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GAME25

《市井の疑惑》




 西円環区域、裏通りにある小店【ベーカリーセブン】にて──。


「ええ当店を贔屓にしていただけているのは事実です。裏通りに構えているものですから、それも良かったのかと。しかし……いつもお忍びで来てくださるのに最近は……はい、お姿を見かけません? ──あ、そうだ。取っておいた【セブンスドーナツ】よろしければいかがですか?」


 裏通りに構えるパン屋の店主に話を伺ったところ、やはりそのお方はここ最近このパン屋を訪れていないことが分かった。


 話を終えた店主はその来ない上客のために取っておいた特別なドーナツの箱を、引き取ってくれないか提案する。


 メイドらしい視点からウェブルを調査したクロウ、ニモアは、顔を見合わせ頷いた。






 西円環区域ミナモ商店通りにて、


 ユウは駄賃を貰い靴磨きをしながら、通行人の親父に、時折見かける不審な奴らの情報について聞いた。


「黒服? あぁそりゃ憲兵だ」


「けいぺい? ウェブル軍とは違うのか?」


「あぁちがうぜ坊主。ウェブル正規軍よりもまったく粗暴な連中さ。噂によると、どうもここ最近現れたラーミラ教お抱えの私兵連中らしい。ラーミラ教の布教ならまだしも、国王も何を考えておられるのか分からぬよ。──おっ、ピカピカだ上手いものだな、ほれ駄賃だぼう……ず?」


 手元からこぼしたコインが足元に散らばる。靴磨きの坊主の姿はそこにはもうない。汚れた布切れが、道に吹いた風に飛ばされていった。







 各々に動きだし情報を持ち帰った潜入組の旅団員たちは、約束の合流場所で落ち合った。


「さっき巡回していたあの黒服の奴ら、憲兵だから気をつけた方がいいって言ってたぜ。あと、ラーミラ教の私兵だとも」


 薄汚れた服を着替えたユウがそう言った。異物のように目に映った怪しい黒服連中の正体の一端を、靴磨きに扮し、掴んできたようだ。


「けんぺえ? らーみらきょーってなに?」


 双子の片割れのホナがひとり、能天気に疑問を浮かべた。


「ラーミラ教はかつての太陽の勇者を崇めるためにできた巨大な宗教組織です。原大陸が発祥ですが、ここ勇大陸にも信奉者は多く、広い影響と権限を持っています。……しかし、憲兵とは軍の規律の乱れを取り締まる監視役のはず、何らかの不正がありその自浄作用のために設けたのでしょうか?」


 クロウは皆に分かるよう細々と説明し直した。しかし、憲兵の存在意義があまり分からない。ウェブル国軍の中にある何かを恐れているのだろうか。


「おい、俺は話したぞ。細かいことはどうでもいいだろ今。そっちは?」


 ユウは考えだしたクロウに急かすように呼びかける。あの川辺の歯を見つけた時のように、そんな分からぬことをじっくり考えている時間が無駄に思えたからだ。


「ええ、こちらもそれらしい情報を掴みました。ジル姫様の動向を探っていると、浮き彫りになった事実がひとつ」


「っ──なんだそりゃ?」


「買ってないんですよ、ドーナツ、ここ最近」


「はぁ?? おい、ふざけんなよ」


 神妙な顔で溜めに溜めて何を言うかと思えば、「ドーナツ」。副官役、メイド長らしからぬトンチキな発言を耳にし、ユウは顔を顰めた。


「そういう冗談のつもりはなく、買ってないんですよ。いつも欠かさず買っているはずのドーナツを、その方が」


「は、てことはなんだよ? 単に飽きたってだけじゃねぇのか。姫様ってのは俺たち市民よりもっといいモノ食ってるんだろ?」


 食い物など飽きる時は飽きる。説得力としてそんなものは弱い、ユウはまだ不満げな顔を崩さない。


「いいえ、すごく美味しいドーナツでしたよ。フレーバーも七種、アレに飽きるなんてありえません。さすがジル姫様御用達、毎日でもリピートする価値ありますよ!」


「ええ、ニモアがそう言うならば、間違いないでしょう」


「お前らやっぱふざけてんだろ……」


「ホナのは?」


 ドーナツ好きのメイド、ニモアが太鼓判を押すならば間違いない。甘い匂いを微かにただよわせる空になった白い箱が、証拠として提出された。

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