GAME14
手に杖を持ち、灰色のローブを被った魔法師が近づき見えてきた祭壇上に二人。ボスと思われる存在がいつの間にか、全く同色のローブを纏う二人に分身していた。
一際目立つ形をしたジェムロッドから放たれた誘眠のマジックを、アモンは素速く感知・反応し避けた。
妖しい紫の魔光は直進していた緑髪のターゲットには当たらない。必中の距離で放たれた魔法すらも、最小限の身のこなしで躱す。緑髪の剣士はまた真っ直ぐ駆け、祭壇までの距離を詰めていく。
「おっと! あくびの魔法か! 受けずに行く!」
受けることもできる、まるでそんな風な口ぶりで意気込む。
その時だった。
石の祭壇に刻まれた幾多の鬼顔の彫刻、そのあんぐりと開いた口から、濁流が一気に吐き出された。地を這う緑髪の剣士に向けて、逃れられない激流となり、高所から流れ落ちていく。
しかしアモンはその足を止めない。激流の中に身をさらしながら、前へ前へと挑んだ。
激しく流れ続けた濁流の色がやがて毒々しく染まった。それだけではなく、冷たい気配が辺りに立ち込め、荒々しく毒々しく染まった水の流れが一気に凍りついた。
発練したのは【クロスマジック】。
激流を毒々しい効果に穢した【ヴェノム】と、その流れる様相ごと凍てつかせた【アイスム】のクロスマジック。
引き返さず激流に飛び込んだその足は凍りつき、思わぬ方法で動きを封じられた緑髪の剣士。
中級魔法を合わせた上級魔法にも匹敵する高度な魔法が、アモンを襲った。
突如背丈が伸びた一方の魔法師が、杖を二つ交差させ、組み合わせ練り上げた難解な魔法をほぼ同時に放ったのだ。
ギミックとマジックを用い、止まらぬエースユニットの動きを止めた。足元ごと凍らせ抑えている間に、もう一方の魔法師が豪華なジェムロッドを両手に構え、凍てついた緑髪の頭を狙う。
暴れる獅子といえど動きを止めてから確実に、攻撃魔法よりも眠気でパフォーマンスを削ぐ搦手を、灰ローブの魔法師は選んだ。
単騎で乗り込んできたユニットを相手に、その突破力を刈り取るための連携が取れていたのは敵の方。
企む悪知恵と挑む力のぶつかり合いは────
宙を舞った一振りの斧により、亀裂が入った。
祭壇の壇上にとどき突き刺さったのは、傭兵アオ・ニオールの大斧。
ジェムロッド持ちの魔法師が、ついさっきまで立っていたその股の間の地に、深く抉り、斧の片刃が突き刺さっていた。
予期せぬ一手に、条件反射でか、ジェムロッド持ちの魔法師が驚き後ろに倒れた。さらに捲れ上がった灰色のローブから、なんと石化したその素顔を曝け出した。
しかしアオが豪快に投擲した大斧の狙いは外れてしまった。
石化した女魔法師は尻餅をつきながらも、命令に忠実に再び握るジェムロッドをかかげようとした。
その時──、杖は弾かれた。
鋭く宙を舞い飛んだ一羽の白鳥が、光り輝く紫の宝玉を盗もうとぶつかり、白い骨となりバラバラに砕けた。
見知らぬ攻撃に鋭く啄まれ、欠けた古の宝玉は、フラッシュして爆ぜた。
掲げ威力を発揮しようとした豪華な杖は、後方へと弾かれ、石像が祭壇の上を前のめりに転げ落ちてゆく。
壇上に残されたのは、物言わぬただの白骨。
奇襲の一手に次ぐ、強引に縫い合わせたような一手に、灰ローブの魔法師は狼狽える。暗く思い描いたその狡猾なプランを、一瞬にて、バラバラに挫かれ、掻っ攫われた。
だが、それだけで狼狽えている場合ではない。
突如、空中に立ち込めるその霧、いや熱気に、灰ローブの魔法師は気付いた。
毒々しい色合いのアイスを溶かし尽くす。足元からみなぎるアモンの熱い魔力が、動きを封じた仰々しい氷の枷を全て平らげた。
「お膳立てなんて、きっと修行不足だな!」
枷はない、壁はない、阻むものはなにもない。
振り返らない──。
翠の瞳が麓から見上げる、敵の姿はただ一人。
抱えていた一体の石像をその場に置き、剣士アモン・シープルは、ボス級の首が待つ石の祭壇を駆け上った。
上から放たれる氷の矢のマジックを鋼の剣が砕く。流れる毒の海も、凍てつく厳しさも、降りかかる雹をもってしても、祭壇の階段を駆け上るその剣士の足を止めることはできない。
数々の試練・困難を、仲間たちの支援と共に乗り越えた剣士アモン・シープルはもう止まらない。
しかし、物怖じせずに突き進むそんな強大な個を止めうる術は、一つではなかった。
灰ローブの魔法師は両手にもった二本の杖を妖しく灯らせて指揮をする。ハッタリではない、それで合図を送ったのか、上る者からは覗けない祭壇の裏側に忍ばせていた二つの戦力を解き放った。
裏側に潜み、ぐるりと長い腹で這い回り現れたのは、二匹の大蛇。左右から鋭い牙の大口を広げ、階段を上る途中のアモンを襲った。
敵はまだ伏兵を忍ばせていた。アモンはすれ違い様に噛みついてきた一匹の大蛇の牙を折った。
鎌首をもたげた二匹の大蛇が、己の姿を大きく見せ、分かれた上下から剣士のことを威嚇する。
気を抜けない連戦がつづく。左右からの奇襲を躱したアモンは、焦らず、剣をじっくりと握り構える。おそらくこれがボスを守る最後の障壁、雑な剣を振るうような油断はならない。
青い蛇舌をちろちろと出す。二匹の大蛇は背と正面から緑髪の剣士の隙を窺っている。
睨み合う剣士と大蛇。祭壇の階段途中で繰り広げる静かな攻防、魔物と人間が間合いを取り合う緊迫のシチュエーションに────
下方の大蛇が突然倒れた。大量の鋭利な石が、その倒れた大蛇の背には突き刺さっていた。
アモンが相手する下階の大蛇を射抜いたのは、生かさず殺さず拘束したロックアーチャーから剥ぎ取った石の矢の支援。祭壇の足元からクロウの指揮で放たれた厚い石の矢の弾幕と魔法の斉射が、アモンを睨んでいた一匹の大蛇を背から襲い蜂の巣にした。
また味方からの良いタイミングでの支援を得た。
背に憂いはない。頼れるメイド長のクロウ・フライハイトやメイド兵たち、姉のクピン、第九王子の旅団が彼一人を手厚く支援する。
後ろの似た蛇面がその息の根を止めたと同時に、青い舌を舐めずりバネのように蛇腹が前へと一気に伸びた。噛みついた瞬間、噛みつき返されるとも知らずに、また一体の大蛇が致命的なダメージをその首に刻まれ、大きな音を立て倒れた。
〝一致団結〟皆で掲げたその言葉に偽りはない。ここにきて全ての戦力がまるで示し合わせたかのように、士気を上げ、各々に躍動していく。
剣士アモン・シープルはもう止まりようがない。上階に立ち塞がった大蛇を一体その剣技で瞬く間に屠り、最後のトドメを刺すために、祭壇の頂上を目指し急いだ。
登り着いた後ろの階段は崩れ落ち、壇上の炉の炎がさらに怒り激しく灯る。灰ローブの魔法師は杖を操り、炉で燃え盛っていた炎は走り、侵入してきた緑髪の剣士と己を囲った。
後続部隊との分断のつもりか、それともこれから手駒にでもしようと熱く出迎えたのか。
アモンが祭壇上でようやく会敵した灰色のローブはただの魔法師ではない。それは大きく変化した蛇の半身を持つ人ならざる魔物の姿であった。
地にとぐろを巻きうねる蛇足と、太く聳え立つ蛇腹。その丈に合わない被る灰色のローブから、ぎろりと覗いた黄色い眼が、やってきた供物を上から睨みつける。
定まった戦闘の合図はない。ご挨拶とばかりに両腕に携えた二本の杖から放射する炎と鋭い氷の矢の魔法が吐かれた。
しかしこれをかいくぐった剣士は、懐に潜り込み、杖持つ片腕をいとも容易く鋼の剣で斬り裂きもぎ取った。
氷の杖を握ったまま左腕が無惨に宙を舞う──。
魔法師と剣士、この両者の足音が重なる距離で戦いにおけるアドバンテージがあるのは一体どちらか。
手痛いダメージをいきなり負った蛇人の魔物は、余ったもう片方の杖の先端から魔剣を生やした。
なんと選んだのは剣。隠されたギミックが、杖にあしらわれた赤い宝石の中から鋭く飛び出した。
剣士には剣で挑む。返しの太刀がアモンを襲った。肉を切らせて骨を断つ、魔物のタフネスを活かした反撃が、懐に飛び込んだ剣士に致命のイチゲキを与えようとする。
しかしアモンは振り下ろされたこれに反応する。これまでのやり方から正面から戦うような相手ではないと想像し警戒していたが、今敵の打ってきた奇策は、奇しくも剣士アモンにとって望んでもいない展開であった。
同じ壇上、いや同じ土俵で、剣と剣が激しく幾合も絡まり打ち合った末────アモンの剣が杖の先端の飾り宝石を砕き、魔法の刃がその形を維持できずやがて霧散した。
やはり剣で勝るのは剣士。勇敢さと強靭さを併せ持つアモン・シープルの独壇場であった。
武器を失った敵に手加減はしない。アモンは頼る武器が壊れ、敵が狼狽えたその一瞬の隙を見逃さない。間髪入れず連続で攻撃を仕掛けた。
前進しながら放たれた【回転斬り】、大蛇の首を真っ二つにする膂力で放ったその渾身のイチゲキは──
鈍く硬い手応えが、横薙ぎの太刀筋を描いた剣士の手に痺れてかえる。
生物的ではない、ひどく無機質な手応えに振り切ろうとした剣が詰まる。
なんと部分石化した蛇の腹を抉った途中に、アモンの剣が挟まっていた。
蛇人の魔物が持つ本能による防御機構か、それとも罠・策略か。
まるで血が流れるように魔物の魔力がみなぎる。
やがて今砕かれ落ちた石が、抉られた箇所にひとりでに集い、破壊された傷痕が元に修復されてゆく。
鋼の剣は悲鳴を上げるように、蛇の腹の中に呑み込まれ──折れた。
剣にこだわり剣を失ったアモンの背を襲う、それもまた剣。
蛇人が右手に突き刺し埋め込んだ赤いジェムの欠片は、手の甲から突き出た致命の刃となる。
詰めの一手を石の鎧で防ぎ摘み取った、狡猾な石の魔物の魔の手が迫る。
天から打ち付けるように振り下ろされた拳と一体になった剣が、隙を見せた剣士のマントを引き裂いた。
しかしかえる手応えは、硬く。砕けない。熱した刃が通らない。肉を裂く感覚が得られない。
「アイコだ!!」
意趣返しするように、不意をついた確信の剣を阻んだのは、剣。
その背、その鞘に封じられたその剣は、砕けない。少しだけ開いた鞘と刃の間に溢れた一筋の光。
マント内に隠されていたそれで亀の甲羅のように背を守りつつ、そのまま背の上に回した右手で、アモンはその剣を鞘から一気に引き抜いた。
鈍い魔光を輝き放ち現れたその剣は、蛇人の拳刃を重く弾き、地までを穿った。
その剣は鞘から抜き出した瞬間とても重くなり、絶対に壊れない。そんなマジナイを込められた、名工ノルガ・ノームの鍛え上げた餞別の一品──【不壊の剣】。
アモンはその重鈍な剣を地から引き抜き再び構えた。振り回すかぎり武器の消耗はゼロ。みなぎる魔力と膂力で常人では扱えない武器を軽々と振り回した。
不壊の剣と石の拳が打ち合っていく。蛇人が用いた付け焼き刃の戦術も、彼がその手に握り操る不壊の剣を壊すことはできない。
ジェムは砕け、固めた石の臆病な手も砕ける。
砕けては砕けた礫を集めて再生する。繰り返す不壊の剣と不死身の体、泥試合にも似た何かに──
うねうねとうねり企んだ地を這う尻尾が、荒れた壇上に落ちていた杖を器用にも巻き取った。不意をつき放った氷の魔法が、怒りの咆哮のように視界一面を凍てつかせた。
しかし、そこには既にいない。敵を見失った蛇人が天を見上げると、空高く飛び上がった剣士がいる。
されどそれは愚策、空中に逃げ場はなく、そこから繰り出す技もその選択肢は絞られた。
対して蛇人の魔物には、ヤツを迎え撃つための時間はたっぷりある。巨大化しビルドアップした身体中に石の棘を生やした。さらに尻尾を杖ごと凍てつかせて鋭いつららのおまけまで天に向かい悪しき祈りを捧げるように供えた。死の抱擁でカウンターを図る。
背の鞘に再び重い剣を眠らせて、そこから解き放つ技は隙だらけの未完成。死を誘う魔の剣山へと落ちていくのは──
飛び上がった剣士が視界端に捉えた白い骨の魔法陣、【ビッグサンダー】の天罰が魔の剣山へと向かい下る。
銃声のように鋭く鳴り響いた轟雷が、連ねた剣山を破壊する。悪しき蛇を焼き焦がす青雷が、〝一致団結〟トドメを打てと叫んでいる。
「【回ァァ転斬り】!!!」
天から怒り下った青いイチゲキ、宙を捻り風を唸らせ放たれた赤いイチゲキ。
敵を斬り裂き遅れて咲いた、赤い稲妻が黄色い三つ目の化物の首を裂いた。
青と赤、発練した二発の魔法の音が鳴り止む────。
地に舞い降りた剣士アモン・シープルは、ゆっくりと振り返る。
石の魔物のボスを討ったその剣を、祭壇の上に今、勇ましく掲げた。
もし【GAME原魔勇】を楽しんでいただけましたら、ブックマーク登録と評価の方などぜひぜひよろしくお願いします。
登録していただけると今後もつづける活動の励みになります。




