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GAME10

「お待たせいたしましたカール王子、言われていた〝羊の数〟の検査のほうは私の【癒眠風(レスト)】の魔法を用い、先ほど旅団員ほぼ全員分数え終わりました。勝手ながら編成もそのように抵抗値を補完するよう組んでみました。これが最新のリストと陣形案です。不備がないかご確認を」


「あぁ。サンキュー確認しておく」


 カール王子がこの村をぶらり物色し遊びくれている間、メイド長のクロウが王子の頼み事をなる早でこなし、その【羊の数順リスト】と【戦闘時の陣形案】を届けてくれた。


 メイド長のクロウは最終チェックをすべく、またどこかへとそそくさと歩き去っていった。


「働き者のメイド兵たちと、まりょくの高い者は、他より少し高めに出たか。アモン・シープルとアオ・二オールは、──当然測るまでもなく」


 俺は羊の数がそれぞれに書かれた急造のリストを眺め、合わせて送られてきた陣形案と照らし合わせた。


 そしてペンを執り、既に書かれた黒い字と俯瞰図の上に、赤い矢印と囲いを書き加えた。





「それと、あとはこいつだ。っ──何かあったらたのんだぜぇ?」


 手に持った水色のアヒルの目覚まし時計、その愛くるしい白い嘴に唇を当てて、馬車の荷台の奥の方へと放り投げる。


 必要なアイテム物資、忘れ物の方はない。


 荷台の後ろにいた俺がその場を去ろうとしたところ、左方の視界に。馬を引き連れたまま立ち止まった緑のくせっ毛を発見した。


「…………」


 ジトっとした視線がつきささる。俺は不安げな疑いの視線を向けつづけるクピン・シープルに、静かにウインクを返し応えた。







 メイド長が着々と準備に勤しむ中、第九王子の巡回する最終チェックの項目も残すところは────



 よく育った一本木の下、小高くなった芝生の上、お気に入りらしき木の棒が二本、木陰に佇むようささってあった。


 ここは子供たちの遊び場だ。今、俺が木陰のうちで手に取った木の棒の長さは、俺の手のひらにも少し馴染む──子供にとっては少し背伸びした長さだ。おそらく、ここで剣術を毎日だれかと競い、打ち合い、磨いていたんだろう。より強くより強くなるために、この棒切れの長さも……。


 妄想に耽る王子は、手に取っていた一本の棒切れを元のばしょにそっと突き刺し戻した。そして今、激しい舞を静かに終えた緑髪の剣士に声をかけた。


「さぁ、お望みの魔物狩りだ。準備はいいか」


「あぁっ。カールは」


 そこに残っていた小さな足跡は今はない。荒れてすっかり魔力灼けした芝生の上で、アモン・シープルは木陰から出てきたカール・ロビンゾン王子に振り返り、真剣な眼差しでそう答えた。


「お前がいいなら、な。ハッ」


 俺の準備はこれが本当の最後。俺が今更かんがえをしぶっても、コイツは一人でもヤル勢いだ。


 帯剣していた鋼の剣はなおも剥き出しのまま、腰元の鞘にはなかなか戻らない。


 カール王子は剣舞とイメージを終えた従者のアモンに、最後の支度をするように、うながした。










 カール・ロビンゾン第九王子の旅団は、イシカゲ村を馬車で発ち、未知の石の魔物の棲むらしき《北西の洞窟》へと向かった。


 やがて岩肌に隠された洞窟の入り口前へと辿り着いた。馬車と馬を待機組に預けて、それぞれ入念に装備と手持ちの補助アイテムを整えた作戦部隊が、暗い口を開けて待つ洞窟の中へと進入していった。





「「王子ぃ〜、なんか光ってるぅ〜」」


「あぁー、これはたしか」


「ヒカリゴケ、魔力を持つモノに反応して照明がわりになるものですね。この人数だと反応がより強くなっているのでしょうか」


 双子姉妹ギムとホナの指差す光景を、メイド長のクロウが王子にかわり説明する。


 岩壁に張り付いたヒカリゴケが洞窟内の道を明るく照らしている。ランタンの明かりがなくても視認性に問題はないようだ。一つ戦いやすくなる要素を見つけたものの、当然油断はならない。


「ユウ、油断するな。お前がいくら威張っても、ガキの眠り耐性は低いんだからな」


「うるせぇな、チッ、分かってる。おい王子、それよりこの邪魔な【切り札】の出番はいつだ?」


 王子ののたまう冗談めかした忠告に、ユウは舌打ちしながらも頷いた。


 そしてユウが言及したのは、ユウのバッグに詰め込んだ【切り札】と名付けられた荷に嵩張るアイテムのことだった。


 ユウが邪魔くさそうにバッグから取り出した水色のアヒルを、王子の手元に預け返す。


「さぁな。今は温めておけ」


 ユウから押し付け気味で返されたアヒルの目覚まし時計を、まだ時期尚早、俺はバッグの中に潜めておくよう命令した。


「「王子ぃーが、アヒルを温めてるぅ」」


 男同士の秘密のやり取りを覗き見が趣味の双子に見られた。俺は双子を邪険に追い払い、元の隊列に戻るように、一旅団を率いる王子らしく促した。



 王子が作戦を細々と微調整していく一方で、ずらり並び進む隊列の中衛で、ため息を絶えず漏らす者がいた。


「はぁ……ほんといよいよ心配になってきたんだけど……馬鹿ール」


「なになにもじゃ子怖がっちゃって? ふっふーん、今回は前みたいに足を引っ張らせないわよこのイヨポンに」


「ポンポンうっさい! あっちいけ!」


「かーー、なにこの程度で怒っちゃって? まぁ見てなさいなこのイヨポ」


「そこっ、隊列はなるべく不用意に乱さないでください」


「「はっ、はーい!」」


 魔法師クピンとその護衛役を任された戦士イヨポンが、まとめてセットで隊の副官役をするクロウに注意されてしまった。


 クピンとイヨポンはまだ小声でいがみ合い、怒られた責任の所在をなすりつけあっている。


 カール王子である俺は、前方から勝手に下がってきた秘密の里の傭兵アオ・ニオールに話しかけられた。愛用していた大剣を失いながらも、急場の壁役として、俺はその体格に見合った大斧を一振り彼女に持たせていたのだが──


「王子ダイク、私はどうすればいい?」


 どうやら、まだアオは今回の作戦と斧の使い方の要領を得ないらしい。


「前で適当にやってくれればいい」


「本当に適当でいいのか? それと斧は剣と同じように振るうべきか?」


「あぁ。もう聞き返すな。これが適当な作戦指示だ、それと斧の使い方なら……ハッ、薪割りのときと同じだ」


「薪割り……わかった、王子ダイク」


 さっきの適当な指示で要領を得たのか、傭兵アオ・ニオールが前衛の配置へと戻っていく。




 俺たち王子ダイク……ではなくカール第九王子の旅団は、あまり隊列と警戒を崩さずに、洞窟に用意された真っ直ぐな一本道を前へ前へとそのまま進み続けた。


 ヒカリゴケの光る幻想的な通路をなおもくぐってゆく────。


「そういえば? もじゃ子も手ぶらなんて舐めずに、盾の一つぐらいもちなさいよ。それ、危なっかしいんだから?」


「うっさいし、ほっといて。わたしはこれがいいの。そういうの、魔法の発練の邪魔になる感じがするし」


「ふ〜ん。まぁ、そこは人それぞれよね。私もこのバグナウが──ていやっ! うんッ、メンテいいかんじ! にしし」


 クピンにまだ絡んで話しかけていたイヨポンは、右に装備したバグナウを構え、突然────苔の生えた側壁を殴りつけた。


 自分の実力を疑う護衛対象のクピンに向けたデモンストレーションのつもりだったのだろうか。緑に光る苔が殴りつけたそこだけごっそり、砕かれた岩肌を剥き出しにしている。


 砕いた威力の痕を見てイヨポンは満足げな顔になる。さらに後列にいた赤髪、鍛冶師ノゾミィの面を見つけ、『ありがとう』の意のウインクを飛ばした。整備してくれたバグナウの手触りが余程良好だったのだろう。


「って!? いいかんじじゃ……ナイでしょ!!」


「ふぅ〜、ま、こんなもんよねって、はぁ!? なによっ、もじゃ子のくへぶッッ──!??」


 クピンはいそぎ練り上げた水縄の魔法で、くだらない反論を呑気に仕掛けてきていたイヨポンの足首を引っ張る。


 すっ転び、かつ水縄に巻きつかれた足が強引に地を引きずられていく。こけながらもトレードマークの帽子を手で抑えたイヨポン、その地を滑る頭上後ろに、突然──イヨポンの心臓まで打ちつけるような大きな重い音が響いた。


「「壁じが、うごいたぁ〜!」」


「ソイツは冗談と壁じゃねぇ。ずっしり重い敵襲だ!! 壁役は引きつけろ、魔法で迎え撃て!!」


 地を打ちつけ揺らした音の後に、すぐさまカール王子が大声で指示を飛ばす。


 壁が動いたわけじゃない。めり込む壁沿いからぞろぞろと動き出したのは、厄介で硬い敵意の塊だ。


 青と緑の光量が増す。洞窟内を黙り照らし彩っていた、壁の模様がひとりでに変容し動き出す。


 ヒカリゴケを生やした物言わぬ岩の魔物の兵隊が、次々と立ち上がり、息を潜めることをやめた。


 その重鈍な岩石の身で側面から大胆にも、洞窟内を進む第九王子の旅団を奇襲した────。







 光る苔の衣を纏った肢体を模した岩石の兵士が、動き出す。


 まるで壁が左右から迫るように、ぞろぞろと圧をかけながら、洞窟の通路に列を成す第九王子の旅団に押し寄せてくる。



 暗がりの洞窟に青や緑に妖しく光る軌跡は、危険信号。ヒカリゴケに覆われた重い拳を振り上げて、近場のターゲットに向けて一気に打ち下ろす。奇襲を仕掛けてきた岩石兵たちの危ない攻撃音が、あちこちの地を揺らした。


 果敢に前に躍り出て一体の岩石兵を受け持ったクロウは、かろやかなステップで舞いながら丁寧に硬い拳を躱し、壁役をこなす。


 敵の拳が地に突き刺さり空を切る。上手く躱したクロウはなぜか途中、自分の口をハンカチで塞いだ。


 前でひらりと避けつづけるだけでは敵は倒せない、だがクロウは既に十分に時間を作ることに成功している。


 一体の岩石兵を引きつけ誘い出したところで──


「ニモア、ホック、ナンナ──今です【一斉発練】」


「「「はいメイド長」」」


 メイド長の命令でニモア、ホック、ナンナ、メイド兵三人がそれぞれの魔法を一斉に発練して放つ。


「焼きたて【マジックリング】──ホック!」


「ご注文【パワーオーダー】──ナンナ!」


「サービスよ【ダブルトレイ】──ヤッ!!」


 ナンナがドーナツ状の魔法の輪を熱をあげる杖先から生成し、魔本のページを破ったホックが威力を増加させるバフをトッピングする。そして焼きたてのオーダーの品は、魔法陣を刻まれた鉄の盾の上に乗せられ、ナンナのAP技で数を二倍に増やし投げ放たれた。


 二発に増えたリング状のエネルギー弾が、岩石兵の腹を目掛けて炸裂する。


 だが、焼けこげた岩石兵の足は止まらない。ひび割れた臍をボディに刻み、白煙を上げながら三人組のメイド兵を目掛けて突進を仕掛けた。


 一斉発練の魔法攻撃でも倒し切れなくて驚いたメイド兵たち。その飾られたみっつの真っ白なブリムの上を、後ろから何者かが勢いよく飛び越えた────。


「これがっ、イヨっ、ポぉぉン!!」


 なんとたじろぐニモア、ホック、ナンナの頭上を飛び越え現れたのは、オレンジ帽の勇敢な戦士。


跳躍しながら、打ち抜いた右のストレートは、岩石の頭を穿ち、爪を立てた鋼鉄のバグナウがみっつの穴をそこに開けた。


 風穴の空いた岩の頭は、光る苔の輝きを失い、明滅しながら機能を停止した。


 膝から崩れ落ちたのは岩と苔の巨体、膝を着き華麗に着地したのは自称オレンジアイドル系戦士の彼女。


 ふわり舞い落ちたトレードマークの帽子を拾いあげる。勝利のピースにはまだ早い、彼女はバグナウの爪を天へと突き上げ叫んだ。


 一番乗りのお手柄は、この目立つ・働く・飛び跳ねるオレンジ帽。


 女戦士イヨポンが岩石兵の魔物を倒した。






 隊の壁役が一体ずつ冷静に相手取れば、あとは流れで動けばいい。攻撃能力の高いユニットが後ろから支援をするのが定石だが。


 王子にまりょくはほとんどない。この手のかたい敵によく通る魔法攻撃もできないとなると、その岩の巨体に露出する一番弱いところを探すしかない。


 傭兵のアオ・ニオールが前線で大斧を振り回して壁役として対応に当たる。食い止めた一体の左腕を今その斧で砕き壊したものの、相手は痛むリアクションも見せない岩石兵、それだけでは止まらない。岩石兵が繰り出したカウンターの右腕がアオを襲い迫る。彼女も多少のダメージを覚悟でモーションの重いその大斧を叩きつけることを選んだのだろう。


 岩肌を覆い飾る苔の性質は魔力に反応し色濃く発光する。それに──


 魔力の流れや脆弱な部分を観察し看破する時間などない。さすれば、幾度もVRゴーグル越しにシミュレートしてきたその己の経験と勘を頼りに、ただ唯一の攻撃手段を投げ放つのみ。


 俺の投げたブーメはブーメラン運動で弧を描き戻りながら、アオが肉薄し相手にしたいた一体の後頭部にぶち当たった。カール王子のきように制御された攻撃が、岩石兵のクリティカルポイントを裏から叩いた。やはり頭部そして裏側は弱いのは定石、いや常識。イヨポンでも分かる当たり前のことだ。


 その魔物に剥き出しの目がついていなくとも表裏はある。王子が投げ放った思わぬ死角からの一撃に、かたさの高い岩石兵がスタンした。まるで強烈な目眩を起こした脆弱な人間のような反応をみせる。発光パターンを明滅し乱した苔の色に、動揺すら見て取れる。


 そしてCTPにぶち当てたAP技【パワーブーメ】ですら砕けぬその頭頂に、


「あぁ、これ──薪割りッ」


 妖しく揺れる青い髪、するどく灯る赤い瞳がその劣らぬ巨軀で倒れた魔物を見下した。


 そして今まさに天に振りかぶった大斧が、真っ直ぐに下され、膝をついた岩石兵の頭を叩き割った。


 適当の作戦指示のもと動いたアオ・ニオールを支援したのは、カール・ロビンゾン第九王子。最後のとどめは、奇しくもアドバイス通りの薪割りの要領とモーションで、アオ・ニオールが岩石兵の頭をその自慢の男に劣らぬ膂力で粉砕した。


「前菜から伏兵(これ)かよ。ハッ──面白ぇ」


 敵を一体倒したアオは、無造作に地に落ちていた王子の武器を拾い上げ、空いていた片手で投げ返した。


 ナイスパスで手元におさめたボーンブーメの礼はまだ言わない。盛りだくさんの前菜だ、油断のならない戦闘はなおもつづいている。クロウとともに隊に指示出しをしながら、俺はまた、遠方から白いブーメを力強く投げ放った────。










 水の犬が石の頭を咥えたり転がしたり、星鼠といっしょに遊んでいる。クピンの魔法は岩石兵に対しても頼りになるだろう。


 アモンにはあまり無駄にたたかうなと遠回しに言っておいたが、敵を前に我慢ができるわけはない。鋼の剣で既に二体の岩石兵の首をおとしていた。


 俺たち第九王子の旅団は、計8体の岩石兵たちの奇襲を冷静に返り打ちにすることに成功した。


「ダイクの仲間は、とてもすごいな」


「あぁ、それなりにな。はは」


 近づいてきた傭兵アオ・ニオールにかけられた言葉に、俺はクールに微笑い返事をした。自操作するカール王子の肉眼(してん)からでも、嫉妬心を抱いてしまうほどだ。皆、俺の想像以上にそれぞれよく動きよく働いてくれている。


「ダイクも、すごいのか?」


「あぁ? 俺ぇ? 俺様は……それなりにな。ハッ」


 アオに不意に問われてしまった王子ダイクの実力のほどは、俺自身、まだまだ測り知ることはできない。再び、俺はキザに答えた。


「ダイヨンと、似ている?」


「あぁ。そう……っておい!」


 どうやら王子ダイクの発した台詞とかもしだしたその印象が、ナンパ師で今は石像の王子ダイヨンとどこか彼女の中で重なったらしい。


 それは冗談ではない、だが今はそんな些事にかまけつづけるよりも──




 双子の指先にいらずらにつつかれているのは、ぐっすりと眠る美女。いや、女戦士。トレードマークのオレンジ帽は、今さっき、はしゃぐ水の犬の魔法生物がうれしそうに咥えていった。


 大胆にも地に寝そべるその女戦士は、双子のちょっかいにうなされながら、やっと気持ちよさそうに閉じていた両の瞼を開いた。


 彼女が開いた視界の先には、鏡合わせのように手を振る双子と、高く見下ろす王子の姿が──。


「おっはよー」


「「おっはよー」」


 王子のあいさつの真似をする双子。お目覚めの寝顔を覗かれていた女戦士は、まだ自分の置かれ囲まれたこの状況を飲み込めてないようだ。


「おっ、おっは……ょー?? ──ありゃわたしなんでぇ? ってぱっぱっ!? ぷっ……なにすんのよ! ふりかけんなお姉さんの顔に! なにこれ化粧品!? ってんなわけ!」


 目覚めの面に降り注ぐ謎の粉に気づいたようだ。もちろん役に立たない化粧品などではない。


「イヨポンさんの朝食は、はい、【石のトースト】と【石のおにぎり】どっちがいい?」


「えーっとじゃあ石の……って全部トーストじゃない! ちがった、全部石じゃないの!」


「まだ寝ぼけてますねぇこれ」


「「まだ寝ぼすけですねぇこれ」」


 双子のギムが持っているのは石の長方形、ホナが持っているのは石の三角形。戦闘後に散乱していたそこらで拾ったものだ。お目覚めの戦士イヨポンはまだ若干寝ぼけているようだ。


「ええってなんでなんで!? たしか岩石兵を颯爽と、おりゃぁぁポンっと倒してから……ありゃ?」


「【ネムリゴケ】岩石兵に付着していた苔の中に誘眠効果のあるそれが多分に紛れていました」


「──ってこった」


 なんでなんでと問われたら、クロウがその理由(わけ)を説明してくれた。


「え、ええええ!! じゃあじゃあそれってたぶんっ」


「【妖精の粉】お早い消耗なこって」


「ええー……! あのぉー王子様ぁ……じゃあ私の活躍ぽいんとは……?」


「そりゃプラマイは、──はは?」


 天からふりかけた【妖精の粉】が効いてきたのか、冴えてきた頭で試算しはじめた上目遣いのイヨポンに、俺は両手をさっぱりと広げ、意味深な笑みを見せた。


「いえ、あのまま通り過ぎ、後で岩石兵に退路を塞がれるよりも結果的には良かったものかと。それに最後の飛び込みの一押しはなかなか見事でした──もっとも、壁を殴るなどの敵を呼び起こす勝手なアクションは以後慎むべきですが」


「だな。ははっ」


「「だなはっはー」」


「そ、そんな……ってありがとうござい?はいぃ……反省……」


 不用意にも洞窟の壁を叩き、勇敢にも岩石兵の頭上に飛び込みラストアタックを飾ったものの、岩石兵に付着していたネムリゴケの成分に不注意にも眠らされてしまった。


 先ほどの戦闘で戦士イヨポンの稼いだ活躍ポイントは果たしていくらか。それは王子の俺の思うところと裁量しだいだろう。









「魔法での攻撃指示、カール王子は気付かれていましたか?」


「いや、そういう訳でもねぇよ。深読みしすぎだ」


 戦闘終了後、旅団員たちが一時の落ち着きを取り戻したところ。メイド長のクロウが俺を尋ねてきたが、そいつは買い被りといったところだろう。


「では岩石兵への有効打と武器の消耗の面をお考えで」


「まぁ、そんなところだ。ネムリゴケ装備の岩石兵それも伏兵たぁ……相手もそこそこ知恵がまわるようだな?」


「「まわるーまわるー王子ぃ〜、よりぃー」」


「ハッ」


 双子にぐるぐる俺の周りを回らせながら、俺は空になった妖精の粉の袋を道端に捨て、立ち止まりながらしばらく考えた。


「先ほどの戦闘でだるさや目眩、ぼやけた眠気を感じたものはその度合いを欠かさず申告してください。それと苔の生えた岩石兵は、魔法などを用いた苔の除去対策が成されるまで、誘眠に対する抵抗値の低い者は極力近づかないように、無駄なアイテムの消耗は避けてしかるべきです」


 せわしなく働くクロウが旅団員の眠気の度合いを羊の数で自己申告してもらい、管理していく。


 毒や痺れ眠りの状態異常の回復につかえる【妖精の粉】のアイテムは無限じゃない。


 やはり敵ぐ仕掛けてきた誘眠の搦手。予測はできていたものの、一介のプレイヤーの知恵頭では【ネムリゴケ】でくるとは気付かなかった。


 まぁゲームスタート時に毒っていた王子(こいつ)のおかげで、妖精の粉は用心して当てつけのようにたんまり買い付けている。今は、その用心が奏してまだ引き返さずに助かってると言ったところか?


 さて、この先はどうだかな。






 次からはクロウが自分の技能を用いて対策を立ててくれるという。あれがネムリゴケと分かれば、焼くなり洗うなり近づかないなり、それなりにやりようはあるが。


 俺は辺りに捨て置かれた、消耗済みで痩せしぼんだ皮袋の残骸を眺めた。


 側壁から飛び出る眠る毒の矢のトラップに、突如噴き出す地に描かれた魔法陣の催眠ガスなどなど────。ここまでの道中でそれはまぁ、盛大に歓迎されたな。


 より一層油断せずに注意深く行軍をつづけた俺たち第九王子の旅団は、数多のトラップをくぐりぬけ道中を阻んだ新手の魔物を今、全て討ち倒した。


「相当性格がいいぞこれは……はは」


「ちょっとカール! 笑ってる場合なの?」


「なぁに、対策はできてんだから問題ないだろ」


「対策ってただの金持ちのごり押しじゃないの! こんなにもうアイテム使ってるし!」


 金持ちのごり押し。噛みついてきたクピンの言っていることはおおかた合っているな。しかしカール王子の強みがいきたということに違いはない。


 とはいえ、【妖精の粉】は残り11袋。心許ないということもない絶妙な数字だ。体力とAP、武器の消耗度合い……余力はあるが──。


「カール王子。いかがなさいますか。一度ベヌレに引き返し補給を受けてもう一度進むことも考えられる策ではありますが」


 俺がクピンの発言を受け考えた素振りを見せた時。すっと割り込んできたメイド長のクロウがやはり提案してきた。現有する戦力とリソースで、この先に進むべきか否かを。


 しかしその決定権は────


 暗がりの前を見据え続ける翠の瞳。アモン・シープル、ヤツの背が見つめる先には何があるのか。


 じっと立ち止まり振り向かない、ヤツを止め得る権限は────


「ここまで作戦を練っておいて、今更引き返せるかよ。王ヂの俺を愚将にする気か?」


 行使しない。カール王子はそれを行使しないことを選んだ。


「ちょっとカール! なによそれ! あんた自分のプライドで子供みたいに!!」


「そうだプライド、プライドを懸けてたたかえ。〝一致団結〟! メイヂ国第九王子の旅団としてな!」


 またも噛みついてくれたクピンの今放った言葉の中に正解らしいものがあった。俺にもあなたにはどなたにもきっとあるプライド。このまだまだ寄せ集めの旅団に共通する要素といえば、俺は贅沢は言わない、そんなものだ。


「い、いっちだんけつ……!? カールの口から??」


 クピンは返ってきた王子のその言葉に、顔表情をうるさく変化させ驚いている。


「プライド、名誉、一致団結……はい、我々が練り上げた作戦はそれほど愚かなものではありません」


 副官・参謀・メイド長のクロウは、旅団が知恵をしぼりあい打ち立てた作戦の質に問題はないと答えた。


「一致団結というよりただの連帯責任じゃないのか、それ」


 悪態をついたユウはバッグに詰めていた太った皮袋を俺にパスした。抜け目なく隠し持っていたようだ、これで在庫は12だ。


「よぉおし一致団結! 寸止めなんていらない、盛り上がってかないとね! まかせて王子様!」


 活躍ポイントをプラスにするためにはもうひと風といったところか。イヨポンがテンションを上げ、アイドル系お姉さん戦士に違わぬパッシブスキルを発揮し場を盛り上げる。


「山賊と団結する王子がいるかい? フッフ」


 元山賊頭のオリーブは二つのナイフを研ぎ合わせながら、妖しく笑った。


「イッチダンケツ。いい響きだとおもう」


 俺もそう思う。アオ・ニオールは静かに言葉にする。


「一致団結か。任せろカール!」


 前方に立ち尽くしていたヤツのマントがひらりと靡いた。


 緑髪の剣士アモン・シープルは振り返る。


 握る鋼の剣を大きく天へと掲げて、勇ましく王子の俺に応えてみせた。

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