18
「リーダーずりーぞ!一羽だけ肝臓食べやがって!」
ペンコルドの一羽がとてもお怒りだ。
「本当だ!俺も心臓食べたかったのに」
「なーにが大丈夫、だ!転んでも落とさずに全部食べられるって意味の大丈夫だったのか!オラッ」
いや、全員お怒りだ。まあ、そんな『食べられて幸せです』みたいな顔してたら怒られても仕方ないかな。
リーダーは先ほどのキラキラした目ではなく、口角(嘴の端)を少し上げて目を細めて今にも天に召されそうな幸せそうな、頭の悪そうな顔をしている。誰も体の心配などしない。むしろ殴られそうな雰囲気が漂っているくらいだ。まあ自業自得だろう。
「ぼ、暴力は良くないよ」
私はとりあえず止める言葉を吐く。今回に限り、リーダーが多少殴られようが構わないと思っている。
リーダーが食べたのは群れにいるみんなで分けるための臓器だ。リーダーはつまみ食いをしないと信用されてお皿を持っていたのだ。
この臓器はペンコルド達からするといわば臨時収入だ。他の肉部分に比べると圧倒的に少なく人気が高い。なので普段狩をするペンコルド達しか食べる事はできないのだ。それなのに今回は多めに手に入った。だから周りのペンコルド達も期待をしただろう。いつもより多く食べられる、子供たちにも分けてあげられると。
それがこれだ。
「頭に雪玉をぶつけられた気分だぜ!」
ペンコルドの一羽が足をペタペタさせながら怒っている。かわいいな。
「自分が同じ事をされたらどう思う!怒るだろうが!」
そう言ってリーダーに掴みかかる。
「ごめんなさい」
先ほどの幸せな顔とは打って変わって表情を暗くする。
リーダーの反省した様子を見て怒りが少し収まったのかペンコルドは手を離す。
「チッ俺たちは先に帰るわ」
そう言ってペンコルド達はゴロゴロと転がりながら帰って行く。
「リーダー大丈夫?」
声をかけずに帰ろうとしたけれど、リーダーのゾンビのような顔を見ると声をかけずにはいられなかった。
先ほどまでの丸々とした顔はそこにはなく痩せこけていて、顔色もなんだか青白い。
「大丈夫だよ。僕は頭を冷やしてから帰るからお嬢ちゃんは先に帰ってて」
リーダーはそう言うとフラフラとしながら山の中に入って行く。そっとしておいた方がいいのかな?私はとりあえずみんなのいるところへ帰ることにした。
しばらく山を下っていると、
「シャララーン チリンチリン シャララーン チリンチリン」
とどこからともなく音がする。
「うん?」
私は耳を澄ませて聴いてみる。
「シャララーン チリンチリン シャララーン チリンチリン」
急いでバリアを張り、辺りを警戒する。
「シャララーン チリンチリン シャララーン チリンチリン」
辺りには何もいない。音は耳の奥から聴こえてくる気がする。これはあれだ、幻聴だ。
私はとりあえず自宅に帰ることにする。たぶん疲れてるんだ。帰って寝よう。
山を下って行くと音が小さくなっていく。
「シャララーン チリンチ‥」
うん、たぶん幻聴。
砂浜まで戻るとペンコルド達が何やら騒いでいる。
「あなた!何か食べてきたでしょう!」
「た、食べてないよ。どうしてそう思うんだよ」
何組かのカップルが言い争っている。
「口の周りに付いてるわよ。食べてきたならこれはいらないわねえ」
メスのペンコルド達は手に持った豚の肉を食べ始める。
ムシャムシャムシャムシャ
「ああ!俺の分!」
無言で食べる。
ムシャムシャムシャムシャ
「おとーさん食べてきたの?僕たち待ってたんだよ」
小さなペンコルドも手に持った肉を啄む。
ムチャムチャムチャムチャ
「あ、いや、食べてきたんじゃなくてちょっと味見を‥」
嘴の周りを汚したペンコルドは言い訳を始める。
「そうだよ!ちょっと嬢ちゃんの料理を味見させてもらってたんだよ」
他のペンコルドも一緒に言い訳を始める。
「「同じことです!!」」
待っていた他の奥さんペンコルド達も声を揃えて言う。
「パパずるいー。僕も食べたいー」
「僕もー」
子供のペンコルド達が物欲しそうな目で私を見る。
「お前らはダメだ。嬢ちゃんの作る料理は辛いんだぞー」
「そうだそうだ!こいつなんて嘴が赤くなったんだぞー」
「またご飯作る時に一緒に作ってあげるよ。今は食べたばかりだし、動き回って疲れたから家で少し寝てくるね」
私はそう言って家の方へ向かう。途中、リーダーの奥さんに出会ったのでリーダーが頭を冷やすと言って山奥に入って行ったことを伝えた。
自宅に帰ると真っ暗だ。
ライト
魔法を使わないと暗くて不便だ。ランプみたいなのが欲しいな。スイッチでオンオフできるやつ。
とりあえずトイレに行って、硬いベットに横になる。大人の体だったら体中痛くなっただろうけど、今は子供の体だからか痛くない。最高だ。ちょっと寒い気がするけど寝るか。