゃった。みんな泣いてた、ぼくもちょっぴりこわかったよ……。だけどそのあとなにがおこったか知らないだろ? おかあさんもおとうさんも、みんなが言うんだ。そんなのしんじられないって。
地上がお空になったんだ。ねえ信じられる? 十三月に春がきたなんて。
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「星がふってきた!」
その声はあの男の子のものだったかもしれない。小さな小さな人影が雪の上を飛び跳ねている。
星の海で歓声をあげるひとりの子供。リシェンダの視線に気づいて、ドーキンも振り返る。それは逃げ去った群衆のうちのたったひとりでしかないもしれない。それでもリシェンダを悟らせるには充分だった。自分の火が、消えかけた星の光を再び輝かせた。そしてそれはひとりの子供の涙を笑顔に変えた。
「みんなばかだ」とドーキン。「知らない力に怯えて、こんなあったかくてきれいな風景を逃してる」
リシェンダが考え込んでいると、ドーキンはほがらかに続けた。
「やっぱり十三はラッキーナンバーじゃん」
「どこが」
「みんなを生かすことはできたじゃないか。少なくともひとりの子供を喜ばせたみたいだし」
「でも、誰もそれを知らない」
「そうだな。ヒーローにはなれなかった」
ドーキンはしぶしぶうなずく。リシェンダは頭を掲げる。
「ほら、ラッキーナンバーにするには証拠が足りないよ」
「もうひとつあるんだぜ。おれの好きな子の誕生月だ」
ロマンチックなせりふに反してドーキンは唇を引き結び、難しい顔をしている。リシェンダは眉をしかめた。
「それはドーキンにとってはそうなんでしょ」
「いや、ほんとだって」
遠くではしゃぐ子供の声を聞くうちに、リシェンダは次第にわけもなく笑いたくなってきた。我知らず涙がこぼれる。だけどなんの涙だろう?
「ほんとにそう思うんだったら、その子にお礼言っといてね」と彼女は照れ隠しに言う。
ドーキンはまた難しい顔をする。
「うん、ありがとう。……いま言ったよ、その子に」
それでリシェンダはドーキンがさっきから難しい顔をしているわけがわかった。
「まだおれのこと嫌い?」
「嫌いよ、嫌い」
「おれが凡人だから?」
「どこが? あなたは変わり者すぎる。あたしの力を認めてくれるなんてあなたくらいしかいないよ」
彼女の頬は熱くなって、炎の髪の毛は天高く燃えあがった。




