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ファー〇ー


 僕がその家に住んでから3年ほどがたった。


 僕も小学生3年生くらいになり、そんな僕は(くだん)の元、開かずの間であった部屋を僕の部屋として親から与えられていた。


 この家に住んでから小学校に入る前、僕に弟が生まれた。

 この話はそんな弟が5歳くらいの時の話だ。


 僕の記憶によれば、その頃の子供のおもちゃ界隈は、卵型の携帯ゲーム(もしかすると、今の若い人はわからないかもしれない)が流行して終わり。


 次に出た、あれは何の生物が元なのか僕にはわからないが、ファー〇ーというものが流行の最先端だった。

 

 我が家も弟の強い希望でそんなおもちゃをひとつ買った。


 海外産のおもちゃという事だったので、見た目は日本のおもちゃと比べて何かリアルで不気味な雰囲気をしていた。


 全身を黒い体毛で覆われ、所々に黄色い毛が生えているおもちゃ。


 ドラゴン〇ールに出てくる天津飯のように第三の目の位置にセンサーがついていて、人が近寄ると勝手におしゃべりを始めるおもちゃだ。


 また、自身が持ち上げられたりすると「たかい、おろして」「たかい、おろして」と話し始める。

 弟は何が楽しいのか、そのおもちゃを高い高いして遊んでいた。


 僕はこの話の最初にも書いたが、その頃はこの家の一室を自室として寝ていた。

 

 ベットで横になると、僕の目の前には長い廊下の奥に茶の間が見える。


 そのおもちゃは、茶の間の入り口に小さな椅子を置いて、夜、誰も遊ばない場合はその椅子におすわり状態で鎮座していた。


 その頃は、茶の間に母が布団を敷いて弟と一緒に寝ていたので、そんな布団の足元も見える僕の部屋。


 僕はそんな部屋である日、夜中に目を覚ました。

 時刻は深夜1時くらいだ。


 なにやら茶の間から声が聞こえる。

 僕は茶の間の方を長い廊下を通して見た。


 その声はこの前買ったばかりの、ファー〇ーから出ている声だった。


「たかい、たかい」


 僕は夜中に弟がまたおもちゃで遊んでいるのかと思った。

 茶の間は電気が消えて真っ暗だが目をこらして見る。



 誰も居ない。



 誰もそのおもちゃの前には居ないとはっきりわかった。


 ならどうしてファー〇ーはおしゃべりを始めたのか?


 僕はベッドで横になりながら、茶の間で独り、おしゃべりを始めたおもちゃを眺めていた。


 「たかい、たかい、おろして、おろして……」


 延々とこのセリフを繰り返し話している。


 さすがに僕も少し怖くなってきた。

 おもちゃを見るのをやめて目を閉じる。

 その後もおもちゃはしゃべり続ける。


「たかい、たかい、おろして、おろして」


 そんなおもちゃのおしゃべりに変化があった。



「たかい、いたい、くるしい、たすけて、たすけて」


 

 僕はそこであまりの恐怖に気を失ったようだ。

 気が付くと朝を迎えていた。


 結局そのおもちゃは、弟が飽きるとスイッチはOFF、そして電池も抜かれ、そのまま茶の間の片隅の小さな椅子の上に置かれていた。



 

 しかし、そんなある日。

 再び僕を恐怖が襲った。



 その日も前回と同じく夜中に目が覚めてしまった僕。

 時刻は深夜2時くらいだったと思う。


 ベットで横になったまま長い廊下から見える茶の間をぼんやりと眺めていた。


 すると、スイッチを切られ、電池すら入っていない、あのおもちゃがおしゃべりを独りでに始めた。



「ヴァヴぃヴぃヴぃヴぃいヴぃ」



 今思い出したが、そのおもちゃはまばたきをするような機能もついていた。

 上のようなセリフを口から吐き出しながら、異常なほど何度もまばたきをしているのが暗がりでも見えた。


 僕はその時点で怖かった。

 

 でも、もしかすると誰かが電池を入れて遊んだまま戻しただけなんじゃないか?


 そう思ったので、ベットから起き上がり、暗く長い廊下を渡って茶の間まで行った。


 茶の間ではいつものように母と弟が布団の中で寝息をたてている。


「ビビビビビビイイビイイイイイ」


 そんな中でもおもちゃは奇声を発していた。


 僕はそんな茶の間の片隅に置かれたおもちゃへゆっくり近づいて、持ち上げた。

 お尻の部分の電池が収まるハッチを開ける。

 


 電池は入っていなかった。

 電池の収まるはずの場所はカラだった。



「うわあああ!」


 僕は叫び声をあげながら、茶の間の床に強くファー〇ーを叩きつけた。

 僕の奇行に寝ていた母と弟が起きる。


「なにしてるの? こんな時間に」

「いや、このおもちゃが話してたから……」


 母は布団から起き上がり、僕が床に叩きつけたファー〇ーを拾い上げ、元の椅子に座らせる。


「ふぁーあ。まだこんな時間じゃない。寝なさい」

「はい……」


 

 僕はその日から夜自室で眠る時は、自分の部屋のドアを閉める事。

 そして、そのドアについている小窓を大きなカレンダーで塞ぎ、茶の間が見えない様にして、そのまま暮らすことになった。

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