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「卵は割れないよ」
リーダーが言う。
「ああ、お腹の下見てみる?」
リーダーはお腹の肉?皮を持ち上げながら訊く。
私は頷きながら覗き込むと、お腹の下には卵が入りそうなポケットが隠されていた。中身はまあ、あれだ。さっきあげたヤッホーの実が温められている。足の下だと思っていた部分はお腹の皮が弛んでいただけだったみたいだ。
それにしてもこれは皮を被せるとわからない。卵よりも明らかに大きなヤッホーの実が入るのはおかしいと思う。魔力的な、種族的な何かが働いているのかも知れない。四次元ポケットなのかな?
「お腹に袋があるからって割れないわけじゃないよね?どうして割れないと言い切れるの」
あなたはカンガルーですかという言葉を飲み込み、疑問に思った事を聞く。
「?お嬢ちゃんは卵って割った事ある?卵はその卵よりも力のあるものが割ろうと思わない限り割れないんだよ?割れるように念じながら割らないと割れないんだ」
「卵よりは誰でも力があるんじゃないの?私には割れないって事?」
わけがわからない。
「違うよ。力って言うのは純粋な腕力とかじゃ無くて、魔力やその質だよ。基本的には割ろうと思わない限り割れないんだけど、魔力の保有量によっては爆発したり、雛の孵りが早くなったりはするかな?稀に少し変わった個体が産まれてくるみたい」
へー夢でわっちゃいそうだな。あれ?さっきのヤッホーの実って卵?明日実験してみようかな。何か生まれてくるかな?
「さっきヤッホーの実に魔力を注いだら弾けたんだけど、もしかして木にも卵とかあるの?」
「弾けたの?魔力を一気に注ぎ過ぎたんじゃないかな?卵は数日かけてゆっくり優しく注ぐと孵化するんだけど、木の実はわからないかな。卵と一緒に収納してて木の実の中にいる虫が巨大化した事はあったけど、木の実が食べられちゃったから‥虫は格段に美味しかったけど、卵も食べられちゃったし」
「そうなんだ。わかった。明日試してみるよ。ちなみに弾けた時の中の白い部分は少し甘くて美味しかったよ」
魔力を注いでいるからそのまま食べたわけじゃないけど、リーダーも温めてるし、きっとリーダーのも甘くて美味しくなるね。
「本当!やったー。夜にチビチビ飲む予定だったんだ!冷たいとお腹壊しちゃうから今魔力を注ぎながら温めてるんだ」
リーダーはとても嬉しそうに言う。とても可愛い。そんなふうにほのぼのと会話をしていると
「キュオーーーキュキュキュオーーー」
遠くからペンコルドの叫び声が聞こえてきた。
「奴らが来た!」
リーダーは大きな声で指示を出す。
「海より奴らが来た!敵は三匹!見えない場所に隠れている可能性もあり!攻撃班は二つに分かれ半分は向かって左、奴らの右側に回り首に突撃!もう半分は正面から向かって敵を誘導!できれば海で仕掛けたい。急げ!」
ペンコルドの半数くらいが海へ向かう。ペタッペタッ
海を見てみると遠くの方に何かがプカプカと浮いている。夕焼けの逆光でここからではよく見えないが、黒い影が三つ浮いている。海に向かうペンコルドを見てみる。
ペタッペタッペタッペタッ
明らかに遅い。本当に急いでいるのかと思うくらい遅い。
ペタッペタッペタッペタッ
これ、大丈夫なの?
「僕も近くで指示を出す為にいくね、お嬢ちゃんはどこかに隠れてて!」
そう言って駆けていく。ペタッペタッペタッペタッ
バシャバシャ バシャバシャ
海の上に豚が見える。短い手足を動かして小さい二匹は犬かきしながら、大きな一匹はバタフライしながらやってくる。
陸を走るペンコルドよりは速いが、遅い。
これなら私も役に立てるんじゃないか、そう思いながらリーダーに続く。
「私も行く!」
「だ、ダメだよ。危ないから隠れてて。奴らは見た目はとろそうに見えても陸上ではすばしっこいんだよ!それに、嘴すらも噛み砕く歯を持ってるんだから!お嬢ちゃんなんてバリバリ食べられてしまうよ!」
リーダーは足を止める事なく顔だけをこちらに向けて話す。
「私、魔法使えるから!できる事を手伝うよ。仕留められたらお肉分けてね」
私は笑う。少し怖いけれど、奴は豚だ。美味しいお肉だ。何にでも合うお肉だ。欲しい。
「‥わかった。危ないから必要以上に近寄っちゃダメだよ。危ないと思ったら逃げていいからね」
リーダーは渋々了承してくれる。
私はバリアを張る。自分に、リーダーに、そして攻撃班のみんなに。ペンコルド達に光が降り注ぐ。
フワッ
体から何かが抜けていく。たぶん魔力だな。
次に、攻撃班のペンコルド達に速くなる様に魔法をかける。
スピード
フワッと体から魔力が抜けていく。キラキラとペンコルド達に光が降り注ぐと同時にペンコルド達の足が少し速くなった気がする。
バチャバチャ バチャッ
豚達が砂浜に着き、砂浜を踏みしめる。足が重みで砂浜に埋まり歩きにくそうだ。
ペンコルドが海に入るよりも早く、豚達は砂浜に着いてしまった。
鈍足!
豚達に黒いモヤが降り注ぐ。
「ピギーーー」
豚達は声を上げるとニヤニヤしながらノソノソと正面のペンコルドに突っ込んでいく。速い!
パーン パパーン
ペンコルドに突進した豚は弾き飛ばされる。
波打ち際に飛ばされた子豚は一匹動かなくなり、他の二匹は怒りながら突進しようとしている。
「今だ!突撃!」
リーダーが声を上げると、右側に回っていたペンコルド達が
ヒュンヒュン ザクザク ヒュン ブチュッ
大豚の首元に二匹、子豚の首元に一匹突き刺さる。
「ピギャーー」
子豚は倒れて動かなくなり、大豚は雄叫びを上げながらペンコルドを振り落とそうと暴れ回る。
これで仕留められないとペンコルド達には手段が無くなる。少し離れているとは言っても風が吹けば毒の息は拡散されるので使えない。私は、ペンコルドの嘴に当たらない様に、豚の首だけを切断するイメージをしながら風魔法を使う。
ギロチン!
ポーン
暴れ回っていたので豚の首と、ペンコルドが二羽海に飛んでいく。そこで私は意識を失った。