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GAME2

 前はさすがにアモンに任せて俺は後ろの憂いを……クピンを守るのが賢明だな。防具も売ってかたさ能力値も底、山賊の斧一発でたぶん致命傷だ。この数とこの場、下手に前に出て事故ることもあるからなー? うん、それがいい。


「カール、あんたにわたしの魔法発練まで任せるのなんかこわいんだけど!」


「はははは、そりゃ言えてるが黙って練り上げてな。一発もまともに撃ててないくせにどの口がいってんだ、口からたらたら羊飼い女」


「たったたたたらたら羊飼いオンナぁ!?? はぁ!? もうどうなっても知らない! 一発でもくらったらあんたのせいだから! 逃げないでよね!」


 そうこう後ろでごちゃごちゃと、やけに見た目がリアルになった羊飼い娘と雑談に勤しんでいると。さっそくの予想通りだ。遠方からみせた隙を突き、危ないナイフが飛んできた。


「残念だがそれはないな──ほらね? かぁーんたんっ。なんてな、ははは」


「アタシのナイフを弾いた!? 坊やだけじゃなくて坊やが!?」


 次々に飛んできた悪くない精度の投げナイフを、ひん曲がった構造をした異色の武器で慣れたようにはたきおとしながら。次に、女盗賊が殺気を放ったその瞬間に、俺はボーンブーメランを景気良く投げつけた。


「いいとこの坊やだからな、そらよっ!」


 投擲されたナイフは、その強度とその小さなスケールでは骨太なこのブーメランの勢いを止められるわけはない。敵の投げナイフの軌道を読み、鉢合わせるように合わせ無力化する。


 女山賊頭が尻をあたためて座っていた、そのしゃれた樽椅子にブーメランは突き刺さり、中身の紫果汁の酒が辺りに噴射した。


「カールそこどいてっ!! 練り上げた【アクアウルフ】──あのちくちくムカつく女を、追い立てろ!!!」


「もうどいてるっての、はは!」


 出たな、羊飼いルーツのオリジナル魔法。全身水属性の牧羊犬(狼)が、狙い定めた獲物を追いかけつづける噛みつかれるといてぇ魔法だ。


「なんだいそれは、わざわざ濡れた犬なんて呼んで、田舎臭い無駄の多い魔法だねー!!」


「うっさいわね!! おばさん!!」


「おばさん!?? おい野郎ども、今すぐだれかその口悪いガキっ娘の口を塞ぎな!!」


 魔法発練と物怖じしない発言、クピンのお返しは強烈だ。


(うざったい魔法ねぇ……寄ってたかっても止まらないタフな美剣士にあたしのナイフにもひるまない魔法師娘、そして途中現れたあのぼんぼん坊やの見透かした気味の悪い目はなんだい……どうなってんのさこのぽっと出トリオは!! ……読み違えたっていうのかい……フフ、久々にひりつく感じ興奮してきたじゃないかい!!)


 荒れた様相のアジト内で、部下たちの股をするりとぬけてきた魔法の水狼に追われつづけていた女山賊頭は、【サラマンダーの怒り】──そう書かれた注意書きの張られた樽をみつけ、いまその樽を皮のブーツの底で蹴飛ばし床に転がした。


「チッ──追われるのは趣味じゃないのよ、発破!!」


 そして火属性のナイフを投げつけ樽へと命中させ、発破させた。何かの計画に使う予定であった貴重なアイテムを惜しみなく駆使する。爆発に巻き込み、飛び付いてきた水狼ごと四散させた。


 女山賊頭がにやつきながら、ナイフを腰のホルダーから一つ、手に取ろうとしたそのとき────


「なひゃっ!??」


 すばやく地を這ってきた紫蛇が、お留守な女盗賊の足元に巻き付き、噛みついた。


 それはアジト内の床にしたたる葡萄酒をつかって練り上げられた、【スネークロープ】であった。


 水狼にターゲットを追わせている間に、発練の集中を乱す憂いの要素がなくなったクピンが、再度隙をみて練り上げたただの初級魔法である。犬と戯れるのに必死で注意散漫の山賊頭の足元には、それはよく効いた。頭からすっころぶほどに、よく効いた。


「こんのッッこむす!!! ────ナッ……ガッ…!??」


 頭を打つほどに激しくすっ転んだ姿勢から、すぐさま起き上がろうとしたオリーブ。


 だが、床に倒れるオリーブが見上げた視界──木の天井には穴だらけの青、みえる一瞬の天。そこに優雅に浮かんでいた一羽の白鳥のごとき姿が、鋭く急襲し、一気に舞い降りた。


「さて、山賊ごっこはもう終わりかな。ぽっと出、追加キャラのオリーブさん」


「この手際……なにもの……フフ……」


 賊頭を見下ろす、生意気な茶髪の王子は爽やかなスマイルを浮かべる。木床に刺さるくの字の白い首枷をはめられたオリーブは、床に這いつくばりながら冷汗を垂れ流す。


 その早すぎる決着に引き攣り微笑いながら、反抗のナイフを手離し、ゆっくりと〝お手上げ〟するしかなかった。










 抵抗の意思を削ぎつくし、賊頭の女の無力化に成功した。残りの部下を倒すまでもなく自動的に白旗が上がると思ったが。


 最後の断末魔がやんだ……。アモンは当然のようにむさくるしい男どもを全員残さず平らげていた。さすがバケモン能力値をもつ〝太陽の勇者の子孫〟といったところか。


 そして、そんなまさに今、全てが終わったタイミングで────メイヂ国から同伴していた従者のメイド兵部隊が、そのメイド長を先頭に、遅ればせながら駆けつけてきて合流を果たした。


「アモン様、クピン様、無事ですか」


「あぁクロウさん、あはは無事だよ」

「余裕でぶじだし…」

「無事だぞ、増援さんきゅー」


「カール様……?」


 見慣れた俺の顔を見つけたメイド長は、ポーカーフェイスを崩さず、しかし僅かに驚いたようだ。


「なんだ、俺の顔に何かついてるか?」


「いいえ、ただ突飛なことをされては多少……こちらも驚いてしまいます。はじめての長旅でしたので、てっきりまだ、宿のほうでお休みになられているのかと」


「突飛か? 長旅……まぁなるほどな。それより何してたんだ? おかげで3人でサクサク片付けちまったぞ。少しばかりタイミングが悪かったな。そういや、時間厳守を俺にきびしく言いつけるのは、いつからかやめてたっけ? 調子でも悪いのかクロウ」


 こいつはクロウ・フライハイト。ファンブックによると名前は自由なカラスという意味で、凄腕メイドをしながら諸国を旅していたのだとか。カール王子直属のメイド兵部隊を纏める影のリーダー的存在で、主人と認めたものをその多彩なスキルで手助けする冷静沈着な、まさにメイドの中のメイド、できる一流のメイドというヤツだろう。


 長い黒髪で、背が高く、戦闘能力も高く、魔法も使える、序盤から頼りになる便利ユニットであることは間違いねーな。


 だがどうも王子への親愛度は、微妙──みてぇだなぁ?


「いえ、山に急に濃い霧がかかり、共に山賊狩りへと赴いたはずが、アモン様クピン様と行軍していた我々は途中視界不良に陥りはぐれてしまったのです。はい、それ以外の言い訳は立ちません。もう晴れてしまったようですが天候操作の魔法石でも敵の手元にあったのでしょうか。ただの推測の域を出ませんが、同時に少数の賊どもに〝足止め〟も、されていたようです」


「ははーんなるほど……それなら一応良さげな言い訳は立ってんな。──分かった、それは仕方がないな。災難だったな、じゃ後片付けを頼めるか」


「はい。承知いたしました。──クリーナーシュリンプ、お片づけのじかんです。かかりなさい」


 〝クリーナーシュリンプ〟そう名付けられたメイド兵の中でも特別部隊の赤いメイド服たちが、この荒れた戦場の洗浄にとりかかった。まぁ、野暮だが直接的に言ったら、ぶっ倒したまたはぶっ殺した敵の装備を剥いで、使えそうなものを勝手に集めてくれる便利な部隊のことだ。





▼▼

▽▽





【話題①:カールはつよかった?】


 山賊狩りの事後処理が一段落した。血なまぐさい戦場から一転し、昼間より酒臭くかおってきた街のバーへ──。


 狭いラウンドテーブルで対面する緑髪の姉弟。注文のブラッドオレンジジュースを飲みながら、賊との戦いで疲れ渇いた喉を甘苦酸っぱく癒していく。そして、今日起こった出来事をだらだらと愚痴るように振り返り語り合っていた。


「プハァ……にしてもカールどういうつもりかしら」


「どういうって?」


「どういうって! アモン、そりゃいきなりヤル気だすのおかしいでしょ、ぐーたらのアイツが」


「そうかなぁ? だってカールだし?」


「だってカールだからでしょ! それにアイツがあんなに……ぐぅぅ……つ、つよかったなんて珍しく? あ、あの一瞬だけはね! また無駄遣いして買ったへんな武器で……イキって……」


「ん? カールはつよいよ」


「アモンの方が絶対つよいでしょー!! そんなの嫌味じゃない?」


「あはは嫌味じゃないよ。だって子どものころのカールと僕は、ぼくが49勝50は──」


「それはきいたから!! 散々きいたから!! それからカールが逃げたって話でしょ、どうせ負けそうになって!! ほっぽりだすクセあるんだからね、強いって言ってもどうせ子供の喧嘩の最初だけじゃない」


「え、だって20年後にまた勝負するやくそ」


「めちゃくちゃ先送りの子どもらしくない誤魔化しじゃない!! そっ、それに20年も、ま・さ・か、アイツといっしょにいるつもりーー??」


「あははダメかな? こうして魔物狩りにカールに連れてってもらってるし、クピンも?」


「はぁダメでしょうに……名を上げるために、仕方なくついてってるだけなんだから」


「わかってるよクピン、〝カール・ロビンゾン第九王子〟のだろ? 他の王子王女にも誘われたけど、やっぱカールと一緒の方が思う存分! ──おもしろい! だしな!」


「はぁ……だからそれが利用されてんのよぉ……。もうつかれたしらなぁーい……はぁ」



 緑髪の美男子が席を立ち、持つ剣もなく、様になるエアー素振りをしだした。酒場で酔っ払いどもから拍手をされながら、緑の神が勇ましく踊っている。


 この人目を気にせず発動する舞で、闘技場にご招待されたり、どこぞの剣聖に絡まれるイベントが後々主人公補正で起こったりするのだが……。


 見惚れるような動きをみせるそいつに絡んでいたのは、既に出来上がってきたバーに遅れてやって来た、〝俺〟だったようだ。


「よーーーーーーっ!!! アモンクピン緑の頭並べてなにしてんだー、まさか俺の今日の大活躍をッ、尾ひれ背びれをつけて美麗に語ってたんじゃねーだろうな?」


「尾ひれつけまくるのは、いつもあんたでしょカール! 美麗ってなにがよ!」


 やはり返された抉るようなツッコミ。机上にだらっと、だらしなく溶けていた姿勢のクピンは背筋をピンとし、俺を指差ししながら叫んだ。


「あ、カール? そうそう話してたんだ。子どものころのチャンバラ勝負! あーーーそうだッ、たった今さ、剣舞しながら考えてたんだけど……カールは20年後って言ってたけどさ、〝2日後〟ってどうかな! 勝負のつづき!」


「なんだよガキのころの話かよ?? あぁいい……って!! お前なんで20年が2日後になんだよアモン!!!」


 〝2日後〟耳にしれっと響いたその言葉に思わず驚いた俺は、後ろからかぶさるように肩を組んで絡んでいた緑髪の男から飛びのき離れた。


 強制イベントが発生しそうな雰囲気で、とんでもないことを、この緑の爽やか馬鹿が言い出したからだ。


「え? だってあのころから20年って言ってたから、だいたい……それぐらいだろ?」


「ふざけんなテメェ!! ごほん……20年後は今も昔も20年後だ」


「?? カールッ! それじゃあいつまで待ってもヤレないじゃないか? うーん……2日は、はやかったかな? あ、じゃあ間をとって2週間!」


「ちょっと待てや!! さすがに最低でも1年と2ヵ月は待て、馬鹿野郎!! まだまだ序盤なんだぞ、この長旅は」


「え? うーん、2ヵ月かぁ? いいね! ノッた、カール!!」


「よくねぇーーーー!! 1年を無視するな1年を!! ってその素振りをやめろーー!!!」


「まだまだ序盤なんだろ? なら俺も1年でもっとつよくなってカールに50勝!! メッ!! うおおっ、はぁあ!!!」


「しれっと2ヵ月を消すな……! ってあ、クピンいたのか?」


「いたわよッッ!!! ずっと!!!(最初によんでたじゃないの馬鹿ール!!!)」


 カール王子の髪をそよ風で揺らす。威勢のいい、その脳筋気味なアモン・シープルの掛け声に、俺は苦笑いするしかなかった。


 アモンとクピンとカール。


 やはりこのトリオの絡みは、ファンならば無視はできない。【GAME原魔勇】の世界に、そのひとりひとりが色濃く匂いをはなち、迫り来る運命にさまざまな風を吹かす────思い出深いはじまりのユニットだ。











「アモン様山賊狩りブジお疲れ様です! カール王子も!」

「28人斬りですって! さすがアモン様! か、カール王子も!」

「アモン様ぁー仕事終わりに街中のドーナツ屋によりませんかー、あ……カール王子はドーナツとか庶民的なのはお嫌いでし──」


 大人気男アモン・シープルに寄ってたかる女子たち。ウエイトレス姿をしたこいつらはさっそく見知らぬ街のバーで仮働きをしている、俺直属のメイド兵たちだ。


 語尾に義務のように「カール王子」を添えることを怠らない。そして、アモンにアタックを続ける胆力と女子力はなかなかのものだろう。


 うむ、まぁ予想はしていたが。


 例のリザードナイフで脇腹を刺されたそれ以前を、厄介な性格をした王子が普通にプレイしていたと仮定すると────。


 やはりカール王子の親愛度は、現在保有する戦力の内、約1名を除いて上がることはねぇだろうな……。


 よし、ここはひとつ。俺もお仲間の親愛度を積極的に上げておく必要があるだろうか?


「ドーナツ? え? 食う食う、食うけど、ふつうに。なんだなんだ、もしかして誘ってくれたのかぁニモア? かわいいな、はは。ちなみに【ポンポンリング】はいらねーぞ? 【ふつう】ので──じゃ俺のぶんも買っといてくれ★」


「「「え?」」」


 メイド3人、ぽっかり開いたお口を並べて、ドーナツの穴の真似でもしているのか?


 ふむふむ、珍しい反応が見られるな。カール王子視点固定バグ、これ、なかなかおもしろいな? ははは。





 アモンに屈託なく笑われ、クピンに苦い顔を向けられ、ドーナツ好きメイド兵のニモアがこの世の終わりのような得体の知れない表情をした。


 今日の敵アジトでの山賊戦のことをおさらいしながら、ぐだぐだカール王子一行が語らっていると──


「お、お兄ちゃん…!」


 椅子に座るアモン、そのはみだした安物のマントの布地を、ちょんちょんと、控え目に引っ張るちいさな手がある。


 背丈の低い少女に話しかけられたアモンは振り返る。


 少女はどうも決まりが悪そうな顔をして、ずっともじもじとしている。


 それもそのはずだ。その少女は悲嘆に暮れ泣く善良なベヌレの街の住人を演じた役者、アモンに山賊狩りを依頼した仕掛け人だからだ。


 用意周到に待ち伏せする山賊団のアジトへと誘った子役というわけだ。それが今何の用か、こんな酒臭い、子どもに似つかわしくない場に現れて一体何の用だろうか。


 アモンへと後ろ手に隠していたアイテムを、少女は震えるその手で手渡そうとしている。


「きみは、ぼくに依頼してくれた……これは?」


 ん? よく見るとそれは【妖精の粉】だ。俺も超絶お世話になった妖精の粉が紐に縛られたちいさな皮袋だ。


 俺が自力で買おうとしても床で冷えたマグロみたいになっていて買えなかった、ひじょうに思い出深い、あと100行はまつわるエピソードの語れそうな回復アイテム【妖精の粉】だ。


 そんなものをアモンお兄ちゃんにくれてやるその真意は? えとーー……たぶん渡すのはこっちだと思うぞ? こっちのお兄ちゃん? 数時間前にそれを渡してくれてたら、たぶん死ぬほど泣いて喜んでいたと思うぞ?


 冗談はさておき、────まぁ俺が今から野暮な言葉を発するまでもなく。


 緑髪のお兄ちゃんは席から立ち上がり膝をついて、今、その少女と同じ目線──。


 目を見れば分かる。野暮な言葉はいらずとも。


 少女の、今にもあふれそうな穴あきの心が。


 アモンはぎゅっと少女のちいさな手を覆うように──受け取る。アイテムだけじゃない、もっとおおくを。


 酒臭いバーのそこには、涙をこらえ、ためて、赤面する少女がいる。


「ありがとう。つかわせてもらうよ」


 まるでどこかの尊い星の国の王子のようだ。脳筋なのに、こういう天然なテクニックも持ち合わせているたぁ……。見知らぬ街の一少女すら、心の底から惚れさせてしまう──アモン・シープルはそんな(わる)い男だ。脳筋なのに、



 俺の出番は? ────もちろんない。


 両手を広げ、首をちょっこし傾けて『ハッ』とキザに笑うぐらいで、今日はよしとしておこう。




 こうしてカール王子御一行がおこなったベヌレの街の山賊狩りの成果は────①オリーブ山賊団が壊滅、②アモンと依頼主の少女のお熱い仲直り。ということで落着といったところか。


 なんか色々とこのGAME原魔勇のデータがバグっている気もするし、このあとの行き先や予定をさっそく立てていきたいところだが……。


「やぁ、めでてぇめでてぇ! そんなに甘酸っぱくてめでてぇ!のを見せつけられちゃぁ……くっさい酒が不味いよなぁああああ!! このイカした街中の〝オレンジジュース〟を〝大樽で100〟もってきやがれええええ!!!」


「はぁ???? ななな!? 馬鹿ールそんなにたのんで、いったいどうすんのーーーー!?」


「好きだろ? オレンジ?」


「好きにも限度ーーーーー!!!」


「ガキのことだが?」


「ナッ!??」



 すっかり仲良しに打ち解け笑い合う、そんな少女を肩車するかっこいい緑髪の剣士、鳴り止まない拍手を重ね盛り上がるバー店内。


 明るいカール王子なら、このバカ騒ぎにノらない手はない。──だよな?











「にほい。にほいがちかいほいーーーーここホレホイーーー!!!」


「おだちん…おだちん……おだちん!!!」


 チョコと番犬ホイは、獣道を抜けた先、山中に隠されてあった山賊の〝おだちん〟を見つけた。




▼▼

▽▽




 街の少女との和解、俺と王ヂの初戦闘、山賊狩りをひと段落終えた褒美も兼ねて。大樽で100までとはいかないが、バーでオレンジジュースを居合わせた皆に振る舞う。


 同じ味で乾杯した、時はまだ夕暮れのオレンジ。


 アモンには修行と偽り、オレンジジュースを既に9杯飲んで出来上がっていたクピンには呆れ顔をされながら、カール王子は盛り上がる賑やかな酒場をあとにした。


 俺は言いつけた極秘任務から戻って来た従者チョコに、出店で見つけ買ったAPが回復する【チョコっとドリンク】を褒美に与える。そしてさっそく補充した軍資金をかかえ、共にベヌレの街の物色をはじめた。



 ところで、さっきから従者チョコのほかに俺に纏わりつく、ちこちこした足音がふたつ。


 俺が立ち止まり振り返ると、そいつらも立ち止まり後ろを振り返った。


「あほやろうこっちだ。こっちを見ろ」


「「──みた」」


「よしみたな? じゃあ次は質問に答えろ。お前らなんで来たんだ?」


「「メイド長にいわれて、しんぺんけいご?」」


「やっぱりそうか。ならしっかり〝けいご〟しとけよ?」


「「うんわかった。そこそこ」」


「しっかりだ」


「「うっかり?」」


「おい、俺は王ヂだぞ?」


「しってる」「しってた」


「ハっ、ならそこそこけいごしとけよ?」


「「うん。こそこそ」」


 これ以上の小銭にもならない親愛度上げのやり取りは、不毛なのでやめておこう。


 こいつらは……まぁいいか?


 見ての通り見た目はちいさな双子だが、双子じゃない。何をいってるか分からねぇと思うが、こいつらの名前はギムとホナだ。


 ベージュ色の右サイドテールがギムで、左サイドテールがホナだ。右のギム、レフトのホナと覚えれば楽ちんだ。──何もかかってねぇ。


 思わぬ派遣メイドの合流だが、ちいさいと侮るなかれ、実は身辺警護には適した能力持ちだ。


 メイド長クロウ・フライハイトはもしかするとこのリメイク版でも有能か、それとも現状に苦悩しているか?


 どちらにせよこのまま予定通り、次の準備と下見にちょっくらゆっくり取り掛かるとするか。


 と、俺が立ち止まりながら考えていると──


 王ヂの纏うそこそこ威厳あるメイヂ国のマントが、そこそこのちからで左に引っ張られた。


「「焼きおにぎり」」


 【焼きおにぎり】は炎耐性が一定時間上がり、HPが小回復するアイテムだ。しかし俺は今、火を吹くモンスターと炎魔法師とサラマンダーの相手をしていないはずなので、焼きおにぎりは好きだ食べよう。


 ちょいちょいと、また──


 立ち止まっていた俺はマントの裾をちんまい手で引っ張られた。


「「食べたもん勝ち」」


 たしかに、このVRゲームの世界はバグって味がするんだ。味覚リンクシステムが搭載されているならば、結論──「食べたもん勝ち」と言える。やけに乾燥した唇をなめずる、俺の舌と味蕾がそう同意し言っている。


 俺は醤油の香りがリアルすぎる【焼きおにぎり】を3つ、双子に誘われた出店で購入した。





 食べかけの焼きおにぎりをギムかホナどっちかに預ける。俺は街にある道具屋や武器屋を片っ端から回っていった。そして今、追加の焼きおにぎりをさらに3つ買い、最初に訪れたことのある武器屋へと戻った。


 武器屋の店主は心なしか目を輝かせている。旅人で高貴な見目(初期装備されていたご自慢の金ぴかのライトアーマーはライトアーマーなのにはやさにマイナス補正値がかかるため売った)の俺が、再び自分の店に現れたからだろう。


 去り際のあの印象的なむすっとした顔が嘘のように晴れている。


 ここで何も買わずに去ったらそれはそれはおもしろいだろうが、それを世間は「冷やかし」と言うので、今回はかわいそうなのでやめておこう。


 とりあえず、ぐるっと見て周り記憶した中では、ここが一番品揃えがマシなので、ここで当面の装備を揃えてみるか。ちなみにあの不思議の星の店は、念の為に確認しに赴いたが、既に秘密のエリアから消えていた──残念。


 アレは不幸中のラッキーで、カール王子ルート専用の特別措置かもしれないしな。まぁ、増援まで綺麗さっぱり潰した山賊狩りの報酬と、山中で別行動させていた鼻のきくパッシブスキルを持つ番犬が、骨董品のねむる宝の洞穴を見つけたおかげで懐の資金がすこし潤ったことだ。


 メイド長のクロウも、俺の散財癖を見越してか、出向かせた双子に旅の資金の一部をもたせてくれていたし。メイド長からの過剰な気配りは何故か理由はしらないが、貰えるものは貰っておこう。無理に引き出そうとすれば当然親愛度は下がってしまうから、そこは注意だな。ま、刺された俺が言うのもなんだが、ハッ。


 俺はとりあえず、頭に記憶していたアモンやクピンの装備状況を鑑みて、あらたな装備を数点購入した。


 最優先はやはりアモンだ。この店に置いてある原大陸帝国産の鋼の剣は序盤にしては悪くない。今アイツが装備している普通の鉄剣よりは2段階ぐらいはマシな性能だろう。強いユニットに装備を集中し優先するのは、言わずもがなの鉄則だからな。


 さてさて、それと────


 武器屋の店主がする両手をこすりあわせるやらしい手つきを無視し、俺は斜め上をぼーっと見上げながらこの後の展望を考える。


 そうすると徐々に浮かび上がっていく。忘れていたことや、記憶と妄想にたどる思わぬルートや、最善ではなくても楽しそうな幾つかのアイディアが────


 俺は決断した。


 太った皮袋がその縛られた口を解き、「じゃらっ」と、武器屋の親父の待つカウンターの上に、ケチくさくない音を立てた。





 発注した武器は後日、別の従者が取りにうかがうと告げて、ほくほく顔の店主をかしこまらせた。


 そして、とりあえずいま受け取ったばかりのプレゼントラッピングされた【大箱】と【小箱】。


 それらをひとつずつ、また食いもんの匂いのする屋台を暇そうに覗いていた双子の従者に預けた。


「そんな重いの無理、物理的に」「イロイロ重い、愛が重い、まだはやい」


 汗水垂らして運んだクソ重い大箱はギムに持たせる、ついでに装備可能か〝ぱわー〟を測る。


 小さな箱の方は、ホナに手渡した。中身が光るドーナツだとか、マセて勘違いしてやがる。


「何勘違いしてやがる。それはお前らの装備だ、さっさとそれに装備しろ」


「ほへ?」「ほへぇ?」


 メイド見習いのギム・スライと、ホナ・スライは、お互いの顔を見合わせた。そして、すっかり安細った金袋をもちニヤつくカール王子の面を、双子のふたりは上目遣いでまた見上げた。


 ニヤけ面の王子がノールックで後ろに指を差す。遠目に映るほくほく顔の武器屋の店主が、小綺麗に掃除し開けていた試着室へと、うれしそうに手招いている。

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