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GAME1《ベヌレの街》

⬛︎勇大陸最前線武装国家のひとつ、メイヂ国の第九王子カール・ロビンゾンは王命で出向いた魔物狩りの任の途中で物資を補給するため訪れた白昼の街中で……いきなりあらわれた黒装束の者に腹部をリザードナイフで抉られ、毒殺された────はずだった。




いつものように寝落ちするまでVRカプセルベッドⅡの中に寝転んでいた。

近頃流行りである昔の名作の豪華VR化リメイク。

昔遊んだ懐かしき冒険が思い出補正だけではなく、映像体験をリッチに補正しまるでその世界にさながら浸ることのできるVRゲームとして大幅にチューニングされて帰ってきた。

そしてそのブームのせいでいつもどおりの目の冴える深夜にVRゲームに興じていた俺は、ひどい筋肉痛に目覚めた。


ひどく脇腹が痛むのだ。ひだりの脇腹のあたりが。


何故だ寝る前にはちゃんと全身のストレッチをするのが習慣だし、ゲーマーでありすこぶる健康体であるのが俺のくだらないアイデンティティのはずだ。

今そのアイデンティティが大きく揺らいでいる、揺らいでいるどころか、痛いのだ、左下の脇腹あたりが。

ちょと待て、左下のここってまだ脇腹だよな?

脇腹ってどこまでだ?



ちょと待てさっきからそれしか言ってない気もするが待て。待ってほしいのだ、ちょっと。


……そんなくだらねーことよりこの状況もしかして……。


俺って今、王ヂ? ここがベヌレの街なら山賊狩りをサボったルートの? 


……しかし痛すぎだろ俺の脇腹が……まったくどうなってやがる。


ヤベェ変な夢とゲームが同期でもしてんのか? 痛覚リンクなんて技術はあと二代は先になるってVRカプセルベッドⅡのメーカーの弐創(にそう)が言っていたが。風のあらぬ噂ではもうなんかⅡにも密かに仕込まれていてユーザーのデータをとってるとかなんとか……。

ってマジで今はどうでもいいな。

まぁ実際のところVRゲームってのは臨場感がある反面バグもまだまだ多いし、そうそう自発的に終了できなくて気付けば四日間ゲームの世界を彷徨っていたなんてのもあるって笑える小話をきいたことあるしな。

とすると、これもなんかの動作不良だろう。俺も笑って語れるような物語を手に入れられるのかな、ハハ。



あ、ナラ! えー従者のチョコに視点変更っと。


よしこれで、あれ?


なんで俺はうごかないマグロの操作をしているんだろう。これってスキップ不可のイベントシーン? 何故か今いる不思議の星の隠し店屋で、左脇腹がクソ痛くなる最弱王ヂさんの貴重なイベントシーン?

あわかったーーーー俺なんかまちがってVR出産体験Ⅵとか今ダウンロードしてプレイしてたりする?


「なわけねぇよなぁ!!!」


「ひぃっ!!?」


ソバカスメイド従者のチョコが突っ立ち驚いてやがる。

当然だ死体が夏の終わりのセミみたいに地べたで動いてないのが元気に鳴いたら、俺でもびびる。


「痛てててて…てか痛ててて!」


そんな目で俺を見下すなよ従者。せめてなんかしろや、傷薬とか聖水とか慈悲とか適当に死体にぶっかけろや。


ってとにかく考えろ。おそらく俺操作の王ヂは山賊狩りに出向かず今現在の仲間がいつもこきつかっているチョコしかいない。そしてそのルートはアイツとの親愛度が低すぎると…いやアイツとアイツが高すぎるとたしか発生する怠け王ヂ極秘毒殺ルートだ。それはそれで台詞とシナリオがなかり変化する面白いルートだが……っておもしろくねーー! 動かない毒マグロを操作してておもしれーわけがねぇ! てことは待てよ……俺ってもうすぐ毒の継続ダメージで死──


「ちょっとー、ここは死体置き場じゃあっりませーん。死体は(スケルトン)になる前に教会に帰った帰った。えーっと骨ものこさないビッグサンダーの魔術書はっとどこかなどこかなー」


ふざけた銀髪のトンガリ帽子は世界各地どこにでも湧くここの店主だな。

そんで【ビッグサンダー】なんて序盤から浴びせられたら確実に死ぬ、てかマグロに対してオーバーキルだろ。何言ってんだこいつ。あとこいつを無計画で仲間にすると便利な隠しショップが今後一切使えなくなるから勧誘したいならここで買うものが無くなるぐらいにコンプしてからがいい、そこだけひじょうに注意が必要だ。

って敵になるなんてきいてねーぞ、こんなとこまでリアクションの変化に手間がこんでて泣けるぜ王ヂのチリゴミみたいな扱い。


「るせぇ! 銭の亡者ども! 俺はちょっと床で涼んでるだけの上客だーー!!! 王子だぞ王ヂ!!! 金持ちに決まってんだろ!!! (って言ってもこんなゲームおそらく序盤に不思議の星の店で買えるようなまとまった金があるわけがねぇ──王ヂ以外はな)おいっチョコ! 帯剣してる俺の剣をはずせ」


「は、ふぁイ!!?」


「いつつつつつつ馬鹿!!! それは俺が絶賛ブッさされてるおナイフさんだぁーーー!!! あるだろうが無駄に豪華な剣がーー!!!(止血だやめろやーー無駄に斬撃ダメージ受けたらどうする、このカール王子のクリティカルポイントに)」


「え、あはい、触っても!?」


「触れさわれーー! 勝手に触っていますぐ持ってけ! そのへんの山賊でもご丁寧な許可なんてとらねーぞ。遠慮したらゲンコツもんだ!」


よく声を出す死にぞこないの主人の命令に、従者チョコはおそるおそる……腰を屈めてお腰につけた華美な装飾の施された金鞘の剣を奪った。


「ってなんで抜いてんだ」


「えっと、こっこれでブッさすのでは?」


「誰にだよ! 馬鹿だれが介錯求めたってんだよ! 王ヂだぞ勇大陸メイヂ国のとても偉い王ヂだぞ! 刺した時点でお尋ね者に決まってんだろうが! そんなに俺のこと恨んでるのか! 人間こういうときこそ本性出るぜ! わかったわかった昨日勝手にお前のバッグからたのしみにとっていたイナヅマチョコを食いまくったのは謝るから! さっさとそれをそこの店主に売ってこい! そして妖精の粉をよこせ。毒でそのうちお陀仏になる前にな! 無駄チョコ菓子を買うなよ! 勝手に他人の命諦めてんじゃねーぞ、俺はまだまだこの死体もどきから始まったデータあきらめてねぇーからな、セーブしろセーブ、俺を!」


死体もどきの茶髪の王子から発せられる言葉のマシンガンに、メイドで従者のチョコはメイドらしく雇い主に一旦したがい金ぴかの剣を動けない王子に代わって売りに行った。







王子カール・ロビンゾンが毒から回復しついになまあたたかい汗染みた木床のベッドから起き上がってしまった。

メイドのチョコはソバカス顔の絶望顔で、不敵な笑みを見せる王子と見つめ合いよろこんでいる。


「おい、妖精の粉ひとつ買うのになぁぁぁーーんでそんなに時間がかかる? 理由を言ってみろおチョコさん? 売り切れてでもいたかーー?」


「そっそそそそそそのーそのー……メニューをさがしてもぜんぜんみつからなくて…」


「メタいこと言ってんじゃねーぞ!! 俺がメニューカーソルであそんでる間にこの程度の毒と脇腹痛でくたばってるとでも思ったかーー!!(すこぶる健康体のパッシブスキルの効果を思い知ったか)」


「ひぃっ!?? ごめんなさごめんなさいぃ……」


「ったく大方俺の命とひきかえにまた無駄チョコでも大人買いしようと思ってたんだろうが……お、待てよ??」


「ちょっとーあと30秒で出ていって、店のまわりにぞろぞろたむろされると困るんだけどー。えーっと雷適正はじゅうぶんさすがわたしえとえーーーとビッグサンダーの習得方法はっと」


「だから待てよ星屑商売人、コイツであと3分延長だ。ソレとソレもな────さぁて怠けた人生の振り直しのじかんだぜハッ」


腹のナイフを豪快に引き抜きカウンターに置く、イカれた顔つきの男が銀髪の店主と商品棚を指差して笑いかけた。





▼▼

▽▽





「へっへ。ここに逃げたな」

「間違いねぇチョコ菓子のにほいのするオンナダァ!!」

「血のにおいじゃねぇのかよ」

「死んだ男のにほいなんて覚えざいねぇーーほいっ」


「「「「ギャーーーーッハッハッハッハ」」」」


隠しエリアの平原にぽつんと佇む不思議の星の店。

その店前にたむろして騒いでいる若葉色のバンダナをつけた迷惑客たちがいる。


のどかなみどりに不穏な空気が漂い始めたそのとき、星型のこじゃれたドアが開いた。

そして一歩一歩勇み外に踏み出して震えがながらら……ソバカス顔の女が古杖を構えてそこに立っている。


「おだちん…おだちん…イナヅマチョコ…」


その奇妙な念仏を小声で繰り返し唱えながら、もう既にバンダナの輩たちが出てきたメイド服の女ににじりよって来ている。


「へへへ、えらいねえらいねひとりででてこれてえらいねぇ……オラ!!さっさと大人しくしやがれソバカスゥ!!」

「チョコのにほいチョコのにほいいいいいいいいダウナーメイドのチョコのにほいいいいいいい」

「アァン?? そんなへんてこな杖構えてナニしてんだゴラァぶち犯すぞ!!」

「魔法なんて練り上げるなよ? 練り上げるなよ? その瞬間、俺の石斧でアタマぽぽぽんダゾ??? ダゾ???」



「おだちん…おだちん…イナヅマ……チョコぉお…!!!」



派手な雷電のオーラがチョコの全身から漏出する。狂った覚悟が呼び覚ます危険な危険な魔法発練の匂いに────


「クッソ殺せーー!!!」

「殺すな半殺せーー!!!」

「あぶないニホイいいいいいいい!!!」

「ブチ切れたぜブッチギレたぜえええ頭が冴えるぽぽぽんを喰らえヤーーーー!!!」

『テメェ〝ら〟がな。【パワーブーメ】!!!』



それは剣よりも速く、それは剣よりもしなやかに、曲がり、手元を自由に離れ自在に風に乗り、風のみちびく獲物を切り裂く。


店の横窓から右にとびだした──やがて左横薙ぎに流れるような美しい軌道で。

首筋、ドタマ、左脇腹、右脇腹、敵兵のクリティカルポイントをひと薙ぎに貫いた。



「名付けて合体技テンプテーションクリティカルパワーブーメラン」



白目を剥いて汚いアワをふいて…………。

虚仮脅しの大魔法のオーラを発していたメイドのチョコに襲い掛からんとしていた4人の賊たちが、一斉に草地に倒れていく。


緊迫の刹那に飛び交った白鳥はかの者の手元へと今ばっちりと戻り、王子は思い描いたように賢く帰ってきた白骨のブーメランの手応えとその曲線美を撫で上げた。



「さぁ、今宵潜ろうか。おそらく難易度ベリーハード、GAME原魔勇のセカイをよ…!」



草色にとけこむ若葉バンダナなどただのブーメランの投げ心地を確かめるチュートリアル。

重苦しい黄金の剣を捨てて手になじむ新たな武器と、新たな能力値で。

王ヂ兼プレイヤー、カール・ロビンゾンのあらたな人生(たび)が始まってしまった。





⬜︎登場キャラクター

カール(リセットのタロット9)


ぱわー⬛︎⬛︎⬛︎

かたさ⬛︎

きよう⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

はやさ⬛︎

まほう⬛︎


装備

コンパクトボーンブーメ

なし

なし


メイヂ国の第九王子。従者のメイドたちを引き連れて魔物狩りの旅に出た。

唯一メイドではない剣士のアモンと魔法師のクピンとは従者でありながら彼が気を許せる同世代の幼馴染である。

日頃の怠けと浪費癖と女遊びでいい噂を聞かない王子であるが、父王の命じた魔物狩りの任は頼れるアモンたちと一緒に自分ものらりくらりこなすつもりだ。

能力は平均的であり成長も遅いが彼にしか扱えない武器もあるとか。



チョコ

ぱわー⬛︎

かたさ⬛︎⬛︎

きよう⬛︎⬛︎

はやさ⬛︎⬛︎⬛︎

まほう⬛︎⬛︎⬛︎


装備

へんてこな杖

ショコラメイド服

ミントブリム


お金に困っていたところメイヂ国の王家に拾われカール王子の従者として雇われた下位メイド。

おもにカール王子の不満のはけ口にされ、ていよくこき使われてしまう。

お使いを頼まれたときには水増しして無駄チョコを買い込んでいるとか。

⬜︎










カール・ロビンゾン王子はメイヂ国に伝わる由緒正しきブーメラン操作術で不思議の星の店前に現れた賊の4馬鹿を倒した。

若葉バンダナのこいつらは山賊の仲間で、このベヌレの街に日常的に生活をし溶け込んでいた。そしてそんな狡猾なヤツらに困っている善良たる街の住人たちに依頼された山賊狩りを二つ返事で勝手に請け負ったカール王子の従者アモン・シープルは今頃ヤツらのアジトに向かい歓迎されていることだろう。

つまり、この街自体が着々とのっとられつつあったフェイズのもうすすんだ半分山賊のアジトだったってことだ。

外面だけは旅人を歓迎しているが、実際は半分結託しているのが実態だろう。

勇大陸は原大陸とちがってほとんど無法地帯だからな俺の家とちがって街の規模の治安はこんなもんだろ、賊も魔物ぐらいそこらにいるぜ。

もちろんアモンに依頼した住人は善良なんかじゃねぇ、だが今ごろ良心はそこそこ痛んでいることだろう。


そして俺はついでの追加で押し寄せる若葉の馬鹿どもを15馬鹿ほど肩慣らしがてら狩っておいた。

料理方法はというと、賊の1匹が持っていたアイテム【天使の呼び鈴】をつかってもうひとつの【天使の呼び鈴】に共鳴させラブコールした、そんで店前の隠し草原にあらわれた新手の若葉バンダナ隊を芋づる式ってわけだ。


その辺に死体が転がっているが、王ヂの成長速度は激渋だからな腹の足しにもなんねぇ。

おそらくな? さっきから獲得経験値がバグって表示されねーからわかんねぇが。せっかくリセットのタロットで苦労してブーメランが使えるきようさを手に入れたってのに──まさかこれ以上レベルアップしないなんてことねーよな?

まぁそれより、そろそろ不意打ちで雑魚を美味しくいただくより先に進む方が大事だとは思うが。


「こいつで最後か。おい番犬、ホイ番犬、他に今街にいる馬鹿バンダナの仲間はいねぇな」


「クセになる…ヘンなにほいほい…。いないほい…ご主人様」


「きっしょくわりーから俺のメイド以外で俺のことご主人様っていうんじゃねぇぞアホ番犬、その鼻へし折られたいか」


「ホイ……若旦那ァ」


「若旦那か? リアルで言われたことねぇがまぁいいだろ。よしじゃあそうだな? さっそくてめぇの元ご主人様のアジトへと案内しろ」

(やべっ、素でどこか忘れたぜ。なんせ20年前のSRPGのVR化だからな、てかこの山賊イベントに王ヂ視点とかはじめてだし少々の粗は許してくれよなー、今回なんせ追加要素も多いと噂だしな。そもそもジャンルがアクション系にうまくおとし────────)


まだこの空気と地の感触に慣れないカール・ロビンゾンは色々と考えながらガシガシときたねぇ肉犬人間の踏み台を踏み続ける。


「わ、わかったホイ!! ケ、蹴らないでホイ!!!」


使えそうな特殊能力もちのユニットは変態だろうがとりあえずキープだ。

まぁ今後切るかもしれねぇが、序盤だからな。こんなのでもいないよりマシだろう。


装備のおしゃれな犬の首輪は不思議の星の店主がサービスしてくれた。その辺の死体処理もスケルトンになる前に魔法で焼きながらしてくれるとのことだ。

これで準備に抜かりはない。

というか金がないので店主も俺も用はない。

次へすすむ時が来た。

苦い表情をした従者のチョコにいらないリードをもたせて番犬男のホイ(仮)の散歩係に任命し、俺たちは滞りなくそのまま山賊のアジトへと向かった。







どさくさにまぎれ女盗賊頭から投げ放たれたするどいナイフが白い太腿を掠めた。

魔法師のクピンは咄嗟に反応しながらも、白肌を一筋赤く染め上げられてしまった。


「しまった?? クピン大丈夫か!?」

「ちょっとかすっただけ大丈夫!! アモンは前だけ見てて!!」


「くっくっくやけにしぶとい袋の鼠だねぇ。オリーブ山賊団にわざわざハイキングしながら歯向かいにくる──馬鹿がいるとはねぇ!! ハッハッハ!! 必死に食らいついてなかなか可愛いじゃないか」


女盗賊頭のオリーブはバンダナからはみ出た豊かな癖のある白髪をひとつなびかせた。

どこぞの玩具のように幾本ものナイフをブッ刺した葡萄色の血を流す樽の上に座りながら、また一本刺さっていたナイフを手に取り、嫌な笑みを自分のアジトに誘い込んだ獲物たちにみせた。


「お前がここの頭か! 何故山賊行為をする! ベヌレの街が泣いているぞ!」


執拗に取り囲もうとする山賊たちの斧や剣の攻撃を幾度も素早い身のこなしで対処し、アモン・シープルはようやく姿を現した女盗賊頭に怒り剣を振るい向け、部下の山賊を斬りながら問うた。


「アッハッハッハそいつは傑作、ウソ泣きかもねぇ!! 坊やみたいなかわいい正義マンをだ・ま・す♡」


「なん…だと……??? ──ッ!」


動揺を誘いながらのゆったりとした女の所作からのナイフスローは、緑髪の剣士の剣にはじき落とされた。

思った以上の反応としぶとさに、女盗賊頭は舌打ちをしながらも山のように湧き出てくる部下たちに号令をかけた。


「チッ──よし、野郎どもかかりな!!!」


「姐さん、オレあいつつよいこわい」

「るさいねぇ!! あの美剣士をぶっ殺す気概でいきなさいな!! あんたブサイクなんだから戦闘で負けてんじゃないよ! 腐ったメンタルにしけったマッチで火つけて数で圧すんだよ!!! 頭つかいな!!!」

「姐さんソレて精神論!??」

「面で大差で負けてんのに精神で負けてちゃあんたに帰る家はない!!! 嫌ならよその子になりな!!! そのヨダレ血まみれの服も自分で洗濯するんだよ!!!」

「オレ、アイツ、コロス!!!」


オリーブはへたれな牛のような面をした大男の部下に発破をかける。

図体だけは勝っている牛面の山賊男はふるえるメンタルに後戻りのきかない火をつけて、緑髪の美剣士へと大斧を担いで襲いかかった。


武器の消耗は避けたい。アモンはその図体男と直接打ち合わず、普通のソードで、躱しながら確実に斬撃を当てていく。

血を流しそれでも怯まない圧をかけつづける気合いをみせる牛面図体は、遠方で目を凝らす女頭のナイフスローの援護をもらいながら大振りの大斧で床板を引き裂きはがしていく。


剣士のアモンには数と巨体で圧力をかけつづけ、

魔法師のクピンに対しては、未知の魔法を練り上げる時間を与えないよう投げナイフが無類の強さをみせるアモンの割り込みができないタイミングを見計らい飛んでくる。


山賊にしては手の込んだプランで、地の利、数の利、心の利、を盤石におさえて獲物の2人を着実にスパートをかけて追い込んでいく。



(いくら坊やが存外強かろうとも数は2人。大事そうな魔法師の雌ちゃんを先に弱らせる、あと2、3かすればこの【スロウナイフ】の効果がそろそろきいてくるはずよ。ナァーニここでオリーブ山賊団のかわいいブ男どもの半数をくれてやってもお釣りがくる美しい獲物さね♡にしても予想よりポンポン死にすぎねぇ? ほんとつっかえないわねー、魔大陸のお隣さんの勇大陸の住人がきいてあきれるわ、まさにあたしの目に映ってるのがピンキリね。まぁこんな馬の骨どもでも慈悲の愛だけはたっぷりあげるわ、後で手厚く街の教会で賄賂をそなえて祈ってでもすれば、スケベなスケルトンにはならなァい♡逆恨みはこわいからねフッフ、オリーブ山賊団もそろそろ小綺麗にして原大陸中央部に住む物好きな連中にしみったれた街ごと売りに──)


女山賊頭のオリーブは今後の展望の妄想を膨らませながらチェックメイトのナイフを樽から引き抜き手に取った。


しかし、手に取った瞬間にそれは白鳥にかっさらわれ、手痛く刃は砕き弾け飛んだ。


「痛ッ!? なんだいっ!??」


「難題ってほどでもねぇ。おいなに山賊相手にてこずってんだアモンくーん、剣のお手入れでも怠っちまったか?」


キッと目を細めた女山賊頭は、素速い白鳥の行方を追い、アジトの入り口でそれを捕まえた長めの茶髪をかきあげ現れた……ニヤつくどこぞの王子の顔を見た。


「カール!? 山賊狩りには来ないって?」


「はっ? お前がここでも余計な首突っ込むからちょうど草色頭巾の汚ねぇヤツらに大挙して絡まれてよー。おかげで白昼のバーで酒なんて飲んでる暇なんてぜんぜんなかったぜ」


「草色頭巾? 山賊の仲間が?? ご、ごめんカール」


アモン・シープルは姿を見せた俺に驚きながらも事の顛末を理解し、謝った。じぶんの予想になかったところでカール王子に危害が及んでしまったからだろう。


「ちょっとアモンが謝る必要ないんだから! 元はと言えばカールあんた遅いわよ! アモンになんでもまかせてーー!」


こいつはクピン・シープル。

同じく緑髪のキュートなほどよいもじゃ髪。羊飼いの娘で突然変異の魔法師だ。

カールよりアモンの方が親愛度と優先順位は高いはずなので一国の王ヂに対するこの反応は当然である。

遅いのは事実だからな、たださっきまで店の冷たい床で半分死んでいたカール王子に対する仕打ちにしてはちょっとひどいのは言わずもがなだ。


「はいはいごめんなせぇ、で? 手助けいるか剣士様? 今日ならマけとくぞ」

「あぁたのむ! だけど…あれ? 剣は? カール? …それは?」

「ありゃ売ったぜ。ずっと握り心地が痒くて気に食わねぇと思ってたからな。俺の適性武器はあぁみえてつよかった勇者パーティーの父親ゆずりなのさ」

「?? あはは、カール笑えるな! あんなに女子たちにキンキラで自慢げにしてたのに!」

「女も剣もファッションも見た目は3日で飽きるってこった、言わすなよ」

「美男子とボンボン小僧がいちゃついてんじゃないよ! 興奮するじゃないかい!」

「ハッいい趣味してんじゃねぇか。──って気持ちわりぃなおい!! おいさっさとぽっと出のこいつをボコって黙らせて一旦飲み直しに行くぞアモン、クピン! 雑魚ばかりの相手ですっかり酔いもさめちゃったぜ?」

「あはは、わかったカール!!」

「…ふぅん、やる気なんか出しちゃって! いつもみたいに途中でほっぽって逃げないでよ!」

「安心しろ。いつもみたいに賊は賊とて能力厳選しながら片手間にぶっ殺してやる!」

「このオリーブ様に簡単に言ってくれるねぇーーー!!! 興奮してきたじゃないかい!! しょんべん臭い田舎のガキども!!!」


アモンは纏わりつく牛面巨体を上回る膂力で弾き飛ばし、戦力が3人になった魔法師のクピンはポジションを取り直し魔法を練り上げながら機会をうかがう。

父王譲りのブーメつかいのカールは白骨のボーンブーメランの曲線美を撫で上げながら妖しくニヤつく。


天にぶら下がる謎の紐をひいた女盗賊頭は勝手に昂りながら、それを合図に隠していた予備の山賊たちの増援を汚い血に染まりゆく戦場のアジトへと解き放った。

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