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白髪鬼

夕焼けにカラスが泣く頃、わしは総理大臣執務室にいた。

鉄男の体を手に入れてから毎晩、美女をはべらしごちそうをたらふく食べ酒を浴びるほど飲んだ。宴会は今日で1ヶ月連続だ。今宵こよいも楽しむぞ。ニヤケヅラを浮かべていると電話がかかる。元帥からだ。

「竜の国と戦っている前線の部隊が敵軍に包囲されました。いかがいたします閣下?」

「玉砕させろ。その後、徴兵によって倍の兵力で再び攻め込め。英雄であるわしの名前を出せば新兵などすぐに集まるじゃろ。訓練は戦場の実戦で行え」

「了解しました。失礼いたします」

電話を切る。入れ替わった直後は口調が突然年寄りじみたことに疑問を持たれたが「尊敬する鷹山元総理の口調を真似ておる。国民は偉大な指導者の影をわしにみるじゃろう」と言えば納得した。馬の国は現在、竜の国と戦争している。たくさんの国を侵略してきたが竜の国はいままでで1番手強い。わしは戦場など絶対行かぬが兵士たちにはがんばってほしい。わしは血も苦手で痛いのも大っ嫌いじゃ。かすり傷ひとつで気絶しそうになる。自分の命は大事じゃが他人の命はどうでもええ。わしの命令ひとつで無惨に戦場で散っていった命は星の数ほどある。まだ年端もいかぬ子供なのに女を知らぬのに死んでいく若者を思うとかわいそうで笑いが止まらん。人の不幸は蜜の味じゃ。戦場で死んでいく兵士の動画を見ながら、かわいそうにのお、と思いつつまんじゅうを頬張り苦いお茶を飲むのが嗜好の楽しみじゃ。ごちそうを食べている時も美女を抱いている時も戦場で死んでいく兵士に対する優越感で飯がうまいし興奮する。いま包囲されている我が軍も殲滅されてひき肉にされるじゃろう。竜の国は残虐じゃから1人残らず機関銃のえじきじゃな。ミサイルや戦車で殺されるかもしれん。ああ、かわいそう。

愉悦に浸っているといきなりドアが開いた。ノックもせずに開けるとは。どんな緊急の要件であろうと死刑確定じゃ。わしの機嫌を損ねる者、気に触るものは全員死刑!

無作法に侵入してきたのは軍服に黒いコートを羽織った体格の良い白髪の老人じゃった。わしは目を見開いた。好々こうこうやではなくいかつい顔をしておるが、間違いなくわしの顔じゃ。

「ひさしぶりだな。鷹山総理。キサマを殺しにきた」

「て、鉄男かッ!?」

信じられぬ。余命1ヶ月なので今頃は死んでるはずではないか。訃報が届けば即座に祝杯をあげようと思っておった。しかし、鉄男は生きて目の前にいる。

「くせものじゃ!みなのものであえであえッ!」

「無駄だ。みんなおねんねしているぜ。ちょっとなでてやっただけなんだがな」

「くっ・・・役立たずどもめ」

警備兵たちはわしの顔にびっくりして動揺したのじゃろう。武器を構える暇もなく倒された様子が目に浮かぶわい。実力を1ミリも発揮させず殺る。さすがじゃ。わしは机の下にある緊急ボタンを押した。

「すぐに特殊部隊が駆けつけるぞ」

「キサマを殺すのに30秒もかからん」

鉄男は飛び上がって襲いくる。わしは椅子から立ち上がって手をクロスした。ずしりと重いパンチが腕に響いた。96歳の死にかけのジジイの動きではない。カモシカのようなジャンプ力にゴリラのような膂力りょりょくじゃ。さては入れ替わってから絶え間なく鍛え抜いたな。しかし老人の体でも極限に鍛えればここまで戦える体になるとは想像だにせんかった。服の下はムキムキのバキバキじゃろう。鉄男の連打をガードしながら問いかける。

「武器は使わぬのか?」

「キサマは素手で殺す。撲殺ぼくさつだ」

「ほう。できるかの?」

わしは笑みをこぼす。ナイフや銃を使えば良いものを千歳一隅のチャンスじゃわい。わしへの恨みが強いせいで直接、自分の拳でボコボコにしなければ気が済まぬようじゃな。そうはいかのキンタマじゃ。わしはキレのあるハイキックを放つ。受け止めた鉄男が吹っ飛ばされてよろける。すぐに鉄男は体勢を整えてファイティングポーズをとった。

「驚いておるようじゃな。実はわしも鍛えておったのよ。せっかくもらった体が鈍ったらおなごにもてなくなるでのぉ。おぬしの鋼の肉体はおなごたちにたいそう評判がよかったぞ。恋人の左京にも槍のように強いといわしめたわい」

「キサマッ!」

「いい尻をしておった。代わりに種をつけておいてやったぞ。おぬしはナマを嫌がっておったようじゃからな」

動揺を誘うためにいやらしく挑発すると鉄男は顔を真っ赤にして突っ込んできた。単純なやつじゃ。鉄男の大ぶりのテレフォンパンチにカウンターを合わせる。わしの黄金の右はあごを的確にヒットした。ぐらついたところにショートアッパー。これでしまいじゃ。倒れゆく鉄男を見おろし、わしは勝利を確信して動きを止めてしまう。おごりじゃった。鉄男は倒れる寸前で踏ん張り昇竜を思わせるアッパーカットを見舞った。わしのあごに直撃する。わしは宙に舞って床に倒れ込む。すかさず背後に回り込んだ鉄男は首絞めを開始する。まずい殺されてしまう。

「撲殺じゃなかったのか・・・」

「野獣を殺すのに手段は選ばん。キサマは他人の命を無駄に扱いすぎた。これは天罰だ。反省しながら死ね」

息が苦しい。悔しい。わしは確かに残忍じゃった。絨毯爆撃を行うように指示を出し民間人を100万人以上虐殺したし、毒ガス兵器の使用も許可したし、捕虜10万人を縛り上げ銃殺することも許可した。生き埋めや拷問、占領地での強奪やレイプも許可した。大量殺戮兵器の使用も3回ほど許可した。戦争反対のデモで総理官邸前に集まった民衆に機関銃や戦車を差し向けて虐殺したこともある。犠牲者の数は知らん。興味ない。気に入らぬジャーナリストを拉致して戦場の激戦地へと送り込んだこともある。政敵は粛清しまくった。しかしわしのおかげで利益を受けた国民は大喜びではしゃぎまわりわしを崇拝しておった。わしの悪魔的な性格は戦乱のせいで性根がねじ曲がったんじゃ。わしだけが悪いわけじゃないんじゃ。薄れゆく意識の中で昨晩抱いた美女の裸体を思い出していた。ええ女じゃった。気持ちえがった。

「鉄男総理ッ!」

緊迫した声が響き特殊部隊が突入してくる。首をへし折られぬように抵抗していたのが功を奏したようじゃ。特殊部隊の隊員はスナイパー銃で狙いをつけて鉄男を撃つ。鉄男はうめき声をあげて昏倒した。首を絞めていた力が弱まる。わしはほっとした。鉄男は足を引きずられて退場する。

「鉄男総理ご無事ですか?」

わしはすくっと立ち上がり隊員をしばく。

「無事じゃ。もっとはやくこんか。外に転がっておるでくの坊たちは即刻処刑せよ」

「遅れて申し訳ございません。警備兵たちはすぐに処刑します」

「鷹山元総理は殺したのか?」

「いえ、麻酔銃です。総理に当たるといけないので実弾は避けました」

「よい判断じゃ。こやつは牢屋に放り込んでおけ。絶対に脱獄できぬように鎖で縛り上げておくのじゃ。糞尿垂れ流しでかまわん。明日には寿命で死ぬボケ老人じゃ」

「了解ですッ!」

災難は去った。喉が渇いたし腹も減った美女でも抱きにいくか。戦闘で破れた服も着替えんといかん。総理大臣執務室を出ようとすると呼び止められる。

「鉄男総理。いちおう医務室で診断を受けてください」

「そうじゃな。シップでも貼ってもらうかの」

鋼の肉体なのでピンピンしているがシップを貼ってあるほうが、おなごたちにいまの武勇伝を語るときの説得力が増す。まあほんとにすごいのねんって言われたい。医務室でシップを貼ってもらっているとポニーテールの美女が駆け込んできた。息切れして頬が上気しておるのが色っぽい。

「鉄男殿。暴漢に襲われたと聞いて心配で駆けつけました。無事で何よりです」

「なに平気じゃ」

力こぶを作ってみせる。

「好物のすっぽんドリンクを買ってきました」

「気が効くのぉ左京くん」

すっぽんドリンクを女性に買わせて持って来させるにがわしのげびた趣味のひとつじゃった。わしに抱かれるシーンを夢想しながら買っておるに違いない。左京も頬を赤く染めながら買ってきたのじゃろう。今宵は金髪碧眼美女たちを堪能しようと思ったが左京にするか。わしは鼻の下を長く伸ばしながらドリンクを飲み干した。

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