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GAME11

 魔物の小隊を蹴散らしたあと、翼の生えた空飛ぶ目ん玉が慌てて、洞窟の左の分かれ道をもどり逃げていく。


「あたったら焼きおにぎり、ホナ」

「あたったら焼きおにぎり、おぅっ──?」


 せっかくエンカウントしたソイツを倒すなんてとんでもない。俺は双子のホナに魔銃でその逃げていく敵を撃たないように、ホナに俺の右手で目隠しをしながら言った。


「無駄弾はやめとけ。追うぞ、クロウやれ」


「了解しました。【アトール】」


 つつけて俺はクロウに一言、命令を下す。


 【アトール】はAPを持続消費しながら周辺の足跡を追うことができるようになる特殊な魔法だ。メイド長のクロウの場合はその魔法の練度が高く、有翼の魔物の通った軌跡までもを見ることができる。こんな感じの旅や戦闘に使える便利魔法をクロウは数多く覚える、さすが優れたメイドといったところか旅慣れしているようだ。リメイク版で追加されたものもあるだろうか。


 俺たちはクロウに隊を先導してもらい、今撤退した空飛ぶ目ん玉の後を追っていくことにした。







話題ex《あの剣のおもいで?》


「あのぉー、ちょっと王子さん。【あの剣】のことなんだけど」


「あぁ、どうした?」


 あえて逃がした目ん玉の魔物を追跡していく道中、後ろから隣に寄ってきた鍛冶師のノゾミィ・ノームに俺は声をかけられた。【あの剣】とは、ライトニングビートルの角を素材にした未完成の魔剣、それとはべつに、ノルガ・ノームの爺さんから餞別にもらった一振りの古びたあの剣のことだろう。


「やっぱりアテにするのはやめた方がいいんじゃ……お爺ちゃんは誰も扱えないって言ってたし。わたしも子供のころ【アレ】をどうしても気になって、それでうっかり鞘から抜いちゃって……あの時はすごく怒られて、今でも憶えてるぐらい。それ以来ずっと倉庫の奥に眠ることになっちゃって」


 アテにするのはやめろ、そう忠告してくれたのは俺が【アレ】を消耗する武器の勘定に入れていると思ったからだろう。ここまでの旅団の戦いぶりを勉強熱心にも、鍛冶師の視点からちゃんと観察していたらしい。


 それとその忠告の言葉に説得力を持たせるためか、思わぬおもしろい過去のエピソードを今彼女の口から語ってくれた。


「あ、もしかしてあの家の床にあった底まで抜けた変な傷か? ははは、さすが鍛冶屋の娘、おもしろい子供の成長記録のつけ方だな」


「そっ、そうだけど! とにかくお爺ちゃんも、その……またっ仕返しだとか思って預けたんだと」


「なるほどな? でも俺が思うに、仕返しってより〝お返し〟じゃねぇかな」


「お返し……?」


「勇者も王ヂもそこらの剣士も、かかえる旅の悩みは同じってことだ」


「勇者も……? え、それって──!」


 気になり性のノゾミィの声を、手を唇に翳し遮る。あの剣を鞘から抜くのはまだ早い。そして、できれば最後まで眠らせたまま使わない方がいい。鍔と鞘の間に重く鍵をかけておくべきだ。


 雑談にかまけている余裕はそれほどない。緩んだ緊張感を再び高めながら、俺たちは暗がりの洞窟の分かれ道を慎重に選び取る。また一歩一歩、未知のナニかが潜む最奥を目指し進んでいった。









 「虎穴に入らずんば虎子を得ず」覚えていて損はない、部下たちの士気を上げるための便利な言葉がある。


 だが、発破をかけあい威勢よく飛び込んだその先──その虎の棲む穴に足を踏み入れたが最後、何も得ず、さらに五体満足では帰って来れない、そんな虎子や宝も手にできず〝大失敗〟した奴らも中にはいたのだろう。


 カール王子が唐突に言い放った「一致団結!」を、スローガンに掲げた俺たち第九王子の旅団もまた、その気概は似ている。


 ほそいほそい分かれ道を選び突き進む度に、緊張感は高まっていく。きっとこの先に待ち受ける最後の戦闘の予感に消耗した各々の心は再び昂る。メラメラと昂りつづけるその闘争心はこの道を抜けた先で発揮する、まさにそのための大きなパワーとなるだろう。


 そして魔の潜む穴の最奥へと、今ようやく第九王子の旅団はたどりつき────



「ちょっとカールこれって……罠だったんじゃないの……?」


 目の前に広がったのは、正解のルートか誘い込まれた罠か。戸惑い隣を振り向いたクピン・シープルには分からない、そして彼女にそう問われた王子すら一瞬息を呑み、いつものように余裕ぶり答えるのをやめた。


 列を成して狭い道を進んでいた旅団員たちが、一転開けたエリアへと今足を踏み入れ、ぞろぞろと横へ広がっていく。


「フッフ──お宝の匂いがするねぇ、とてつもなくこげ臭いニオイがぷんぷん」


 元山賊頭のオリーブにも、ここが異常であることが分かる。お宝のニオイが濃くなるほどに危険は伴うもの、一瞬だけ笑ったオリーブは、ローブの内に隠したそのナイフの数をかぞえだした。


「んだよこれ……魔物の群れってより」


「石の軍勢──」


 ユウの目に映るそれは、魔物の群れというより、石化した魔物の博物館。


 いや、石の軍勢。傭兵アオ・ニオールには、ずらりと整列するそれら石色の姿、景色がそう見えてならなかった。


 天然の博物館でもない、石の軍勢と呼べるほどの数が潜むともなればここはどこかの古墳の中か。さながら王を祭るために並ぶそんな石像たちだ。動かぬが、その整然とした配置に軍勢と見紛うのも無理はない。


「「あ、焼きおにぎりが、あっち」」


 双子はそろって指を差す、空を遠ざかっていくのは焼きおにぎりじゃない。翼の生えた目ん玉の魔物が、石の軍勢を追い越し、奥の小高くなった祭壇の上をぱたぱたと忙しく小さな翼を泳がせ上がっていった。


 長い物には巻かれろ、魔物の世界も同じか。奥にいる怪しげなシルエットと目ん玉の魔物は通じ合い、やり取りをしている。ご主人様としもべの関係、統率系統がそこそこしっかりしているようだ。


 こそこそと何を上へと報告したのだろうか、決して穏やかな雰囲気ではない。


 遠目に映る怪しげなシルエットが、蛇のように体を這わせて動き出す。そして装備した杖から放たれた紫の光に、祭壇後方の大きな炉に火が灯る。


 業火が勢いを増したちのぼり、地が揺れた。


 祭壇を眺め整列していた物言わぬ石の軍勢が、────動き出した。


 次々と、たちまちに、生命を与えられたように、石埃を上げながら石色の魔物たちが目を覚ます。


 さらに同時に──後方から大きな衝撃音が一瞬響いた。振り返ると洞窟の岩肌の色が同化していた。俺たちが進んできたはずの、そこに空いていた穴がない。つまり、ものの見事に退路が塞がれた。俺の目に映るかぎりは、完全にそう見える。


 怪しげなシルエットは、杖を威勢よく前に突き出し、軍配団扇がわりに指揮をする。


「いそぎ隊列を整え、迎撃準備!」


 クロウもすかさず指揮をとる。隊列が乱れていた皆の気を引き締めさせた。


「迎撃……いや、行けっ! ボス格は祭壇の上だアモン、退路はねぇ、こうなった責任をとってきやがれ!」


「あぁカール! ……任せた!」


 迎撃? いやちがう。想定の数を上回るこの石の軍勢を相手に、「待つだけ損をする」、そう感じとった俺は冷静に判断を下した。


 王子の俺はアモンに即座に祭壇の上遠くに待ち構える、杖を振りかざすあの半人の魔物の首をとってくるように命じた。


 カール王子の命を受けたアモン・シープルは、気の利いた一言だけを俺にのこし、鋼の剣を構え奥の祭壇を目指し駆け出した。


 「一致団結」とは、最初から最後までのことを言う。副官のクロウがユニットの陣形を細かくととのえる。


 石の足音がきこえる──、増えていく──。


 俺は湿った額を拭い、懐に仕舞っていたタロットカードの数をおもむろにかぞえだした。


 もう後戻りはできない。いや、する気はない。


 不意に押し寄せてきたセーブいらずの久々の緊張感。壮観なまでの石の軍勢に対抗する試算・勝算を、今、頭の中で未完のままで終えた。


 俺は、ボーンブーメを構え、前へと走り出した。









 知将たちが綿密に練り上げた作戦(プラン)も、いざ目の当たりにした多勢を前に、偉そうに肘をついていたそのちゃぶ台を返し、破棄しなければならないそんな時もある。


 敵の戦力を生で目の当たりにして初めて分かることもある。後方で団子になり戦っていた俺たちは、すぐさま部隊を三つに分けた。


 旅団員の半数以上を占める戦力、ギムホナチョコ連携の取れたいつもの三人組を主軸に、メイド兵と元山賊部隊をぶ厚い壁になるように添える。それにクピンも同じ後方に置いていき、サブの魔法アタッカーとして寄る敵の駆除役として機能させる。この部隊の主な役割はメイド見習いで魔法師のチョコの【ビッグサンダー】を練り上げつづけさせること。その派手でこけおどしな上級魔法で敵の目を引ければそれでいい、充分──。


 そして俺は後方の部隊から比較的に足の速い数名の護衛を王子権限を行使し連れて動き、単騎で動くもう一つの部隊、エースユニットのアモン・シープルの突入を支援することにした。


 つまり、単騎突入したアモンにいま寄ってたかった奴らをその後ろ背から叩く、そのための遊撃部隊の結成だ。いくらエースユニットとはいえ、ただ単騎での特攻を任せたならばそれは愚将、いやひどいヤツ。多少の危険と不意を打つ安全性を兼ねたこの動きはマストだ。アモンの果敢につくった状況をおいしく利用しない手はない。


 単騎突入で素速く石色の波を掻き分けて行ったアモンの出だしは、まさに電光石火。しかし、次第その戦場を前に駆ける勢いは減衰した。祭壇を目指す緑髪の剣士の進路を立ち阻むように現れた巨大な岩石兵を相手に、アモンはなかなか抜けずにもたついていた。


 そしてさらに、後ろから追い抜かされた小鼠の魔物の小隊がその剣士の背に追い迫った。


 後方の鋭い殺気にアモンが振り返る。だが背のマントを風で撫でたその殺気は──


「風の魔法? いやカールの──!」


 それは天然のマジックではない。どちらかといえば手品。手品に欠かせない小道具のタロットカードを消費し、俺は属性付きのブーメでアモンの背に群がる雑魚を一掃した。


 風属性を纏ったブーメがその物魔混合の威力を発揮し、ラットたちの着込んだ石の鎧を抉り砕いた。


 ステータスを僅かばかり上げるだけではない。所持するアイテム欄からタロットカードを使い、消費したそれが属性の意を持つ絵柄のタロットならば、後の攻撃行動に一度だけ属性を付与することができる。


 SRPG時代に既にあった実用的な小技だ。街でタロットカードを集めていたのは、しょっぱい王ヂのステータス値を独占して上げるためじゃない、こういうハードな状況を想定した〝切札〟を集めていたというわけだ。


「立ち止まんな、いけっ。こんなもん使えてあと数枚だ」


「行ってくださいアモン様」


「カール、クロウ……あぁ!」


 王ヂが倒し損ねた石のラットを、クロウと指揮したメイド兵たちがトドメを刺し駆除した。


 最強のエース格ユニットの単騎突撃。相手が誰であれ、ゲームであれ、それが最強の戦略だ。


 振り返っている暇はない。今もなお続々と目を覚ます石の軍勢、際限なき増援のギミックには、スピード勝負を仕掛けるのが有効だ。


 俺は緑髪の剣士の肩を叩かない、その背のマントを僅かなそよ風で撫でた。


 剣士アモン・シープルは一度だけ遊撃部隊の俺たちに頷き、もう振り返らない。その剣で阻む巨大な岩石兵の首を一太刀で落とした。


 格の違いを見せつけたアモンは、再びその勢いを取り戻す。そしてカール王子が鋭く指を差す、ボス級の首が待つ祭壇を目指し駆け出した。

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