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GAME21

▼ウェブル国 東円環地区 第六詰所前▼にて




 【水武祭(すいぶさい)】:まだ未開であった魔の蔓延る地、現在の勇大陸の地を切り拓いた二つの偉大な剣、ウェブル国王と太陽の勇者その双方の大大たる活躍を、様々な舞踊と鍛え上げた武術を披露しながら国民総出で夜通し祝う祭事である。


 そのために今日という特別な日は、巡回する警備をいつもより厳重にしなければならない。一年に一度行われる水武祭、その熱気につられて往来する人々同士で喧嘩が勃発することも普段より多いからだ。


「────とするとジル姫様は十七の誕生日か、気づけばご立派になられたものだ」


「あぁ。やはりジル姫様こそ、この国の後継に相応しい」


「ははは、【水武祭】でジル姫様に舞台上で直接返り打ちにされたお前が言うなら間違いない」


「ははは、何を言う。むしろ誇りだと思っている! ジル姫様は武の才能も英雄たるトリスタン父王から色濃く引き継いでおられるのだ! そしてこれがその証だ!」


「あぁ、間違いない、羨ましいかぎりだ! ははははは」


 お楽しみの水武祭が始まるまで、まだもう少し時間がある。武装した二人の男の警備兵が、詰所の前で談笑していた。


 そんな最中、今詰所の前の道を通った見慣れぬ格好の集団、その内の一人がおこした看過できぬ行動を、察知した警備兵は動いた。


「おい貴様、止まれ! ウェブルの水路に唾を吐くとは何事か! 止まれと言っておろうに!!」


 そいつが水路の溝に向かい確かに唾を吐いたのをその目に見た。


 制止の怒声を無視して通り過ぎようとした黒服の男に、一人の警備兵は見逃さずに追い、そのままつかみかかった。


「おい、今コイツつかんだな?」


 詰め寄った警備兵に胸ぐらを掴まれた黒服の男は、周りの連れにそのことを確認した。同じような黒服を纏った周りの三人は、鼻で笑うような返事をした。


「憲兵であるミラーナイツに逆らうか! 貴様のような雑魚の一兵卒が!」


「がっぁ!?? ッ……貴様らッ! なにを……!?」


 胸ぐらをつかまれた黒服の男は、腕を折り畳んだ右肘を警備兵の顔面に向かい、いきなり素速く振るった。


 右から左に出された不意打ちの肘がヒットしてしまった警備兵は思わず痛んだ鼻を抑え、後ろに下がりながらも今暴れた黒服の男を睨み返した。


「ここでは我らの剣が法だ。貴様らのような勇大陸の出涸らしに、尊きラーミラ教の教えをきっちりと叩きこんでやる。そらよっ!」


 見かねて助けに入ったもう一人の警備兵までも、右から左から飛んできた迷いのない黒袖の拳に吹き飛ばされた。


 憲兵を名乗る黒服の集団は、砂利の上に倒れたウェブルの警備兵を、飽き足らずさらに軍靴で蹴り続けた。


 警備兵の胸元からひらりと落ちた白いハンカチが、潰す靴底に踏みにじられ、赤くよごれて────。














▼セントラルパレス ドレスルーム▼にて




「まぁ姫様、とってもお似合いですわ」


「ありがとうメリッサ、ありがとうクラリネ」


 化粧台の鏡に映るその顔は完璧で美しい。彼女の備えるターコイズブルーの清らかな髪色と、ピンクダイヤモンドのように煌めく瞳が、華美なドレスと宝石飾りに化粧されさらに一層美しく引き立っている。


 メイドのメリッサもクラリネも、その仕上がりに満足している。


 いつもの姫様は式典といえど思うように着飾らせてはくれない。しかし今日はなんともお淑やかで美しく、鏡の前に座るそのお姿をずっと見入ってしまう。


 そんな静かな気品の漂う姫様に、側に仕えるメリッサとクラリネは微笑む。鏡に映るターコイズブルーの長髪と純白のベールの縁に、まるで輝かしい後光が差しているように見えた。












▼セントラルパレス 流水の間▼にて





「こちらが水武祭に登壇する予定の第参陣の名簿です。ご確認を」


 近衛頭のバリアは、かき集め整理し終えたリストを、王座に掛けるウェブル王へと提出した。


 腰掛ける王の代わりにリストを歩み受け取ったセシリア王妃は、王へとそれを見せる。


 このところ王の隣にはいつもセシリア王妃が付かず離れずにいる事が多い。バリアは怪訝な目で、王妃が王の手へと添わせた細く白い手を見つめた。


 かつて流水の美剣士と言われたその風貌は、年老いた白髪へと変わり、以前より痩せ細った体は心配になるほどだ。虚ろな目の色もすっかりと覇気を無くしたように見える。


 近衛頭のバリアはそのことに少し悲しく思ったが、これも時代の転換機。六英雄にいつまでも強き若き六英雄でいることを強いることはできない。


「ありあ……」


「はい」


 王の口元に耳を寄せたセシリア王妃は、青い絨毯の上で跪いたまま待っていた近衛頭に振り向き言った。


「第参陣も要らぬ、縮小せよ」


 王妃は突っぱねるように、開いた手を翳し言った。


 これを聞いた近衛頭のバリアは、一瞬耳を疑った。いつもは意義など唱えられたことはない。例年のように期待はせずとも、王は目を通して許可をくださるだけだった。ましてや王妃様に突っぱねられるようなことも──。


「──! しかし王妃様、水武祭は格式ばった式典だけではなく年に一度の武闘祭の役割も兼ねています。この日のために腕を磨き楽しみにしている民がいるだけではなく、王に仕える未来の六刃将(ろくばしょう)の選定にも影響を及ぼすもので」


「なら今年はかわりにもっと豪勢な食事をだしなさい。そうすれば、王も祭りに姿を見せれるほどの元気を取り戻してくださるわ。それに六刃将は今のままで良く働いてくれている十分である、その方が王も安心なさると言っている」


 道理は通っている。ウェブル国軍の力を象徴する六刃将も老いた者もいるとはいえ健在である。王のお言葉ならば、従うまで。何よりもそれで王が元気にならせられるなら──


 立ち上がり王妃に諫言していたバリアは、再び青い地に跪いた。


「は、はい……承知しました──。国中の料理人に手配をだせ。セントラルパレスの備蓄食材を使ってもいい、夜の水武祭までに間に合わせろ!」


 王と王妃に承知した礼をし、また立ち上がった近衛頭のバリアは、後ろに控えさせていた近衛兵たちに素早く指示を下した。















 今もなお自然と流れつづける川の中から、偶然にも拾い上げた〝これ〟が何を意味しているのか。不自然なメッセージ未満のものの意味を、一介の駐屯兵の男に分かるはずもない。だが、その男の頭の中には繋がらないヒントだけがぼんやりと漂い続け、不可解な疑念が晴れずに渦巻いていた。


 ヴァガナスの掌に残された、小さく白い硬質な欠片。


 川から上がり、立ち尽くしたまま下を見て動かなくなったヴァガナスのおかしな様子に、気になった旅団員が次々と集まった。


「……歯?」

「歯だな」

「歯ですね」


 誰もがそう見たままに結論づけた。潰れ丸みを帯びている形状は、人の歯のように見える。


「つまりはどういう意味だ?」

「「歯磨きぃ~で。ポロっと?」」

「誕生日かなにかの儀式?」


 一部の旅団員が、ヴァガナスの手中に置かれた歯について呑気な理由付けをしていく。


 だが、ヴァガナスはそんな誕生日の儀式や習わしなどウェブルにはないことを知っている。だがヴァガナス自身にもこの一欠片の歯がどういった意味合いを持つのか、まだ理解が及ばない。


 経緯状況の整理もままならない、川から拾い上げたばかりの小さなミステリーの元へと、吸い寄せられるように興味をひかれた野次馬が集まりだした頃──


 途中で現れたとんがり帽子の魔法師が、汗を拭いながら口を挟んだ。


「私聞いたことあるかも? たしか歯や爪、とくに歯には、その人の魔力の残滓が強く詰まっているって。拘束されたり、杖を奪われたり……何かあったときの魔法師の自前の魔力媒介、最終手段になりうるんだっておじい……じゃなくて、そう習ったよ!」


 特訓あがりで汗をかいたイエロー・シャインハットは言う。


 確かに人の歯や骨にも魔物と同様、魔力が宿り残っていることがある。大きな輪になった野次馬の集いに参列していたメイド長のクロウは、魔法師のイエローの鋭い指摘に何度か頷いてみせた。


 それがどうして、今はばらばらの紙の船に乗せられていたのか。この国の習わしでもない、子供の船遊びにしては歯など積載する必要はそもそもない。旅団員の誰かが流したイタズラならば、こっぴどく怒られるだけだ。早く申告した方が身のためだろう。


 それをミステリーと言っていいのかさえもはや分からない。これといった明確な解のない、何の意味もないことを考えているのかもしれない。


 それでも各々休憩中であった旅団員は輪をつくり、知恵を絞り、言を飛ばし合い探りつづけた。


 そんな最中、輪の中心に突っ立っていた男が乾いた唾を飲み込み、呟いた。



「この船の編み方は、ジルしか知らない」



 中心にいたヴァガナスは、皆が四方八方から注目する、掌の上に置かれた白い欠片を握りしめた。


 そして、ヴァガナスは顔を上げ、流れる川を越えた向こう側の北東の方向に目を向けた。


「──ジル?」


 今駐屯兵の男の口から発された、その親しげな呼び名に、輪の外にいた茶髪の王子がぴくりと耳を傾けた。







▼▼

▽▽







 ヴァガナスの意味深な発言をうけて、旅団員の皆は経緯と状況を整理した。ヴァガナスの言うジルとは、国王トリスタン・ウェブルの娘であるジル・ウェブル姫のことであった。


「それでどうなるっていうのよ。ジル姫様はその今日やる水武祭ってのにも出るっていうじゃない。普段も変わらずに元気に公務をしているって話なのよね?」


 クピンはもじゃついた髪を掻きながらも、もっともな疑問を口にする。


「あぁ、その話は間違いないけど……」


 ヴァガナスは答えに窮する。ジル姫様がこのところ姿を見せない、ましてや攫われた、などの良からぬ噂はウェブル国内で聞いたことはないらしい。むしろ毎日、たとえ国境の関所で寝泊まりしていても良い噂を耳にすることの方が多いのだという。


 あと、水武祭があるから外部の余所者への警備の気合いを入れていた、ウェブルの兵が関所を硬く閉ざしていた行為はそうとも取れる。しかしそんな肝っ玉の小さい国だったかウェブルは。


「問題の焦点は、なぜこのようなものが、どこからたどり流れてきたか。ジル姫様と何らかの関わりのある知り合いへと向けたメッセージだとすれば、全ては邪推の域を出ませんが──ただならぬ事態である可能性も」


 クロウが冷静に状況をさらに突き詰めてまとめだした。


 その言葉を聞いた瞬間、皆が話す輪の外にいた緑髪の剣士が、ずっと続けていた剣の素振りを止め、動いた。


「──ウェブル国の城壁の内まで調べに行こう」


 アモン・シープル。耳にした不穏な情報に突き動かされた正義感の塊のような男が、恐れも知らぬことをはっきりと呟いた。


「待て。──それはさせねぇ」


 俺は冷静なトーンで、今勇み足で話の輪に加わったその剣士の男を制した。


「はぁ! ちょっとカールっ何言って……」


「はぁ? 俺たちは南関所から入ったらしき賊、あわよくば、そのおこぼれを捕まえにきただけだ。違うか?」


 阻もうとしたクピンの言葉を制し、王子の俺は薄れていた古い情報を、今一度皆に思い出させるように言い放つ。


「それにウェブル王への手土産もなしに、みすみすその機会を見逃して、そんな偶々流れ着いたゴミ拾いの杞憂に付き合ってられるか」


「ちょっとカール!! それってほん」


「本気なのかカール?」


 暴言とも受け取られる王子の言葉にアモンの声色が低くなる。がやがやとした周りの話し声は掻き消え、一瞬で空気が張り詰めた。


「状況が固まったわけじゃねぇだろ。ソイツが取らなきゃ、ただの漂流物だ。そんな受け取り手でコロコロ変わる邪推の段階で、優先目標を変えてまで首を突っ込む価値は感じねぇ」


 そう、その駐屯兵が拾わなければただの漂流物。本気に取る方がどうかしている。罠だったらどうするというのか、聞いてもろくなアイデアは返ってこないだろう。


「イシカゲ村の時は、第九王子は動いたはずだ」


「あれはお前らにとって、ちょうどいい戦闘訓練だと思ったからだ。だが、国が相手じゃわけが違う」


 俺はアモンの目を真っ直ぐに見返して告げる。上手いゲーマーとは、挑めるちょうどいい難易度を注意深く吟味するもの。イシカゲ村の時は俺の読みがぎりぎりハマった、それだけだ。


「仮に内政に多少の問題があったとしても、俺たちはメイヂ人。ましてやその王子ともあろう奴が、証拠もなく他国の姫様の問題に手を出す案件じゃねぇ。なんの確証もないんだ、焦る必要がどこにある? そんな一本の抜け落ちた(ヒント)と、ぼろ船を浮かべた遊びに? 学者や考察者気取りか?」


 俺は念押す。妄想、連想した状況がウェブルの内政にも関わることだとして、今城壁の内にびくびくしながら観光しに行く必要はあるのかを。


「南の賊が見つからなければ、この遊びは終わりだ。ウェブルからは撤収する」


 手土産が売っていなければ立ち寄る必要はない。きな臭いこんな国からは、おさらばだ。東へもどり第四王子のブールのケツを追っかけている方がいい。


「それでも行くと言ったら」


 アモンは引かない。翠の瞳が強い意志で俺を射抜く。俺の被る化けの皮の内側までも──


「手は出すな」


 離さず睨み返した俺は短く、命令した。


 やさしきヒーローと冷徹な王ヂ、


 異様な空気の漂う中で交わされた一対一の言葉でのやり取りは、それまでだった────。

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