風呂場で髪を洗う
この話は、30を過ぎた今でも時々起こる。
もしかすると、この話を読み、今まで気づいていなくて、そう言った現象に会う可能性を僕は否定できない。
作者はそう言った責任を負いたくないので、先に言っておく。
読みたくない方は読み飛ばしてくれて構わない。
風呂場で髪を洗う時、皆さんはどうやって洗うだろうか。
僕は小学校を卒業するまで、シャンプーハットを着けなければ自分で髪を洗えなかった。
そして、未だにそのクセが残っているのか、思いっきりうつむき目を閉じなければ髪が洗えない。
今日はそんな僕の風呂場で体験した話を紹介する。
「お風呂、先に入っちゃいなさい」
晩御飯を食べ終えると、母親が僕へそう言ってきた。
僕はお風呂に入るのが大嫌いだった。
それは過去に、お化けアパートで謎のおじさんに殺されかけた事がトラウマになっていたから。
母親はきれい好きなので、お風呂へ入らないと怒る。
しぶしぶ、お風呂場へと向かった。
古い建物だったので、風呂場も同じく古い作りの湯船。
それは、当時小学生だった僕が、膝立ちしなければ顔が沈んでしまうほどだ。
湯船は熱そうな湯気をたてていた。
触ると少し熱めのお湯だ。
湯船に水を足しながら、先に髪を洗う事にした。
いつもの様にシャンプーハットを被り、両手でシャンプーを泡立ててから髪を洗い始める。
シャカシャカと手を動かしていると、自分よりも強い力、ゴツゴツとした手が頭をこすっているのに気が付いた。
「ん?」
自分の正面にある鏡を覗き込む。
「あー……」
血の気が引いた。
青ざめた顔をした自分の顔の上。
僕の頭を大人の男性らしき手首のみが這いまわっていた。
全身に鳥肌が立つ。
誰?
ていうか体は?
「いてっ!」
シャンプーハットのすき間から泡が垂れてきて目に入ってしまった。
思わず目を閉じる。
「うぅ……」
手で目をこすってしまい、更に泡が目に入って痛みで目が開かない。
涙がポロポロ流れた。
その間も僕の髪を誰かが洗っている……。
「うわああああ!」
怖くなった僕は、叫びながらブンブンと頭を振った。
しばらく、そうしていると手の感触は消えた。
落ち着いてシャワーで目を洗い流してから、ゆっくりまぶたを開ける。
「ふう……」
鏡には青ざめた僕の顔以外、何も写っていなかった。
「ちゃんと……か、み……洗わないと、だーめ」
耳元で誰かがしゃべった。
それは、ねっとりとした男性の声。
話しかけられた方へ振り返った。
流し場に座り込む僕の目線の高さと同じ位置。
そこに、満面の笑みを浮かべた、今まで見た事のないおじさんの顔が浮かんでいた。
顔しかない。
首から下は見えなかった……。
その顔は僕が恐怖に凍り付いていると、ゆっくりと消えた。
……僕は今でも時々、誰かに頭を洗われている。




