第2話 星祭りの会場
郊外の広場を取り囲んだ木々は星がちりばめられて、その光で辺りはほんのり靄がかっている。星はもちろん本物の流れ星のかけらで、その残光が闇夜にかすかに淡い光を添えるのだ。
雪上にしつらえられた舞台では楽隊が演奏をかき鳴らし、大人も子供もエルフも人間もフェアリーも思い思いに踊っている。リンゴ飴、干し肉、ピクルス、熱々のワインなどの屋台が軒を連ねて、人々がさんざめく。だけど、それらの様子はまるで演技でもしているかのようにひきつったものだった。
リシェンダはドレス一枚で体を縮こまらせて歩きながら、祭りの様子を観察していた。寒いんじゃない。ただ誰かにこの燃える髪の毛が見とがめられなければいいなと不安でいっぱいなのだ。隣のドーキンはのんきにリンゴ飴なんて頬張っている。
「どう?」と彼は訊く。
「どうって……大した人出だね」
「リンゴ飴食う?」
「いらない」
「それで、どこで火をつける?」
それには答えられなかった。リシェンダよりもずっと小さな男の子がはしゃぎ声をあげながら駆けてきて、雪にすべって転んだから。彼女はとっさにしゃがんで男の子に手を差し伸べる。
「大丈夫?」
「わあっ、ばけもの!」
男の子は逃げていった。
出し抜けに、リシェンダの脳裏に炎が燃えあがった。男の子の背中にあの日の幼なじみの姿が重なる。あがる火炎、泣き叫ぶ声、毛皮の焦げるにおい、そして怪物に向けるような人々の目、目、目。友だちを苦しませてしまった罪悪感で眠れなかった日々。
だから来たくなかったのに。闇に消えていく後ろ姿を見ながら、リシェンダは呼吸を整えるので精いっぱいだった。
「なあ」
ドーキンの硬い声が聞こえる。
「どうして言い返さないんだよ? ばかにされて悔しくないのか?」
リシェンダはぎゅっと目をつぶる。ほんとにばかなあたし。なんでのこのこやってきたんだろ。あたしもみんなみたいな髪の毛が欲しかった。
「あんな子供の言うこと気にするなよ。みんなをあっためようぜ。火出せるか?」
「違うよ、みんな思ってることだよ」
「なに言ってんだ」
「みんな思ってる、ばけものって」
あなたも思ってるんでしょ、とは怖くて言えなかった。「ごめんね、火は出せない」
ドーキンは大きく息を吸い込む。
「どうして?」
「だって……また誰かを傷つけるかもしれない」
「そのために来たのに」
「祭りを楽しもうよ」
「祭りなんか。ヒーローになるために来たんだろ」
ドーキンの変に怒気をはらんだ声音に、リシェンダは眉をひそめて彼を見た。陽気な音楽の中、闇夜に浮かぶしかめっ面。彼女の胸が小さくうずいた。
「ねえ、ドーキン」かすかに震える唇をひらく。「あなた、私を利用しようとしてる?」
ドーキンの顔がさっと赤く染まった。
「それってひどくない?」
「うるさい!」
叫ぶと、ドーキンは走っていってしまった。
喧噪の中、ひとり取り残されたリシェンダの髪に、粉雪が舞い落ちては蒸発している。




