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GAME9

 ほぼ準備が整った──そんなメイド長からの直接の報告と同時に、ヤツが、俺の視界の内に戻って来た。


「やっぱりこの村をこのままにはしておけない。石にした仕業が魔物なら──狩るべきだ」


 やはりこうなる。緑髪の剣士はその意志を貫き、あらためて王子に示した。


 だが〝助ける〟ではなく、「狩る」。


 すこしばかりか、カール王子の任である魔物狩りの旅の目的に合わせたようにも聞こえる台詞だ。


 そして見つめる……一介の王子の存在を喰うようなその彼にしかだせない存在感、真剣な眼差しは──



「じゃ、狩るか」


 この王子に真剣な目は似合わない。俺は砕けた感じで、張り詰めていた場の空気にやわらかな息を吐いた。


「あぁ、カール!」


「え、カールが??」


 真剣なその表情から一転熱く笑ったのはアモン・シープル。心配面から驚嘆したのはクピン・シープル。


「あぁ、そうだ。カールが魔物をカール!」


「ってそんなのいらないからっ!!」


 俺はとりあえずここでワンクッションの即興ギャグを入れ、クピンのツッコミを予想通りに誘いだすことに成功した。


 そんなおとぼけは、どうでもよく──


「しかし得体の知れない石化攻撃への対策が?」


 馬車の準備の報告でその場に居合わせたクロウが一言、簡潔な疑念を投げかける。


 今投げかけられたそれに乗っかる形で、クピンが再度、今度は俺に諭すような賢げな雰囲気で語りかけた。


「そうよカール。アモンには……わるいけど今回ばかりは簡単な賊退治と同じとはいかないじゃない。カールもカールで……っいつもみたいに放り投げて断ればそれでッ──」


「必要ねぇ」


「ん?? なに……?」


 話を遮られたクピンはカール王子に聞き返す。


 だがいくら聞き返されても、俺の組み立てた頭ん中では──


「〝石化対策〟なんて必要ねぇ」


「はぁあ?? カールっ、それってあんたが言ってた無策の第四とおなじじゃない!」


「ハッ、誰が無策だなんて言った。石化の対策〝は〟必要ねぇーんだよ」


「はぁあ!??」


 同じように聞こえてもそれは同じではない。石になるまでに行き着いた過程と時間が、違うのだ。


 決して、あまのじゃくをこじらせている訳ではない。石化の状態異常の怖さを舐めている訳でもない。石へと固まるその前に留意すべきポイントを俺は幾つか頭におさえていた。


 静かな自信に満ちた俺は、まるで鼻で笑うように──。


 カール王子の旅団の面々がそれぞれの頭ん中で考える……その重ね合わさった【厄介な敵の正体(イメージ)】を、(あざけ)った。










「先に寝かしつける、それが段階を踏んだ対象を重度の石化状態にするための必要条件、もしくは脅威であると考えられる石化攻撃、その即効性・拡散性・有効射程距離が実はそれ程のものではなく、戦闘の最中に多数の兵力でかかれば……そこまで注意を払う必要がないコマンドとなる? ……なるほどこのイシカゲの村人たちの現在の状態の経緯としては違和感なく……考えられますね。さすればつまり、敵方の用いる可能性の最も高い戦略は【眠誘師(スリーパー)】。眠り付与の武器やAP技・魔法での搦手の使用が考えられます、その対策がふんだんに必要だということですね。石化攻撃には時間がかかりそれよりももっと確実性の高い強力な眠誘攻撃を仕掛けてくるはず……なるほど、ええ──」


「あぁその補足でバッチリ〝同じ〟だ。俺はきっとそうだと、さっき考えた末に踏んだが……じゃないとおかしいからな? わざわざ眠り顔にした人間さまを石化させるのがその魔物の趣味なら別だがな。それならとっとと尻尾まいて諦めるぜ」


 メイド長で団の参謀でもあるクロウに、俺はなぜそれが要らないのかを説明し、クロウが今ご丁寧に言い直して膨らませた。


 未知の石の魔物対策へのイメージ。


 そう、必要なのは話にあったとおり眠り対策。石化対策ではない。


 すやすやと眠り顔を並べた石像たちが、最初からそうだと言っていたのだ。……目覚めた青髪の女傭兵は言わなかったが、まぁそれは一旦置いておこう。


 俺の話を良くきいたクロウはさっそく、部下のメイド兵たちに物資の確認をもう一度するように指示を与えた。


「ででもカールそうだとしても! ここにこうして眠ったその石人間たちが置かれてるのはどう説明するのよっ? 眠らせてから、魔物がここで、それこそわざわざ一つ一つ石化させたってこと?? ま、まだ何かあるんじゃないの?? そうよ、きっとそう!!」


 また敵のイメージをもじゃもじゃと膨らませるヤツが出てきたが──合っている。そのわざわざしてくれた妄想は。


「それは魔法か何かの手を借りて配置したとしかいえねーな。まぁ……どうしてもって言うならァ……五歩目ぐらいで気付いたこともあるには〝ある〟が?」


「ぬぬゥ…………な、なに??」


 ポーカーフェイスのクロウと見比べるとこの緑のキャラクターは犬のように表情が豊かに変わるものだ。


 やけに素直に聞き返されて気持ちいいので、俺も素直に感じ取ったことを、クピンと居合わせた皆にむけて語った。


「はっ。それはそれこそ、みんな大なり小なり今もなお感じてることだろうよ。こうやって熱心に集めた食料(コレクション)を、ご丁寧にならべては人間様の感情を煽ってェ……つぎの〝挑戦者〟を待ってるんだろう? まるで一石二鳥ってな、はっ」


「ちょ……挑戦者?? 人間のかんじょうを……あおる……? 魔物が……」


 王子の放った思いがけぬ言葉に、クピンやクロウは驚いた。王子が言ったことが果たして戯言か真剣か、すぐには判断することはできない。


 王子の話をきいた従者たちが返す言葉を詰まらせた、そんな時──


 あおられて──風がそよぐ。この距離からでも王子の茶色い前髪を揺らすのは、ただの気まぐれに吹いたそよ風か。それとも──


 遠方の広場で、熱心な準備をしているマントのはためきを、居合わせた三人は同時に見た。


 既に抜いている。緑髪の剣士が構えたその真っ直ぐな鋼の剣は────俺たちがさっきまで語り膨らませあっていた、虚空(イメージ)を鋭く舞い斬り裂いた。







話題そのex《おしえて!眠り対策①》



 てきぱき準備のしなおしに動いてくれたメイド長のクロウが、最後に戻って来て、席についた。


 俺たちはここの村人が軍評定をしていた形跡のある例のひみつの作戦会議室を見つけ借りた。そして机上に戦いに必要なアイテムを積み上げて、一度、仮想敵、【石の魔物】との戦い方をシミュレートしてみることにした。


「馬車に積んだアイテムの再確認をしたところ……やはり要のアイテム【妖精の粉】は幸いにもベヌレの街で買い付けており、まだその数も消費されず潤沢すぎるほどにありました。が……此度想定した敵が繰り出す、おそらく強力である眠り攻撃に対して、間に合うかどうか……。解眠魔法であると噂される【ダミンパ】。その魔法を習得している者はカール王子の旅団には残念ながら……私も含めておりません。では察するところ、さいあく根気よく眠り状態にかかった味方を、この要のアイテムをふるい起こし合う……。すこし頭と瞼のおもくなりそうな持久戦になりましょうか?」


「そうだな、基本的な攻略法としてはそうなりそうだ。──あぁ、それと忘れてるぞ〝コイツ〟もおまけだ」


 数を数えながら山積みにされた妖精の粉の入った小袋の山。


 そのアイテムの山の裏からひょこっと顔を出したのは、黒髪のクロウと緑もじゃこのクピン。


 俺は顔を覗かせた彼女らに、お忘れであったもう一つの【要のアイテム】を手に取り、みせびらかした。


「それは……目覚まし時計? たしかベヌレで貸し切りにした宿屋で、去り際に記念にいただいた……アヒルコールドの……」


「ってカールさすがにそれ……ヤルの……? あんたいくらなんでも眠り状態にかわいいアヒルの目覚ましって……安直がすぎるってかんじに見えて、一気に不安なんだけど……!!(なんならそれない方が、マシにみえちゃう……)」


 どうして不安だと言うのか。そんなやる気のみえない台詞を添えて、心配そうな表情を浮かべて。


 女子たちの注目を王子よりも一身に集めるのは、一匹の水色のアヒルさん。


 アヒル口がキュートな造形をしているその記念品の目覚まし時計は、まだ鳴らすには早い。


 秒針が普通に時を刻む。


 真似していたその無意味なアヒル口を、クピンからの渋い無言の視線を浴びてやめたカール王子。


 やっと出番の巡って来たその水色の【珍アイテム】のお披露目に、一介のプレイヤーとしての興奮は隠しきれない。


 訝しみ見つめる従者たちに、王子は不敵に微笑い返した。






★第九王子旅団所属ユニット紹介


クピン・シープル:

【アクアウルフ】【アクアウィップ】などオリジナルの水属性魔法を使う魔法師。武器は持たない主義。敵意のない魔物スターラットを見つけ仲間にした。羊飼いの娘にしては才ある魔法師だ。


アモン・シープル:

屈強なタフネスと並外れた剣の才をもつ規格外の剣士。カール王子の旅団の中では、頼れるエースユニットだ。AP技は【回転斬り】のみ。しかしなぜか【カーテン斬り】に聞こえるその仕様は、リメイクVR版でも健在らしい。


カール・ロビンゾン:

成長率は最低クラス。頼りにならないユニットだが、一般メイド兵よりは強い。第九王子としての威厳と権限は高いため、旅団の指揮をとりやすいのは一介のプレイヤーにとってありがたい。条件を満たすと特殊武器のブーメを扱えるようになる。現在はリセットのタロットを幾度も使いはたし、能力値をきようさに特化している。魔法の才能は毛ほどしかなく、AP技は【パワーブーメ】のみだが。今回はもう一丁……。


クロウ・フライハイト:

頼れるメイド長。ブーメ以外のどの武器も扱うことができる。魔法もそつなく扱える経験豊富な万能ユニット。


イヨポン:

壁役の女戦士。オレンジ皮を模した盾とバグナウは、鍛冶師のノゾミィに無理言いメンテしてもらったようだ。根性があり動きも悪くない。


ユウ:

ベヌレの街で仲間になった最年少ユニット。運動神経は悪くない、まだまだこれからに期待か。特技はないが、強いて言うならば随所でみせる抜け目のなさと、その切れ長の鋭い目か。アモンから譲り受けた鉄剣を装備している。


ギム・スライ:

テツテツセットと魔重の盾を装備した盾兵。しかし実質ホナ専用の護衛状態であり、他への取り回しは悪い。現在はホナとチョコと三人で陣形を組んでいる。


ホナ・スライ:

回復AP技を持つ魔銃師。スチームパンクセットと小銃の装備を「かわいい」と双子の片割れのギムに羨ましがられている。魔盾を装備したギム以外に対しては、回復弾の回復量に即効性はない。そのため、他への回復のタイミングは、配置と残APを考えて使わなければならない。


チョコ:

上級魔法の【ビッグサンダー】を習得した唯一のユニット。だが上級魔法の発練には時間がかかる。強敵へのイチゲキ運用が一番効果的だろう。


オリーブ:

投げナイフが得意な元山賊頭の女。能力の成長率はカール王子とどっこいだろう。


メイド兵たち:

優秀なメイド長の指導の成果で、一通りの役割はこなせるようになったメイヂ産の質メイド。だが、壁性能は決して高くない。


元山賊たち:

ガタイのいい山賊が三人。壁役にはなるが、はたして?


元山賊(犬):

ホイと鳴く。あまり強くはない。もっぱらその嗅覚をいかした索敵役を任せている。


アオ・二オール:

秘密の里から派遣された傭兵。第四王子のために働いた以前の戦闘でメインウェポンにしていた大剣を失くしたらしい。その持ち前の体格と石化状態を無理やり解こうとした頑丈さゆえに、急場の壁役としては使えないこともない。現有する戦力の中では、今はとりあえず、不本意ながら……前でやってもらうしかないか?


ノゾミィ・ノーム:

依頼の品【ベヌレの街一番の魔剣】を完成させるため、カール王子の旅団に同行した鍛冶師見習いの娘。戦闘力は低い。カール王子ら旅団員のする戦闘の視察を許可し、その見習い鍛治師の目に役立つような、生きた経験を積ませているところだ。


スターラット:

クピンが心を通わせスカウトした敵意のない鼠系魔物。星の模様が入った魔物はとてもレアであり、なおかつ敵意のない個体ともなると……。能力は未知数、お腹のしろい星模様がかわいいらしい。ついなでなでしたくなるような毛並みをしている。








話題ex《かげのかくご……?》



 あなたは誰のために死にたいか。その答えがこの一冊の本の中に眠っている。


 著者の名前はブレイク・ミュラー。あらたに書き起こされたのは、《ラストⅠ》《ビヨンドⅡ》《トゥルーⅢ》の三巻。三部構成されたそれぞれの自己犠牲の物語だった。


 ホックは此度の旅の途中で購入した一巻目の本をその胸に抱きながら、その読後感に悶えている。


「ふぅー……さすがだわ。先生の新作」


「でもそんな王子いないじゃない? 最後に誰のためって言われても?」


 既に一通り読んでいたナンナはそう投げかけた。この本の中にいるような心の優しくて美しい王子様など、彼らの属するメイヂ国領には存在しないのだ。


「でもカール王子って、ここのところなんだか? あっ、むかしの──」


 ナンナの一言で読後感が冷めてしまい、天を仰いでいたホックは、ため息をつきながら目線を元のレベルに戻した。せっかくの読後感がまた、自分の仕える、変えることのできない、あの王子様の顔が浮かび塗り替えられていくようだ。


 よみがえり思い出される──これまでメイドとして働いてきたたくさんの嫌な思い出や、しかし、ここのところのどこかおかしな彼の変貌。そしてホックはついに現実から逃避するように、少しでも良い──昔のことに思いを馳せようと天をまた見上げようとした。


 そんな同じメイド兵仲間のホックとナンナ二人の小話を聞いていたニモアも、『あなたは誰のために死にたいか?』その最後のページで問いかけられた答えを、頭の中に浮かべつつ。


 オールドセンスなものと、ニューセンスなもの。箱の中から取り出した最後の二つのうち、一つをその手に選び取り、自分の口の中へと頬張ろうとした。


「あたしなら断然、アモン様のた──べ……?──」


「へぇー。俺への評価、それってなかなか高いのか?」


 口を開けたまま黙り、その場にいた皆がかしこまる。ドーナツの穴のもの真似をしている訳ではない。


 地獄耳か、ヤツがやってきた──


「に……かっ……カール王子様!?」


 彼女が手に掴んでいたはずのドーナツは消え、今はにやりと薄気味悪く微笑う彼の手元に──。


 ホックとナンナは災いを呼んだその声を黙らせ、姿勢を正し息を潜める。


 背後から寄る音もなく、不意をつかれたニモアだけは、尊い彼の名を動転しながら呼んでいた。


 小さな民家の裏でたむろしていたメイド兵三人をゆっくりとそれぞれに指差ししながら、カール王子は数をかぞえる。


「ひぃ、ふぅ、みぃ────なるほど。俺のために死にたいヤツ、手ぇあげろ」


 静かに放たれたその言葉は狂気いや凶器に等しく。今、手を挙げた彼の姿は、祀られた勇者六英雄の銅像よりも畏れ多い。


 やはりこの王子は改心などしない。されど彼の従者であることは変わりない。そして言い逃れることも今更叶わないと知る。


 日頃の行いが祟ったのはどちらか。メイド兵三人組、そろって息を呑んだ彼女たちは、おそるおそるその手を────。



「はい、お前ら全員クビ」


「へ、くっクビ!? なっ、なん──」


 いきなり放たれた「全員クビ」その唐突な解雇処分に、肩より上までハンズアップした三人は驚愕した。そしてそのような横暴、いくら王子様といえど納得はできない。しくじったニモアが代表して許しを乞おうと口を挟もうとした。だが、



「俺が死ぬわけねぇだろ? ハッ。──守りたきゃ守れ。王子(オレ)以外、ちゃんとな」



 思いがけない言葉が、聞いたことのないセリフが、彼女たちの耳を打つ。耳の穴をとおりまるで大地が裏返る、そんな驚きの感情にメイド兵たち三人は支配された。


「これ何味? うまいな?」


「ぱ、パイナップルポークあじ、しんさくドーナツです……」


 王子は答えたニモアに、ひとかじりしたドーナツをあずけ、何事もなかったかのように背を見せその場を去っていく。


 第九王子の紋様のあしらわれたその深い緑色のマントが突っ立つ三人の視界から遠のいて、やがて消えていく。


 呆然としながら、三人は黙ったお互いの顔を見合わせた。


 ナンナは左手で十字を切り、さいごに汗ばむ額に手を置く。ホックは後ろ手に隠していた本のページを開いた。右手には食べかけのドーナツが、処分に困ったニモアはそれを持ち上げながら、片目を閉じて見つめてみた。


 塞がれていた穴が開かれている────。








話題ex《石ころとオレンジ?》



 「こつん──こつん」と音が鳴る。変哲のない音の返りだ。それでも粘土瓦を一枚ずつ、手持ちの石で小突いていく。


「西、北、南……あれ、一人いねぇな? まぁいいか。それより……ここらで、おっ──」


 石を後ろに投げ捨てた俺は、今叩いた微妙に手応えのちがったような気のした瓦を、一枚、そっと剥がしてみた。


 裏返し剥がした瓦の下には──


「あったな。風が知らせてくれたのか……? なんてな、運がいいぜ」


 幸運にも探し物を〝一枚〟手に入れ上機嫌になった俺は、剥がした瓦を元にはめ込み直し、そのまま民家の屋根の上からその足で飛び降りた。


「VRゲームってのは、こういうことを平然とするから怖いものだぜ。自由度の高さが〝みにくさ〟につながっている。もちろん色んな、な? ははっ」


 誰かさんが隠したものはプレイヤーにとって探し物。今日も明日とて、VRゲーム内部には新たな発見が、熱心なゲーマーたちの探求探索により一日単位で起こっているのだ。石を使ったこの方法も、あるVRゲームの探索班で一緒になったフレンドに教えてもらった方法だ。


「さぁて、ん──どうした?」


 俺は、頭を両手で抑えてしゃがみ込んだ様子の、オレンジ帽子の奇妙な背を見つけ声をかけた。


「トイレならあっちだぞ?」


「ちがうわゴラァ!!! だァれが道端のど真ん中でぇって──痛ったたたぁー……」


 また頭を抑えてしゃがみ込む。イヨポンの尻の隣に落ちていた小石を、俺はそっと拾いあげた。


(今からレベル上げにもどるのも、ありか?)


「ちょっとちょとちょとってスルーすんな王子!! じゃなくて王子様ぁ〜!! あっ!? このイヨポン、決してあの程度の石の雨ッ、かわせないわけじゃなくてッ!! なので今度の編成っ、このイヨポ────」


(いや、行ってみるか──!)


「ってアブネ!?? ざけんなッ何回石ころ投げてんだこちとらにィィ!! あっ!? じゃなくてッ、この装備も実力もバッチリのイヨポンを、ゼッタイ────」


 ひょいと後ろに投げ放った石ころが、すばやく屈んだオレンジ帽の頭上を通り過ぎ、遠くの鉢植えを倒した。


 横倒れの鉢植えが、黒い土を流しながらキラめいた。


 幸運は連鎖する──思いがけぬところから。


 俺はまた〝一枚〟土の中に眠っていた探し物を回収し、良いリアクションを見せてくれたイヨポンにお礼のウインクを披露した。


「えっ! 王子、まさかまさかそれをあたしにあげるたっ……へっ? ……ま・さ・か──」


「片っ端からぶっ壊せ」


 タロットは何枚あってもいい。


 今、石色のプレゼントを左手に受け取った団員の女に、カール王子はまぶしいその笑顔で命令した。


 王子様からお姉さんへのプレゼントは、ダイヤでも能力UPのタロットでもなく、まさかの石ころ、石つぶて。


 自称、アイドル系お姉さん戦士イヨポンはわらう。ついていくのがやっとのこの男の未知の行動力に、この王子の持つ底知れぬ欲に似た何かに。目の前に聳え立つ王子スマイルに流されて、歪に引き攣り微笑うしかなかった。

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