表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/13

GAME5

 お姉さん、山賊、ガキんちょ。


 皆があこがれるカール王子の旅団、その第一次選考にして最終面接も無事に終わった。


 面接を開始した時よりも、横線がたくさん引かれ黒くなってしまったリストを返却する。あとの事は、仕事のはやいメイド長のクロウが、いい感じにやってくれることだろう。


「にしても追加キャラがおもったよりも多いな? ま、ゲームはボリュームが多いにこしたことはねぇ。むしろ待ちに待ったリメイク版そしてVR化、遊びきれないほ・ど・がちょうどぃほぁぁ……ねむ」









昼下がり▽ベヌレの街の西の門前▽にて



 王子という職業は、勝手に物事を選び進めたり、どうにもいかず信頼する部下に丸投げしてみたり、時には部下のことを気にかけ声をかけたり……忙しいものだ。


 もちろん上の立場である王子役の俺を、その便宜上よく働き手伝ってくれる優秀なメイドたちはいる。しかし、こうして王子を自操作しているからには、このすごい権限をもって、万事を上手く決めていかなければならない。そう思うのがプレイヤーの(さが)だろう。


 そして今、ずっと気に掛けていた一人のオーラある従者を、例のすごい王子権限を用い呼び出して──


「よーーーアモン呼び出してすまねぇな? たのしいデートの予定のひとつでもあったろうに」


「あはは、カール王子の誘いだ。まったくないデートの予定もすっぽかして飛び付くよ」


 そう、待ち合わせは門の前、うららかな春の陽が射す、暖かいお外の野原で。


 俺はいま笑顔で現れたこの男、剣士アモン様という能力値と顔面値の高すぎる理想の男にすっかりお熱なのだ。


 ゲーム開始から(床で毒マグロの真似をやっていたあの時をのぞき)ずっとアモンのことを中心に、寝ても覚めても昨日も夜中も考えながら動いていたといっても過言じゃないのだ。


 もちろん好きな能力と性格をしたキャラではあるが、そっちの気はない。俺は王道だ、王ヂだけに。


「ハッ」


「あはは、ところでそこにさしている……ソレは? カール、剣は売ったって?」


 さすがに気付くか。どうやら開幕から気付かれていたようだ、さすがアモン様とはいちいちおだてることはない普通の洞察力だ。


 俺が腰に差している新品の【コイツ】に興味津々なのが、その目の輝きからこの距離でも伝わってくる。


「あぁ、こいつが用ってヤツだ。お前にな」


 あいにく、ここでもったいぶる必要もない。余計な演出はいらないだろう。


 俺は自分の腰に差していた似合わない装備を外した。そして何の未練もなく正しき持ち主の手元へと、ソイツを届けた。


 俺が考えなしに買ったあの店売りの【鋼の剣】だ。戦闘に街ぶらに面接、このところのドタバタがひと段落、落ち着いてきたことだ。とりあえず【ソイツ】をアモンと二人きりの時を見計らい〝第一弾〟のサプライズプレゼントとしておこうと思ったしだいだ。


「え、カール!? ……いいのか? メイヂ国を発つときに国王から授かった……そのぉ【鉄剣のテイラー】を俺、まだ極めちゃいないが??」


 と言いつつも、さっそく鞘から抜いてやがる……。輝かせたつぶらな瞳で、手にとった新品の剣を抜いたり鞘に戻したりを繰り返しているのは天然なのか。笑いをこらえている俺の腹筋が、地味に痛くなってきた。


「使い潰すことを極めるとは言わねーよ天然。どこのどいつの王の誰が言ったんだ、そんな貧乏くさい風習を。ハッ、俺様の剣しか取り柄がない側近が、いつまでもそんなふっるい装備じゃ頼りねぇからな。いいもなにもこれぐらい普通だろ? 俺が新しい剣さえ買い与えない、ケチな国の王子様にでもみえるのか、アモン・シープルくん?」


 そんな安物の剣をいつまでももったいない精神で使われては、戦力がだだ下がりでこちらが困るのだよアモンくん。


 まさにどこのどいつ案件だが、若造のアモンとメイヂ国王、その息子の第九王子と従者である天才剣士の関係ってのは、それぞれの立場とけったいな思惑が入り混じる……まぁ一言では説明の難しい複雑なものだ。


 だが、王子の俺がすこしぐらい介入して問題を解消する分には問題はなかろう。同行する一番の戦力ユニットとして有効的に使っているだけだからな? 与える鋼の剣ひとつぐらいは、安すぎるぐらいだ。


「カール……」


「野郎にそんなに見つめられてもうれしかねぇがな。その汗臭いお古は売るなり彼女にプレゼントするなり好きにしろ」


「あぁ──わかった、ありがとう。なるほど……てことは、カール?? このあとはさっそくあのときの勝負のつづきか!!」


「あぁそーそーアモ……ってなんでだよ!!! 馬鹿言ってないで慣らしとけ、気に入らねえようなら即刻返品にするぞ! まったくどんな爆弾級の〝てことは〟だよ」


「あはは、返品、それはイヤだな。じゃあちょっと、命令どおりに慣らしてくる!! よぉぉし、これからよろしくな【ハガー】!!!」


 装備した新品の鋼の剣を独特のセンスで命名する。左の腰には使い込んだ旧友の【テイラー】、右に新入りの【ハガー】を携えて……緑髪の男のマントが風に乗りはためいた。


 ──ヤツは元気だ、すこぶる。


「ちょっと慣らしてくるで、ひとりで魔物をぶっ殺しにいくヤツがいるかよ。ハッ──アモン・シープル、太陽の勇者の片割れ」


 そういえば手持ちの武器がねぇ。平原の彼方のそのお熱く危ないデートに誘われなかったのは、ちょっとざんねんか? はは。



 光射す平原をゆく、若い勇者の背が、一介のVRゲームプレイヤーの目に……遠くまぶしく────


 俺はひとつ、おおきく背伸びをした。


 変哲のない鋼の剣ひとつではしゃぐ規格外の従者のことより、一国の王子はこの広大なゲーム盤の大局を見なければならない。


 二手、三手、これから先に備え考える。帰って独り、宿の椅子に腰掛けながら淡々と準備を進めていく……それも、


「プレイしがいがありそうだ、はは」


 剣を剥き出し平原を駆けるアモン・シープルの背はもう見送らない。カール・ロビンゾン王子は、まだ用の残るベヌレの街の中へと引き返した。






《話題そのex 鉄剣のテイラー…?》


 絵本にでてくるような勇者たち、英雄たちもそのようであったのだろうか。


 緑の髪をなびかせ、並いる魔物を平然と斬り裂く彼の存在は、屠った魔物の屍と、そのよごれた剣がよく似合う。


 盗み見しすぎた──そんな視線に、剣士は振り返った。そして、剣士からすばやく投げ放たれた銀色の星が、少年に向かい飛ぶ。忍び寄っていた毒蛾の魔物はその突き刺さる刃に堕ちた。


「モスポイズンだ、じゃれつかれるとちょっとかゆくなるぞ」


「……後ろだ、緑髪の剣士」


「あはは、──分かってる!」


 ひらひら靡く──マントの背に飛びついた灰鼠の魔物は、すばやく泳がせた鋼の剣に、その襲い仕掛けた前歯ごと斬り裂かれる。


 美しい剣線と、流れるような体捌きをじっと見つめながら……。少年は地に刺さった鉄剣のテイラーを引き抜き、握りしめた。







 アモンに頼ればex魔物のライトニングビートルを狩るのは余裕だった?


 なんならサナギの状態のまま、手早く、危険な賭けもなく倒すことができる? 


 もしも仕様が変わっていたら、ビッグサンダーが効かなかったら、今頃イヨ……ポン!!! だった?


 素人はこれだから困る、なんてのは冗談で。やはり、最強ユニットであるアモンに頼るのはカール王子を自操作する立場として癪だった。


 というわけでもなく。ただ単にギム、ホナ、チョコ、それにカール王子──今ある戦力と装備とお金でどうにかなる、勝利のピースが十分に揃っていたからそうした。そう、だけのことである。


 それでもアモンに頼れば? なんならもっと多い戦力で挑めば?


 たしかにアモンがいれば楽だったろう。しかしライトニングビートルの成虫姿を拝むまでに倒してしまっては、あの魔物の素材があの状態で手に入ったかは分からない。(アモンの性格ならやりかねない)


 それにせっかく【ビッグサンダー】の魔法書を、一点もののカール王子の激レア初期装備を売ってまで買ったんだ。使ってみたくもなろう、試してみたくもなろう、それがプレイヤーの性だ。それにそれに【魔重の盾】もランダムに並ぶショップで、運良く見つけたんだぞッッ、こんなのもうっほにゃららで、ごにゃらら……。


 とまぁ言い訳なぞ立つわけはなく。


 「なるべくバレずに楽しみつつ、サプライズをしたいから馬鹿をした」が、俺のここまでのプレイ記録だ。



 と、愚痴りつつやって来たのは、例の鍛冶屋の家だ。縦長家屋で住居部分の奥を行くと、広い工房につながっている。


 俺はさっそく王子の顔パスを使い工房内に入る。そしていつものように、ガンコ職人気質のジジイにめげずに茶々を入れにいった。


 鉄床の上には、まだまだそれを武器と呼ぶには荒削りながらも、黒い宝石のような輝きがある。


 魔物の素材は加工がそんなに難しいのか。そんな工程を拝める機会なぞこれまでの俺のゲーム体験ではなかったことなので、テンションは自ずと上がる。


 俺がそれに触れようとするアクションをみせたそのとき、頑固な眼光が睨み光る──煤のついた鍛冶師のハンマーを向けられてしまった。


「あと三週間で仕上げてやるわい。いちいち来るな、花嫁修行中じゃ」


 花嫁修行中やら化粧中やら、なにかと女に例えやがる頑固ジジイらしからぬ台詞に、くすりと笑いそうになるがヘソを踏ん張り堪えて。


「そっちこそぐちぐち何言ってんだ。俺たちがここにいるのはあと3日だ。花嫁がそんなにのんびり修行しててどうする」


「……なんじゃと??」


 かけていた防塵ゴーグルを頭の上にずらしながら、鍛冶師のジジイ、ノルガ・ノームは、俺の今ぶっこんだ時限式の爆弾発言にさすがに驚いた様子だ。


 しかし俺は無駄な冗談を言っているつもりはないので、最もらしくつづけた。


「最強の太陽の剣士様がこんなしょぼくれた序盤のカスみたいな街に三週間もいれるかよ。できなきゃこのまま店売りの鋼の剣でいかせてもらう。アレは原大陸産で、未開の勇大陸なんかより品質も保証されてるからな。それでも足りなきゃ旅の途中でもっといい装備に段階的に乗り換えていけば何も問題はない。化粧直しに手間取る不細工な花嫁を待つ必要はない、ってわけだ?」


 俺はその不完全な剣ともいえない黒い原石を一瞥して、盛大に茶々を入れた。


 表情をしぶく、目を丸くした爺さんは、俺に向けていた大きめのハンマーを肩に担ぐようにもどした。そして、自分の老いた肩をもみほぐすように小刻みに打ち出した。


「……フンっ言ってくれおる! よしノゾミィ!! ノゾミィどこだ手伝え!!! この街最高の魔剣を3日でじゃーー!!! 代金は三倍でじゃーー!!!」


「え、お爺ちゃん!? わたし手伝っていいの!??って三日ぁ!?? ままままたあんたァ!??」


 大人しくなったと思えば今度はジジイが突然叫び出し、孫を呼ぶ。慌て駆けつけた赤髪に『おままごとじゃないぞ』とかるくカール王子は忠告したが、『気が散る余計なお世話だから!』と彼女に返された。


 ノゾミィ・ノームはノルガ・ノームの鍛治工房の一員に加わり、慌ただしくもすぐさま、注文の品を完成させるための手伝いを始めた。


 火を吹く炉の赤と跳ねるポニーテールの赤が同化する。慎重に磨かれ削られていく黒と、真剣な黒い眼差し。


 そんな鍛冶師たちの本気の作業風景を俺は眺めながら──


「ハッ……代金が三倍だとは言ってねぇ、聞いてねぇ」


 これから先の金策手段を四苦八苦、ごちゃついた頭んなかで整理。吹き荒れる火の音と勇ましくハンマーを打つ音を、悪くないBGMに変えながら────








《話題そのex 謎のカードゲーム?》



 相手に一方的に好条件を飲ませ、そして押し付けたつもりが裏目に出てしまう。そんな経験はないだろうか?


 俺は現在、鍛冶師ノルガ・ノームの弟子に任せていた壊れた武器の修理依頼を放置され、街の外に出ることもあぶなっかしくてできずにいる。


 しかも、武器制作を依頼したジジイには三倍の代金をふっかけられた始末だ。ジジイがジジイなら弟子も弟子、ついに、ふらりと遊びに来る鍛冶素人の俺は、あの家と工房内を出禁となったようだ。


 もちろん従者であるメイドたちのなかには武器の修理スキルを持つものもいるが、元のゲームの仕様通りだと腕は純粋な鍛冶師未満であることは間違いない。そしてゲームとちがい……修理時間を要するので、結局変なことはせず、おとなしく待つのが一番だろう。(失敗されてロストしたら目も当てられないからな)


 しかし俺は今、王子カール・ロビンゾン。あいにく武器がなくても、そのえらい地位と財力を使えば万事をのぼりつめることができる、選ばれし星の元に生まれた存在。


 王子に不可能はない。たとえゼロからでも俺の残り少ない軍資金(おだちん)で、そっろそろ!! 当たりの【デジル】を引けるはずなのだ。


 まずは目んたまの挿入口にコインを挿入する。そして真実の口のように開きっぱなしの、いかつくマヌケな顔の彫られた石板の口穴へと、己の手を突っ込んだ。


『虫デジル、虫デ、虫デ、虫デ』


 俺は念じながら……祈っていたその手で何かをつかみ、外へと勢いよく引き抜いた。



【ライトニングビートル(本気)】

HP1070

AP710


くしざし 単体に180

虫雷の一角(90) 単体に330

虫雷の怒走(230) 全体に550(CT2)


ex能力

このユニット以外の虫系ユニットのAP技の攻撃力を90下げる。

天国の虫系ユニットのユニット数一体につきAP技の攻撃力を20上げる。

このユニットよりHPの低いユニットのAPを毎自ターン50吸収する。

このユニットの受ける敵ユニットからのダメージはバトル場に置いたときの経過ターン数1毎に10ずつ減少する。

手札から3枚虫系ユニットを天国に捨てることでこのユニットはバトル場に出す事ができる。



「駆け抜けた……。王子の休日……俺の右手は真実の神御手(ゴッドハンド)……はーっはっは……ハッハーーーーー!!!」


 訳の分からないポエムを添えて、ガッツポーズをしている俺がいる。心からのガッツポーズを。


 美しく煌めくパラレル加工の施された激レアデジルを右手に、左手は唸り握りしめるガッツポーズを。



「何やってんの? 馬鹿ール……」



 なにか感じたことのあるジトっとした視線をいま感じたが、気にしない。俺は街のはじっこで、マヌケ顔あらためイケメン顔に見えてきた石板の男を撫でていたわる。しけっていた俺の機嫌をがらりと晴れさせた、この日の神引きに感謝をした。





 【デジル】とはなにか。それはたぶんこのセカイでひそかに流行しているカードゲームのことだろう。


 石の目に硬貨を捧げ、さっきの真実の口へと手をつっこんで念じれば、欲しい種類のカードをある程度排出してくれるようになっている。


 俺が軍資金をずいぶん投入し狙っていたのは【ライトニングビートル(本気)】のパトルカード。


 やはりこの地域の基本カードにくわえて、倒したことのあるレアな魔物のカードは排出されるようになっていた。俺の読みは当たっていたようだ。


 このままコレクターに売っぱらうのも軍資金を元の三倍以上に増やせてありな選択だが、せっかくだ、それはこの街の〝冠〟を手に入れたときに考えよう。



《デジルバトルの基本ルール》

30~60枚の枚数自由なデッキ構成で同じカードはいくらでも積める。

先に7点を取った方が勝ち。

点の取り方はユニットカード1枚を撃破で1点。

空っぽの敵陣を攻撃できればユニット1体につき1点。

住民ユニットが特殊クエストを達成するとその能力に明記された点やアイテムを獲得。

ただし点数は両デジラー共有であり、合計で7点相手からとっても勝負が決まるとはかぎらない。例えば自分が相手ユニットを3体撃破したこれでこっちは3点、だが相手にそのあと自ユニットが2体撃破されてしまった!これでは自分の獲得点数はマイナス2されて1になる。さらにさらにそのあと追加で4体自ユニットがやられてしまった!こっちの獲得点数は相手が3点で実質マイナス3点だ。

さらに分かりやすくいえば7から-7のメモリの刻まれたロープがあり、1cmずつ自分の勝利のかかれたフラッグへと相手をひっぱり引き寄せていく、そんな泥沼の長期戦も秒速決着もできうる運動会の綱引きのようなゲーム性だ。



 さっそくバーの外テラス席で行われていたデジルバトルの小規模トーナメントに参加した俺は、あくびをたれながら順調に勝ち抜いていった。


 都度、デッキを最適な枚数調整しつつ途中勝利報酬でぶんどったよさげなカードも選び加え、1時間足らずで決勝の舞台までたどりつくことができた。


 そして現在、絶賛長期戦を繰り広げているお相手は、鼠の着ぐるみを纏ったコスプレ男。カードゲーム中にも懇切丁寧によくしゃべるおっさんだ。


「このままだとモスポイズンの毒で取り巻きが死んでいずれチェックメイトだがそれでいいのか? ベヌレの街のデジルチャンプさん?」


「ばーーか、かまわん!! ──ふふふ引いたぞ成ったぞ、アイテムカード【超高級回復シャワー】……これを装備したユニットと隣接するユニットは毎ターン70の継続回復を得る。つまり、オマエの毒はこれで帳消しなのだーーーーっはっはっは。ここまでこそこそ卑怯にも勝ち上がってきたようだが、漢らしくない姑息なねちねち戦法なぞ、パワー&ラットでねじふっせる!! いけぇキングラット、APを220支払い〝王鼠尻圧余波〟だ!!! よーしこれで、お前のバトル場はまさに虫の息。俺の魂のデジルユニット、次の俺のキングラットの〝王鼠尻圧余波〟に耐えられるお前のバトル場のユニットはいない! なぜならば自分のバトル場に鼠ユニットが2体以上いるときにこの技は使用でき、単体に440HPダメージ、さらに振ったダイスが偶数だと追加で全体に220ダメージだからだ!!! ちなみに奇数だと自ユニットに220ダメージだ……はっはっは俺は次もダイスロールでもきっと偶数をだすぞーーー、姑息な虫野郎のチャレンジャー!!! その翅、その脚、もがれていく苦しさを地をのたうちまわる虫クズらしく味わえーーーー!!!!」


「そうかそうかそいつは懇切丁寧に解説どうも、あつ苦しくて困ったもんだ。俺の番【鈴蘭の森の駆け落ち】今おまえのあいた7枚制限のバトル場に横向きで設置した自然系フィールドカードで、天国のモス系の数だけ継続毒ダメージを1体につき50アップ。そして街場にだしていた住民ユニット、【ポイズンレディ】のクエストはおぼえているか〝継続毒ダメージで相手ユニットを倒したとき追加で1点を獲得する〟えっと、このターン俺がこのままエンドするとぉ、毒ダメージは合計300に跳ね上がる。手札の残りの自ユニットでいい感じに削りを入れて、ナイトラット×3とキュートフェアリーがターンエンドの毒で死んだと仮定して合わせて俺の勝ちかな? いやーぁちょっとまて、不安だから念のために【ゲキ旨毒団子】毒状態のユニットの最終撃破点数を二倍にする、もその鼠に装備させてぇ」


「…………ほへへ? ひぃ…ふぅ…みぃ…ちゅー? チュぅうう!!? ……ばっ、ばっばっかなーーーーぬおおおおおお!!!! やめろおおおお!!! 嘘だぁインチキだぁ!!! そんな姑息な戦法でステータスのよわい虫系デジルデッキごときが、この俺の王鼠デッキに逆転なんてありえない!!!」


「なぁにがインチキだよ、審判に確認して現実みやがれ。こんなことで取り乱すようじゃあ、ベヌレの街のパトルチャンプさんの名が泣いて笑っているぞ? はは。まったく思い通りに運びすぎてせっかく引き当てた切札(ライビーさま)を出すまでもねぇな、ハッ!!! さぁお前の(ミス)を数えろ、カール王子のたのしいたのしい毒殺さんすうのじかんだ!!!」


 自慢の激レアカードを見せびらかすつもりが、俺の毒モス天国戦法がこの脳筋ラット召喚ゴリ押しデッキにがっちりとハマった。切札を出すまでもなくチェックメイトに。


 カードゲームをやると俺の性格はいつもよりちょっぴり悪くなるようだ。さっさとレアカードをいただいて、相手が毎ターン嫌がるほどに思いやりのある人間になる前に、このおまけのカードゲームを終わらせるとするか。



「ほんとなにやってんの……馬鹿ール…」









「あなたの【王子毒殺手記】たしかにいただいたわ。うふふ、ぐーたら王子を刺し襲う無知の愛憎劇、それに毒マグロとは新鮮な痺れる表現だったわ。──これ、おだちん。身の痺れ悶えるような美味しいお話を聞かせてくれたら、またお礼してあげる♡」


 路地裏で遭遇した白傘をさした妖しい雰囲気の淑女に、俺は自筆の手記を手渡し、かわりに報奨金(おだちん)とアイテムを受け取った。


 持て余していた暇を有効活用し、見つけたこの街のサブクエストを淡々とこなしていく。


 そんなこんなで例の約束の三日が過ぎた。俺は出禁にされていたルールを堂々と破り、再びあの鍛冶師たちの家兼工房の中へと乗り込んでいった。


 ハンマーを打ついつもの慌ただしい女の声と、力強い音は、工房へとつづく長い廊下をゆく俺の耳には聞こえてこない。


 ドキドキと俺の胸を打つ、鼓動の音だけ。


 さぁて、【この街最高の魔剣】とやらの出来栄えはいかに──


「三日は無理じゃ馬鹿息子。代わりにコイツとその娘を連れて行け」


「お爺ちゃん!? そんなの!? ひとりで!?」


「お前もワシみたいに諸国の鉄鋼の打ち方を学びに行きたいと常々言っておったろう。ならその小僧についていくのが近道じゃろう」


「ええーー!? いきなりそんな……」


 工房についた途端、


 赤髪の娘が白布のベールに包まれたブツをジジイから押し付けられ預けられた。娘はジジイの放った突然の台詞に驚きながらも、その慌てる両腕両手は、いっぱいいっぱいで──。


 爺さんの手持つハンマー、そのでかいT時の矢印が、絶賛唖然とする王子の面へと向けられ、威圧している。


 …………ちょっと待ってくれ、話が今の一瞬だけでいきなり5話ぐらい進んだぞ? あまりにも唐突すぎて、俺、この茶番じみたサブクエストを読み飛ばしてねぇよな?


 しかし俺は王子、カール王子。街のデジルチャンプで、幻のex魔物ライトニングビートルを倒し、さらにこの右手で引き当てた男。この程度の運命の引きで、おののいたりはしない。


 工房内にやってきて早々に、慌ただしく目まぐるしく状況は変わる。そして、沈黙と四つの目の視線にうながされた俺の発言ターン。


「もらっていいのか爺さん?」


「3日なぞでは最高の武器はつくれん。どこぞの馬鹿息子の言う通り、こんな田舎街にいつまでもおられても困る。なんならノゾミィもいい歳じゃ、もらっていけ。相手が王子のはしくれならば、ワシもメイヂ王家に伝手ができてちょうどいいわい。わるくない親孝行じゃな」


 なるほど、納期の3日は短すぎて代わりに手に入るおだちんが、まだ未完成の武器とおまけの(これ)ってわけか。


「ってなに言ってんのーー!!! 自分でかわいい娘をあったばかりのお、お、おと……にッ! 差し出して親孝行!?? はぁあ!??」


「ははは。その手札は予想になかったな」


 世間的にはまったくイカれた話……であるが、ゲーム的な理屈としちゃ王道でもある。うん。


「ジジイ呼ばわりの仕返しじゃ。いくら金を積まれてもワシはもう打たん。こんな中途半端な仕事はの。じゃがこヤツと同じ素材を持って来れるようなら、また考えてやろう」


「そいつぁ一点もんの無理な発注だぜ? はは、2ヶ月は待ってくれないとな」


「フッ、言うことだけは一人前の王子じゃ」


「っててててあたしの身で仕返ししないでーーー!!! お爺ちゃん馬鹿ーーーー!!!」


 3日待っても仕上がらないこの中途半端な仕事は、弟子で愛娘、ノルガ・ノームからノゾミィ・ノームへと引き継がれた。


 俺は、まだわめく赤髪娘の肩を組む。『要するにおままごとか?』と冗談めかし囁いたら、『やややかましい!!!』と元気な怒声とおまけに、腹筋にトンカチのいちげきを浴びせられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ