5.教わって魔法練習
「というわけよ!」
というわけらしい。
あの後、俺達は一旦リビングに移動し、フィー自身のことや異世界の存在、今起きているゾンビ達の原因と思わしき他の霊の事など、一通りの話を聞いていた。
「つまる所、フィーが言っていたやる事てのは、妖精の存在を広めることなのか?」
「そういう事! アズマにはその手伝いをしてもらわよ!」
どんな代価を求められるのかとドキドキしていたが、やる事が妖精の宣伝活動とは。身を削るような対価ではない事に安心した。
いや、プロデュース業は中々に身を削るのか?
「そういえば、わざわざパートナーて契約をしたのは何でなんだ?」
ひとつ気になった事を口にする。
「んーとね、あたし達妖精はこっちの世界だと本来の姿でいられなくて、妖力の殆どをうまく外に出せないの。だからあたしの妖力を、契約を結んだパートナーの身体を介して使ってもらおうってわけ! そうして使われる妖力を、俗に魔法と呼ばれているわ!」
魔法はフィーがさっきから言っている奴か。
先程も自分で使った魔法を思い出すが、更なる疑問が湧く。
「けれどさっき放った銃は、魔法ってよりもっも純粋なエネルギーの塊ぽかったぞ」
「あれはアズマが、妖力を込めて飛び道具から放つっていうイメージで浮かんだ攻撃だからよ! 魔法っていうのは、イメージを持って出された力の総称のこと。そんでもって、あたし達の妖精魔法の特徴は明確に何をするかっていうイメージを持って発動する事で、色々なことが出来る様になるの! 幻想魔法なんても呼ばれていたわ!」
なるほどな。
たしかにあの時、何だかエネルギービームみたいだなと思い浮かべていた。
それならば何かある度にアレをぶっ放す必要はないのか。
「フィーのことは大体分かったし、この後の事を決めてもいいか? 世の中がこんな状態じゃ、明日からまた学校に通ってくださいとは行かないだろうし」
たぶん今から学校に行っても仕方がないだろうし、かといって2度寝を決め込むような状況ではない。
やはり家族の安否は気になるが、不在着信以降、連絡を折り返しても一向につながらない。
家に戻ってくる可能性もあるが、もし帰ってこれたとして、今の世情ではその後篭城し続ける事になるだろうか。
ここで待っていた方がいい気もするが、そうなった場合、今ある家の備蓄では2日と持たないだろうしなあ。
食料調達ぐらいは、今のうちにしておいた方がいいか?
今後も人がゾンビへと変わっていくならば食料の入手なんてほとんど出来なくなるだろうし、人口も比例してどんどん減っていって……ん? そういえば。
「なあ、このまま人類がどんどんゾンビになっていったら、フィーの目的って達成できなくないか?」
フィーの目的は人間達に妖精の伝承を広める事であるが、その人間が皆ゾンビになったんじゃ広めようがないのでは……。
「ああああああああたしかに!? このままだと人間は減っちゃって布教できないじゃない!」
驚愕の事実と言った様子でフィーが叫び出す。
やっぱりそうだよな。
「あのゾンビ達って、一度ああなると元には戻らないのか?」
ファンタジー由来のゾンビならば浄化何て事もあるのかと思い聞いてみる。
「たとえ戻ったとしてもそれはただの屍だわ。亡くなった者は生き返らないもの」
つまり人類全員がゾンビになってしまったら積みなわけか。
「方針は決まったわよ! ゾンビを減らして人助け! 元凶を倒して根本改善!」
「いやいやそんな世界の救世主みたいな事俺にはできないって」
「魔法があればできるわよ! 覚えて! 今から教えるから魔法ちゃんと覚えて!」
先生がとても教育熱心になられた。
フィーの目は揺るぎなくメラメラと燃えている。
「試しに、この熱い思いで火を出してみましょう! この左手の紋章がお互いの回路を繋いでいるから、そこから妖力を手のひらの上に流して変換するイメージよ!」
スイッチの入った先生の授業は早かった。
物は試しと言われるがまま、手に火を灯すイメージをしてみると、手のひらには、ライター程度の小さな火が揺らめいた。
「おぉ! 一発で上手くいけた! 天才か!?」
上手いこと火の灯るイメージが出来て、これが魔法かと感動する。
「よわーーーい! もっとゴウッ! と出さなきゃ! そんなんじゃあたしを美味しく炙れるぐらいよ!」
が、先生からは何やら不満の声が叫ばれた。
「そんな事言われても……。燃え盛れなんとかファイアーみたいのやればいいのか?」
「えぇ……何かしらそのなダサい響きの掛け声……。じゃなくて、魔法はイメージよ! 何か参考になるようなものは無いのかしら?」
ふーむ。
俺はおもむろにスマホを開き、総合動画サイトに行く。
『炎 魔法 ゲーム』
日本にはファンタジーなゲームが充実している。
そういったゲームの動画を参考にすればイメージがしやすいかと思ったのだ。
「お、このゲームの動画とか良さそうだな」
検索にヒットした動画の中からそれっぽいのを開いてみる。
動画ではキャラクターが呪文を唱えると、手のひらの上で燃え盛るように炎が揺らめていた。
俺は映っている炎魔法の見た目を再現するように、左手にイメージを固めていく。
直ぐに左手から温かさを感じて視線を向けると、動画に映るものと変わらない、ゴウゴウと燃え盛る炎が出来上がっていた。
「本当にできたな」
上手いことできちゃった。本当にイメージ次第で色々とできそうだ。
「まぁまぁね! 基本的に、妖精魔法の基礎は自然現象の延長線上よ! 何でも出来るとはいったけど、水は出せても、食料は出せないとか、あとはあたしの妖力属性によっても得意不得意はあるから、その辺は気をつけてね」
なるほどな、万能って訳ではないなら、今後は何か思いついたら、魔法として出来るのか試して行くのが良さそうだな。
魔法のレクチャーはこんなものだろう。
この魔法が使えればゾンビがいてもある程度外を歩ける気がする。
さっきも考えていたが、やはり食糧調達には出た方がいいよな。
「フィー、今から外へ行こうと思う」
「さっそくやる気ね! 魔法を覚えたアズマはもう無敵だわ! 行っちゃいましょう!」
「いや、そこまでガンガンイケイケでは無いのだが?」
「すぐブレーキかけるわねー」
俺の返事にフィーが不満そうだが、とにかく。
俺達は物資を求めて家を出ることにした。




