土の中の幼き記憶
人間の手から、下を覗き込むと、先ほどの一番デカイ奴は、切り刻まれトレーの上でグロい姿で横たわっている。
まさか、次にこの俺がそうなるのか? ふと嫌な予感がした。絶対的な神である俺様をこの人間は侮辱している。
「離せ! 離せ!」と体を動かすが全く動かない。人間は、鋭利な刃物を俺の皮膚に押し当て下に引きづった。
皮膚が剥がれ落ちとんでもない痛さに気絶しそうになりながら、横目で兄弟達がいる箱を見た。兄弟達もこっちを見ていた。兄弟達の箱の紙には、『芽生えの芋』と書かれているようだった。なんで俺がこんな目に合わないといけないんだと意識が遠き目を閉じた。
あの時から、俺は変わっていない。土の中の幼き記憶。
兄弟の中でも特別小かった俺は、他の兄弟から小さいと言われているような感じがして、自分に劣等感を感じていた。そこから、俺は兄弟達の分まで栄養を横取りして、大きくなった。兄弟達より大きくなっても物足りない、そこからどんどん栄養を奪っていった。
兄弟達が分けてくれと頼んできても俺は無視して大きくなった。俺を小さいという目で見ていた罰だ。そう思っていたのだ。
意識が戻ると、皮が全部剥がされて肉片の着いた皮がシンクの中で何枚も落とされている。
人間は、俺をまな板の上に叩きつけ、体を押さえた。大きな包丁を俺の体目掛けて降り降ろした。ザクッ! 腹部に突き刺さり内臓を通過し切り裂かれる。胴体が真っ二つ下半身の方をみると転がっている。人間はまともじゃないそう思った。
痛さで意識が朦朧となった。ぶつ切りにされて、トレーの中に入れられた。あのデカイやつも小さくなってる。俺の身体は、脳の半分と目だけだ。
俺の横に並んでいた人参、玉ねぎ爺さんまでぶつ切りにされている。
そのまま大きな鍋の中に流し込まれる。
鍋の中では、下からの火力と油まみれで、脳の一部が焼けこげる。ぐるぐると回されてどれが俺の身体か分からなくなった。目も回り始めて思考が着いていけない。
意識が遠のいた。あの時、兄弟達は、栄養を奪いとる俺に対して、悪口を言っていなかった。言われていると思っていたのは、俺のエゴであり、自分勝手な勘違いだったのかもしれない。
俺は、一番大きくて強い自分はこの世の無敵であり、神であると考えていた。しかし、神だと思った自分は、こんな姿となり、焼かれている。
兄弟は、次の世代の希望として、種芋になる役目を持っている。俺は何の役目になる? あの爺さんが自分の罪を受け止めて改心すれば、救われると言ってたけど、今からでも、間に合うのだろうか。
鍋の上から水を掛けられて目が覚めた。目の前には、玉ねぎ爺さんが、きつね色になって安らかな目をしている。もういってしまったのだろか。全てを受け入れている感じがした。