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確か毛を焼き切るんだよね?ファイヤー
火の魔法で吊るされている子豚の周囲を炙る。ちょっと焦げ臭いぞ。チリチリになった所で木の板で擦る。
ガリガリガリガリ
ガリガリガリガリ
表面を炙ったからか少しが温かい気がする。そんなに強く炙ったかな?
「だ、誰か上の方を手伝って欲しいです」
上が全く届かない。自分より身長のあるペンコルド達にお願いすることにした。
「わかった。この板で毛を削り取ればいいんだね」
リーダーが手伝ってくれる。
ガリガリガリガリ
ガリガリガリガリ
削りにくいところはもう一度火で炙る。リーダーを見てみると、必死で腕を伸ばしている。腕が短い為勿論届いていない。かわいいかわいい
「リーダー、こちらを」
そう言って他のペンコルド達が石を積み上げて足場を作ってあげる。
「ありがとう」
リーダーは足場に足を置き、作業を続ける。
‥あれ?これ風魔法で削った方が早くない?
風!
風の刃が子豚の肌を撫でる。
「流石にすべすべではないけど、この方が早いね。リーダー、魔法が便利だ」
「本当だ、毛が全部取れたね。次はどうするの」
リーダーは首を傾げる。かわいいなあもう。
「確か次はお腹を裂いて内臓を綺麗に取り出すの。だからこの子豚をそこの川の近くに仰向けに置いて欲しいの」
私がそう言うと、リーダー以外のペンコルド達が子豚の足を縛っている紐みたいな蔓を外して運ぶ。
「内臓はどうするの?捨てるの?」
リーダーは目を輝かせながら訊く。
えーっとこれは何て答えるのが正解なのかな。
「そこの川で綺麗に洗ってから火を通して食べるつもり。ちょっと臭いがキツイらしいから無理そうなら魚の餌かな?」
血の匂いはそんなに臭くないけどお腹を開くとわからない。確か膀胱とか傷つけちゃうと臭いがキツイからその掛かった辺りのお肉もダメになっちゃうんだよね。あれ?それは猪だったかな。ホルモン美味しいから食べたいな。牛に比べるとちょっと臭いがキツイからなあ。
私の答えでリーダー達の目のキラキラが無くなり、元に戻る。
え?答え間違えちゃったかな?何て答えれば良かったのかな。何て考えていると大変な事を思い出した。
「そうだ!調味料が塩しかないんだ」
酒や牛乳で臭みを消して、消しきれないクセの強さを胡椒や味噌、醤油、生姜で誤魔化したら最高に美味しいのに!クソー!
「調味料?そのまま食べるんじゃないの?塩って確か海にあるやつだよね。海から上がって体を乾かすとポロポロ落ちて行くあのしょっぱいやつ」
リーダー達が首を傾げる。クソかわいい
「海の水でもかけながら焼くの?それって美味しいの?」
他のペンコルド達が首を傾げながら訊いてくる。
「美味しくないと思う。今からお腹を開くから内臓、どの部分が欲しいか教えてくれる?」
私はそう言いながら磨製石器を出して、今はない喉元辺りに当てる。体勢がキツイけど透視で子豚の体の中を見ながら、皮を切れる様に磨製石器に魔力を流して少しずつ下に下ろしていく。肛門付近まで切れたら左右に切り込みを入れて皮を開く。うっ臭い。生暖かく、生臭い空気が子豚のお腹から漂い始める。思わず息を止めた私は混乱する。
え?一晩この寒い空の下に吊り下げてたんだよね?どうして中身がこんなに温かいの?
時間も少し止まっていた様で、目を開けっぱなしにしていたからか涙が溜まっている。クリーン。と同時に走り出し、木陰で吐く。
「うえぇぇぉえぇぇ」
喉の奥から込み上げてくる液体が地面に落ち、雪を溶かす。辺りにはなんとも言えない臭いが立ち込める。
「だ、大丈夫!?」
リーダーが優しく背中を摩ってくれる。
「大丈夫。解体が初めてだったからちょっとびっくりしちゃったみたい」
優しく摩ってくれている手が気持ち悪い。今は触らないで欲しい。背中がゾクゾクする。
「もう少し離れてれば大丈夫だと思うから、先に内臓を傷つけない様に優しく外して川で洗ってて欲しい」
私は早く離れて欲しくてとりあえず作業を続けて欲しい事を伝える。
「わかった。何か困った事があれば呼んでね。すぐそこで作業してるから」
リーダーは心配そうにしながら戻って行く。
「うん。ありがとう」
私が小さく返事すると、私の声が聞こえたのかリーダーが振り返り笑顔を見せて胸を叩く。
私は収納庫からコップを出して水を注ぎうがいをする。喉の奥、歯をガラガラグチュグチュペッってする。溶けた雪の周辺にクリーンをかけて、下の土をひっくり返して埋める。
片付けが終わった所で椅子を出して座り、豚肉に合いそうな草や木の実をお皿に出す。木の実や草を風魔法を使い、お皿に傷がつかない様に切り刻む。
乾燥
お皿に乗っている草が乾燥してカラカラになった。
そこに塩とクセの少なそうなキノコを足してスプーンで軽く混ぜる。
はい、収納!
気分もだいぶ良くなってきたので立ち上がり深呼吸をする。冷たい空気が肺に入り気持ちいい。
よし、解体に戻りますか。私は気合いを入れてリーダーの所に歩いて行く。
「リーダー、欲しい部分はどの辺りですか?」
お酒も牛乳も小麦粉も無いからやっぱりホルモンはいらない。欲しい人が貰えばいいや。
「早かったね、もう大丈夫なの?顔色はだいぶ良くなったみたいだね」
リーダーはそう言って川の水でびしょびしょに濡れた手で私の顔に触る。
「冷たっ」
私はびっくりして飛び退くと
「ごめんね」
とリーダーは謝る。
そのリーダーの水で濡れた冷たい手は、先ほどの背中を撫でてくれていた優しい手とは違い、とても心地良かった。